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メディアグランプリ

彼女の声はイリュージョン


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山﨑陽子(ライティング・ゼミ冬休み短期集中コース)
 
 
「ゆっくり鼻から吸って……ゆっくり鼻から吐いて……」
優しく語り掛けるような言葉に促されて私はゆっくりと呼吸を繰り返す。
 
街の再開発のため古い建物が壊されて、どんどん新しい建物が増える。
(またこんな大きなマンションが建つのだな……)
と見上げながら私は道を挟んで反対側に建つオシャレな建物の2階に向かって階段を駆け上がる。
「こんばんはー。よろしくお願いいたします」
「こんばんはー。こちらこそ。どうぞー」
中で待っていたのは昔からの友人Kさん。彼女とは10年以上のお付き合いで家族同士も付き合いがある仲である。そんな彼女がヨガインストラクターの資格を取ってスタジオで教室を開くと聞いた。身近な友人がいつの間にかすごい人になっていたことに驚く。
 
私は元々すごく落ち込みやすい。一度落ち込むと滑り台で滑り落ちるような感じだ。滑り台ならまだしも、それがウォータースライダーの時もあれば雪山の頂上からソリに乗って一気に滑り落ちることもあるぐらいだ。
「ヨガやってみない? 今の陽子ちゃんにはヨガが合っていると思うよ」
そんな言葉で誘ってもらった。
 
彼女とそれぞれのヨガマットの上に向かい合って座る。広い空間に二人だけ。
まだ他の生徒さんはいない。個人レッスンのようだ。
私は彼女にヨガを習う以前に、何度かヨガをしたことがあった。しかし、呼吸が体に入っていく感じとか全然わからなかったし、体に効いている手ごたえさえも感じたことがなかった。そのことを正直に話すと呼吸の「こ」から教えてくれた。
 
二人だけの空間に静かに流れる癒しの音楽と彼女の声。ゆっくりと優しく語りかけてくれる声にどんどん体が解放されて力が抜けていく感覚になった。
鼻から吸って、鼻から吐く。それを何回も意識して繰り返す。ただそれだけをやった。
彼女の優しい言葉に誘われてゆっくりと深いところに入っていく感じ。
なんて言えばいいのかな?
テレビで人間が宙に浮いているイリュージョンを見たことがあるだろう。私はまさに彼女の言葉によって身も心もフワフワと軽くなり宙に浮いている感覚になったのだ。
そしてまた彼女の声によって体がゆっくりと地面に戻されていく感じ。
「はい、目を開けてください」その声でゆっくりと目を開けると彼女が目の前で座ってこっちを見ていた。私は本当にイリュージョンを体験したのか? と不思議な気持ちになった。その日の夜、私はいつになくとっても深く寝られたのだった。
 
それから私は彼女のヨガ教室に通うようになった。あのイリュージョンの虜になったのだ。
呼吸がきちんとできるようになってくるといろんなポーズもできるようになって楽しい。相変わらず彼女と二人だけの空間だったけど、他の生徒さんにも彼女の優しい言葉に導かれるこの空間をぜひとも味わってもらいたいといつも思いながら通った。
 
しばらくたって、コロナウイルスの流行に伴い教室もお休みになってしまい、代わりにzoomでのレッスンに参加させてもらっていた。
そんな時、また私の悪い癖が出てしまった。心がソリに乗って急降下してしまった。
何もうまくいかない。何を食べてもおいしくない。誰といても楽しくない。
私の心を乗せたソリはすごい速さで滑り落ちていく。
そしてついに私は彼女のヨガをお休みすることにした。
 
ソリが止まったのは1か月半ぐらいたってからだった。
相変わらず何もうまくいかなかったし、何を食べてもおいしくなかったし、誰にも会いたくなかった。それでもなぜか彼女のヨガには戻りたいと思った。また彼女の優しい言葉で導いてくれるあの空間に戻りたいと思った。
身勝手な私の都合でお休みしたのに、彼女はまた私が参加することを快く引き受けてくれた。
 
Zoomでのヨガに久しぶりに参加した。
あー、この感じ……そうこれだわ……。休んでいたけど体はちゃんと覚えてくれていた。
終わる頃には寝てしまうこともあり、恥ずかしさのあまり飛び起きることもあった。
いつの間にかなんとなくうまくいくことが増えた。ご飯が美味しくなってきた。
そんな時に彼女がスタジオでアロマとキャンドルを使ってクリスマスナイトヨガをすると連絡があった。私は迷うことなくすぐ参加の連絡をした。
 
見上げると建設中だったマンションに幾つかの明かりが灯っていた。テナントに学習塾が入っていて熱心に勉強している学生の姿も見えた。
オシャレな建物の入り口には大きなクリスマスツリーが立っていた。その脇の階段を駆け上がる。私は久しぶりにスタジオに来た。
 
「こんばんは」
「こんばんはー」
あの時と変わらない。入ると私以外の生徒さんもたくさんいた。何だかうれしい。
スタジオはアロマとキャンドルで幻想的な雰囲気に包まれていた。
 
目の前のキャンドルの火がユラユラと動く。その炎の揺れを眺めながら泣きそうな私がいた。
(またここに戻って来られた。本当によかった。ありがとう)と心の中で呟く。
「皆さんこんばんは」彼女の優しい言葉によってヨガが始まった。
そしてまたクリスマスの夜も彼女の声に導かれイリュージョンの虜になった。
 
 
 
 
***

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2021-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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