箱根は、ツンデレ。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鳥山幸大(ライティングゼミ・冬休み集中コース)
ざばーーーー、頭からお湯を浴びた。体中ザラザラしていて、気持ち悪かった。浴びたお湯と一緒に、たまりにたまった疲労も一緒になって、排水溝に吸い込まれてほしかった。
もう一度浴びた。口の隙間から、塩っ辛いお湯が入ってきた。変だなと思い、蛇口からお湯を出し少し舐めてみた。真水だった。銭湯の熱気で書いた汗が目めがけて滑り降りてくる。それを防ごうと、手で額を拭う。違和感があり、手を見みると、白い結晶がいくつもあった。
「あ、そうだった。今日も、100キロこいだんだっけ。」
疲れで、ぼーっとしていた。立っているだけで精一杯だった。
シャワーを浴びるだけで、肌がヒリヒリした。
太陽が面白がって、僕の体でオセロしている。もう黒の圧勝で勝負は終わったはずなのに、まだ続けて、僕を痛めつけていた。
銭湯を後にし、フラフラとした足取りで、仮眠室へと向かった。
明日は、箱根を越えるぞ。そう胸の中で行って目を閉じた。
おじさんのいびきと湿布のにおいが気になるが、いつの間にか、泥のように寝ていた。
この時僕は、自転車で長距離走った経験がないにも関わらず、茨城と京都の往復1200キロを10日で走りきるという無謀な挑戦をしていた。そしてこの日、8日目は、静岡県の沼津市で、最大の難所、箱根越えに備え、休んでいた。往路は、箱根を避け、熱海へ迂回したが、熱海の峠にたたき潰された。まさに、強い相手を避けて、弱い相手を選んだにもかかわらず、負けたような状態。箱根は、僕にとって因縁の相手であり、仁王立ちをし、行く先に立ちはだかっていた。
周りの誰よりも先に起きて、出発の準備を始めた。
体の状態を確認するが、ふとももが悲鳴を上げていたが、気づかないふりをして、駐輪所へ向かった。今にも泣きだしそうな空模様だったが、箱根を目指して、ペダルをこぎ始めた。
1号線にたどり着けば、あとは無心でペダルをこぐだけでいい。そんな思いで、1号線を目指した。少しずつスピードを上げて、急いだ。雨が降る前に箱根を突破したかった。
もう少しで1号線、google mapを確認した。まだ地図上で緑になっている峠までは距離がある。もう少しスピードを上げていこう。
1号線に合流してから、景色が変わった。
坂だ。住宅地を貫く急な坂道。
聞いてないぞ。地図で見れば、真っ平。心の準備位させてくれよ。そう心の中で愚痴った。
主役の前に出てくる坂。
まるで、前菜・オードブル。メニュー名は「町中の急坂~コスモスを添えて~」
少しも笑えないボケを閉じ込めて、先を急いだ。
ザ・峠のような、道にたどり着いた。右側は草、反対側は飛ばす車。足の様子を見ながら、できるだけペダルを回した。激坂ではないが、永遠と続きそうな坂にエネルギーを奪われ、休もうと思い、道路わきに腰を下ろした。道端でうなだれていると、通り過ぎていく車からは、不審な目、すれ違うベテランライダーには、見下しているような目で見られた。
ついに、こらえきれなくなって空が泣き出した。幸い橋の下のようなところにいたので、濡れるのは防げた。雨か…、スープじゃん。またくだらないことを思いついた。
2品目スープ「秋雨の冷製スープ」
そんな考えをかき消すかの如く、素早くかっぱをがんじがらめに荷台に縛ってあるバックの中から取り出し着た。
頂上を目指し、再スタートをした。永遠と続く坂、国道1号線を突き進む。雨がやまない。
耐えられなくなった。暑すぎる。
カッパの中が、汗と蒸れで、サウナ状態になっていた。まるでポワレ(蒸し焼き)にされているかのようだった。3品目にぴったりの調理法だったが、肝心の魚が山にいるわけもなく、魚料理はあきらめた。
死活問題発生。命綱だったスマホがネット接続を拒否してきたのだった。汗で濡れたポケットに長い間入れられ、へそを曲げたのか。左上にSIMなしという文字が見えた。その字が絶望に見えた。何とか、Wi-Fiをひろって、経路を再確認したい。この辺は旧道があり、そこに入ったら迷う自信があった。ここから先コンビニなんてあるはずがない。野生の勘を頼るしかないと思ったその時、右手に無駄に大きい橋があり、周辺が観光地となっている三島スカイウォークが見えた。助かったと思い、入り口へ行ったが、営業時間外。まだ8時にもなってなかった。
苦しかった。
いくらこいでも先に進まない。
一番軽いギアなのに思い。
滝のように流れる汗。
悲鳴を上げる太もも。
呼吸するのが苦しかった。
1こぎするたびに、もうやめたいと訴えてくるからだ。
そのたびに、逃げちゃだめだと自分に言い聞かせた。
どのくらいたったのか、どれくらい進んだのかわからなかった。
前方に標識が見えた。
箱根峠・標高846メートル。
誰もいない山の中で叫んだ。
リベンジ成功。
天にも上るような気持だった。
僕の到着を祝福するかのように、太陽が顔を出した。
さっきまで、あんなに意地悪してきた箱根峠が表情を変えた。
天気さえ変えて、祝福してくれる。
箱根は、ツンデレだった。
早めの昼食をとるために、こぢんまりとした暖簾をくぐった。
ヘルメットを着けたままだったので、
どこから来たの?と看板娘さん(お婆ちゃん)に聞かれた。
胸を張って、「茨城から京都へ、今はその帰りです。」自信満々に答えた。
あまり、興味を示さなかったのか、軽く流された。
膨らんだ胸がしぼんでいくのがわかった。
あとは下るだけだ。そう思い、ペダルをこぎだした。
だんだんと遠ざかっていくが、
後ろのほうで、箱根が応援してくれている気がした。
***
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