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本棚という「鏡」が映すもの


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記事:住田薫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
人の本棚を見るのは楽しい。
人の頭の中を勝手に覗いているような、背徳感がある。
 
小さい頃、何気なく父の本棚を眺めていたときのことだ。
『説得力』、『アマチュア無線』、『将棋の理論』、『孫子の言葉』……
 
――あれ、この本棚、“お父さん”みたい。
 
父は、ケンカ早くて(手が出るやつじゃなくて、口でするやつね)、しかもそのケンカにはだいたい勝っていて、理論立てて詰めてくる父に、私は勝てたことがない。まわりにはアマチュア無線の仲間がたくさんいて、経営者として我が道を行く、そんな人だった。
 
父の本棚は、父のクローンのようだった。
 
父の本棚なのだから、父の趣味の本や、仕事の本があるのは当たり前、ではある。小さい子どもだったから、すべての言葉の意味を正確には理解できてはいなかったと思う。
それでもなにか、父の“構成要素”が判明したような、タネ明かしをされたような、舞台の裏の楽屋を見たような、そんな気分になった。
内面に踏み込んでしまったようなソワソワした心地と、好奇心が入り混じり、とてもドキドキしたのを今でも覚えている。
 
以来、人の本棚をジロジロ見るのがクセになってしまった。
 
本棚はけっこうおしゃべりだ。
普段はキッチリしていてお堅い印象だけど、意外とミーハーなんだな、とか。
チャラチャラしているように見えるけれど、めっちゃ本読んでるな、とか。
 
本棚は、その持ち主の趣味や思想を映し出している。
ときには、本人ですら自覚していない内面でさえも。
 
友人がオススメのアプリとして、持っている書籍を管理するツールを紹介してくれたことがある。
本のバーコードを読み取って、簡単にブックリストを作れるのだという。
私が面白いと思ったのは、《小説》、《アート》、《雑誌》のように、本を分類ごとにソートできるという機能だった。
 
「リスト化してみたら、持っている本は《アート》と《化学》の割合が3:2だった。アートのほうが少し多かったんだよね。同じくらいかと思ってたんだけど」
 
楽しそうに、でもどこか感慨深そうに、はなす。
 
「で、《アート》の中だと、《歴史》、《日本画》、《色材》の割合が予想以上に多くてちょっとおどろいた。なんか、自己分析にもなったわ」
 
本棚は、興味のおもむくままに手に入れていった、本の蓄積だ。
あらためて全体を見渡すと、自身でも気がついていなかった「興味」や「思考」の方向が、映しだされていたりするのだ。
 
本棚は、その持ち主の内面をうつしだす、鏡のようだ。
 
「自己分析」という見方をすれば、本一冊一冊の選択だって、より一層「今の自分」をうつしだしている、と私は思う。
 
数年前、友達から料理教室に誘われて体験会に参加したときのことだ。
楽しかったのに、その後「また行こう」と思えず、それが自分では不思議だった。
お料理自体は、キライではないのになぜだろう?
本当は、そんなにスキではないのだろうか?
などとモヤモヤしているときに、図書館の料理本の棚を見ていて気がついた。
 
私が教わりたかったのはこれだ……!
 
『レシピを見ないで作れるようになりましょう』、
『料理のコツ解剖図鑑』、
雑誌『dancyu』のおにぎり特集号……
 
手にとったのは、こんな本たち。
どれも、単なる「レシピ本」ではなかった。
 
載っていたものは、たとえば、野菜の切り方について。
繊維に沿って切ると道管が残るので、食感がシャキシャキとしたものになる。だからサラダやチンジャオロースのような、歯ごたえを楽しみたい場合は、タテに切る。
逆に、ヨコに繊維を断つように切ると、食感は失われるが、火の通りが早くなったり、塩をふったときに早く水が出る。だから肉じゃがやシチューに向いている、とある。
 
おにぎり特集では、「塩を極める」と題して「塩田の歴史」から「海塩の種類」まで、「塩」をテーマに様々な切り口で記事が書かれている。
 
ちょっとした料理のコツを、具体的に、論理的に、まとめてあるもの。
あるいは、一つの食材や調理方法について、徹底的に深堀りしているもの。
それが私の惹かれた本たちだった。
 
世の中には、レシピがあふれていて、ちょっとネットで検索すれば、簡単に様々なレシピを手に入れることができる。
でも、私が欲しいのは、そんな一品一品の端的な“レシピ”ではなくて、もっと根本的なものだった。
なぜその材料を使うのか、なぜその順番で作るのか、なぜその切り方をするのが良いのか。そういう、ものすごく基本的な知識や知恵が、総合的な“料理力”を上げると、そのときは考えていたのだ。
その料理教室では、皆で一緒に楽しんでつくることに主眼が置かれていたため、あまりそういった知識の“深堀り感”が楽しめなかった。私が求めている「教室」ではなかったのだ。
 
「何に気になっているのか」を、「手にとった本」を通して理解した瞬間だったと思う。
沢山ある中で光って見えた本は、「今の私の内面」を映しだしていた。
 
そうか、この本棚も「鏡」なんだ。
 
それから私は、悩んだときは、本棚に向かうようになった。
就活に悩んだとき。
夜眠れなくなったとき。
心のモヤモヤをうまく言葉に出来ないとき。
本棚のあいだをじっくり歩いて、ズラッと並んだ背表紙を追いながら、自分に刺さる言葉を探す。
 
本棚は、人の内面をうつしだす鏡だ。
持ち主の興味の先を。
自身の心の奥底を。
 
私の本棚は、節操がない。
 
『海辺のカフカ』の隣に『茶室学』、『演劇入門』、『数学する身体』、『ビジネス英会話』……
 
浮気性の私を、よくあらわしている、と思う。
 
 
 
 
***

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2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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