メディアグランプリ

本当はジョーにもエイミーにも、めちゃくちゃなってみたかった


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記事:河瀬佳代子(リーディング&ライティング講座)
 
 
2020年6月12日、映画『若草物語』がようやく公開になった。大の若草物語ファンとしては見逃せない作品なので早速鑑賞に行った。映画を観ながら、この本を初めて手に取った日のことを思い出していた。
 
私が初めて読んだ『若草物語』は、偕成社の「少女文学シリーズ」の中の1冊だった。
四姉妹が寄り添っている表紙の絵は今でも思い出せる。
巻き髪の青い服のメグは、社交界に憧れる夢見がちな女の子だけど、長女としての責任感も兼ね備えている。
栗色の髪で大人しそうな表情の三女ベスは内気だけど義理堅く、自分の世界を大事にする。
四女のエイミーは末っ子らしく甘えん坊のちょっぴりわがままさん。金髪を左右2つに結んで1人だけニコッと笑っていた。
そして長い黒髪を後ろにキリッと1つに結んでいる主人公のジョーは、文学が好きなおてんばで将来小説家を夢見ている。
 
私はこの本を、一体何回読んだことだろう。
500回? 1000回? もちろん、自分が何回読んだかなんてちゃんと数えてなんかいないけど、それ以下でもないような気がするくらいは読んでいる。
だってそこから数十年経った今でも、鮮明にどんな文が書かれていたか、挿絵まできちんと記憶しているのだから。
初めて手にした小学生の時、朝起きて布団の中で読み、学校に持って行って読み、帰宅してまた読み、とにかく読まない日はなかった時期があった。
最後には、読みすぎて本がボロボロになって、半分くらいから本がくたっと曲がって背表紙が壊れてしまった。そのくらい、好きだったのだ。
 
あの頃、『若草物語』を読みながら、いつも考えていたことがある。
「私にも、こんな姉妹がいたらよかったのに」
 
私には3歳下の弟がいる。幼い頃でも弟は1人前に「自分の方が強い」と思っているから、何かあるとことごとく姉の自分に反抗する。小さい時は、心底どうでもいいことでケンカしていた記憶しかない。
弟とケンカした時は大抵負けた。そして泣きながら決まって母にこう言ったものだった。
「お母さん! 私、妹がほしいんだけど!」
「突然何を言い出すのかと思ったら。どうしたの?」
「妹がいたら、妹と私で連合軍を作って、弟に反撃してやるんだ!」
「そう言われてもねえ」
言われた母はいつも、苦笑いをしていた。今考えると当たり前なのだけど。
「絶対にやっつけたいから、妹産んでよ! お願い!」
全くしょうがないお願いだけど、あの頃は真剣だった。
 
そして私が長女だったからか、小さい頃はこう言われるのがお決まりだった。
「お姉ちゃんは、真面目だね」
「お姉ちゃんは、きちんとしているね」
子どもの頃、私は「しっかりキャラ」を演じていたような気がする。「甘える」なんてことは自分の中でもってのほか。だから、『若草物語』の中でも、わがままっぽい末っ子のエイミーみたいな生き方が理解できなかった。
 
大人の顔色を見て行動するような子どもではなかった。でも自分が弾け切っちゃったらいけないんじゃないか? と思うことはよくあった。親を困らせることはしない方がいいんじゃないかと、自然にそんな感覚になっていた気がする。
 
ふざけ切れない長女は損することも多い。なぜなら周りに上手に甘えられないからだ。甘えてもいいときに、甘え方がわからない。だから若草物語のメグの気持ちがよくわかる。自分がやりたいことがあるけど、家族のためにどこか一歩引いてしまって上手く伝えられない。そのくせ反面頑固で要領が悪い。メグの、世渡りが下手なところがまるで自分みたいで、勝手に共感していた。
 
だからジョーのように、これと決めた夢に向かって脇目も降らずに突き進む強さや、エイミーのように「甘える」と「わがまま」の違いをちゃんと区別して欲しいものを手に入れる器用さが自分にもあったらな……と、読むたびにいつも思っていたのだった。
 
時は経ち、大人になった私は、実写化を機にルイザ・メイ・オルコット著、麻生九美訳『若草物語』(2017、光文社古典新訳文庫)を買い直して読んでみた。
自分は目の前のことだけを実直にこなすしかできない、メグみたいな半生だったけど、やりたいことを1つずつ実現していくジョーもカッコよかったし、どこまでも慈愛の人であるベスの生き方も好きだし、そんなこと言われたら絶対みんなお願い叶えちゃうでしょ! みたいにちゃっかりしたエイミーの人生も、今だったら「それも全然OK」と受け入れられる。改めて読むと、本当は姉妹それぞれの生き方が好きだったのに、上手に取り入れられなかったのは自分だったのだとわかる。
 
1度きりの人生、どう生きるかは自由。
それでも人間なんてそんなに器用じゃないから、持って生まれたようにしか生きられないこともある。たとえ他の人の振る舞いに憧れていても、できなかったことはたくさんあった。
そんな自分の内なるささやかな願望を幼い頃から満たしてくれた物語、それが『若草物語』だ。四姉妹のキャラクターが、変われなかった頑固な自分を代弁してくれるかのようなストーリー。昔も今も、そこに惹かれる気持ちは変わらないのだ。
 
 
 
 
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2021-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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