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可能性を試すことは、思いもよらない出会いへの扉である。


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記事:増嶋 太志 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もしかしたら、自分にも何かできることがあるかもしれない」
そう思った私は、思い切って飛び込んだ。
 
2011年、東日本大震災が起きたあと、ゴールデンウィークの9日間を使って、私は宮城県石巻市でボランティア活動をした。現地に知り合いがいるからでも、訪れたことがある場所だからでもない。テレビや新聞で報道される被災地の情報を、ただ受け取っているだけの自分が嫌だった。何も関係ないような顔で仕事をして、被災地の状況をテレビで見ながら食事する自分が嫌だった。なにより、頭ではそう思っているのに、何も動いていない自分が心底嫌だった。
今思えば、会社の仕事に嫌気がさしていたからこその現実逃避だったようにも思う。目の前の仕事をすることがひいては経済を回し、大きな意味で誰かのためになっているということが、そのころの自分にはまったく理解できていなかった。
 
ボランティアの受け入れも少しずつ整っているような話も聞こえてきたころ、好きな作家である高橋歩さんのホームページを気になって見たら、「家族で世界一周中だったけれど、東北で震災が起きたから、日本に帰ってきた。ボランティア活動を開始したので、来れる人は来てほしい」と募集していた。私は「これだ!」と思った。
新幹線と夜行バスと電車を乗り継ぎ、宮城県に初めてやってきた。ボランティア団体の担当の方と合流して車に乗せてもらい、活動場所まで向かう。車内から外を見ると、がれきしかない街の景色が当たり前のように流れていた。その街並みは、圧倒的な自然がもたらした傷の大きさと深さをひたすら物語っていた。
訪れた石巻市の渡波(わたのは)地区は、街のすぐとなりを海岸が走っている。震災によって車や建物などのほぼすべてを津波が飲み込んだ場所だった。私達が移動する車の音と時折すれ違う車やトラックの音以外、街はしんと静まり返っている。住人の方々は避難所に集まって生活しているため、街には人の気配をほとんど感じられないのだ。そんな感覚もまた、初めてのことだった。
 
震災後まだ1ヶ月ちょっとということもあり、大半のボランティアが住宅の中から出した家具や畳をトラックに積むという作業にあたった。10人くらいで一つのチームをつくり、各チームはそれぞれのエリアに分かれて活動する。割り振られた私も他の人の動きを見ながら、机や椅子などを運んだ。マスクとゴーグルをしながらの作業など初めてで、呼吸はしづらく、視界も悪かったが、黙々と手と足を動かした。家屋の中にまで入ってきた濁流によって、家の中に残ったものは例外なく泥にまみれている。きれいに洗えば使えるものもあるかもしれない。けれど、「津波に飲まれた」という記憶だけは洗い流せるわけではない。家主に許可をいただいた家屋から順にチームで入らせていただき、家の中のものを外に出していく。「これが被災地でのボランティア活動なんだ」と言い聞かせ、目の前の現実に自分を馴染ませていった。
作業にあたる人たちはみんな無言だった。リーダーの指示とそれに対する返事くらいで、わたしたちは無心で作業をしていた。津波に飲み込まれ、傷を負った街の静けさが、私たちを作業に没頭させたのだった。
 
夕方になり、1日の作業が終わると、ボランティア団体の拠点であるキャンプ場まで、車で1時間ほどかけて帰った。キャンプ場では、同じボランティア団体の食事班がつくってくれた食事が待っている。食事は最高においしかった。「純粋に味がおいしい」ということの他に、「ヘトヘトになるまで体を動かしたから」ということもある。また、キャンプ場だからこその「開放的な自然の中で食べているから」ということもある。けれど、なにより、「一緒に汗を流した仲間と食べているから」ということに気づくまでに、あまり時間はかからなかった。ボランティアに来た理由は違えど、「被災した方々の力になりたい」という気持ちは皆同じである。1日でも一緒に同じ作業にあたれば、「自分たちは仲間であり、同志だ」という感覚が確実にそこにはあったのだ。
 
その感覚を意識し始めてから、私自身も声を掛け合いながら作業にあたった。すると、ボランティア仲間の笑顔を見る機会が増えた気がした。自分に少しずつ余裕が出てきたからかもしれない。被災地でのボランティア活動なのに、心が活き活きとしていることに驚いたのだ。そんな私たちの姿を見た現地のみなさんも、喜んでくれたことがなによりうれしかった。「元気なあんたを見ていて、こっちも元気をもらえた」と声をかけてくれる人もいた。ありがたい出会いが訪れる度に、だれかのために一緒にがんばることや自分から明るく元気でいることが、これほど人の心も明るくするのだと知った。
 
「もしかしたら、自分にも何かできることがあるかもしれない」という思いから飛び込んだボランティア活動で、共感できる多くの仲間や現地の方々と出会い、自分の行動が目の前の人の力になっていることを肌で感じることができた。そして、それらの経験が今の私をつくっていると、こうして振り返ることで思い出せた。何ができるかはわからなくても、動いてみることでわかることがある。「もしかしたら」と可能性を試すことは、思いもよらない出会いへの扉なのだ。
 
 
 
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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