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レコードライブラリー


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋実尚(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
昨日、久しぶりに図書館にいった。通信講座の勉強のためだ。
 
ディナーの時間も近づいている。フレンチかイタリアンのどちらにするか、迷い顔でそわそわしていたレファレンス係の女の子に、貸出カードを渡して自習室の席を借りた。この図書館は貸出カードと引き換えに自習室の席を確保する仕組みだ。
 
三階にある自習室へ登りながらこんなことを思い出した。
 
今からはるか昔、当時中学一年生だったの夏休みの出来事だ。私は数学の宿題と格闘すべく友人と図書館で待ち合わせた。その友人は成績が良く裕福な家庭で育ち、いつも私に勉強を教えてくれた。
 
当時はエアコンなどまだまだ普及していない。中学一年生が大人に叱られることもなく長い時間、暑さからの避難できる場所は図書館しかなかった。
 
大きな窓からは、自習室に送り込まれるエアコンの冷気など意に介さず、強烈な午後の西日を照りつけてくる。汗は吹き出して止まらない。すでにハンカチはビショビショだ。
 
「ダメだ! 暑い! ちょっと、レコード・ライブラリーいかない?」と友人が話しかけてくる。
 
「えっ、レコード・ライブラリー? なにそれ?」
 
「あっ、知らないの? レコード聴けるとこだよ」
 
友人に促され自習室を出て通路の奥にあるレコード・ライブラリーに入った。
 
はじめて入るその部屋は、左側に6台ほどのレコードプレーヤーが置いてあり、そのうち3台は回転している円盤の上で針が踊っている。右側の棚にびっしりとレコードが並んでいる。はじめて見る光景に私はどうしたらいいのか、道路を横切る猫のように一瞬迷った。
 
ヘッドフォン2つと1枚のLPレコードを借りた友人がレコードプレーヤーの前で、こっちこっちと手招きをする。我々はヘッドフォンをアンプに繋いだ。友人はレコードをターンテーブルに載せ、ジャケットをいかにも日曜大工で作られた粗末な棚に立てかけたあと、レコード針を静かに溝に落とした。
 
そのジャケットは周りが赤く縁取られ、外国人の若い男性4人がビルの吹き抜けから、私たちを見おろしている。33回転で回りはじめたレコード。ハーモニカのイントロがヘッドフォンの中でなりはじめる。「ラヴ・ミー・ドゥ」だ。そう、彼が持ってきたレコードは「ザ・ビートルズ1962年〜1966年」1973年4月19日にアナログLP2枚組で発売されたビートルズの前期のベスト・アルバム、いわゆる赤盤だ。
 
ちょんちょんと私の方を指で小突く友人は左のイヤパッドをずらして「これ、ビートルズっていうんだけど知ってる?」右のそれをずらして私は「知らない。はじめてきくよ」と答えた。
 
それまで歌謡曲しか聞いたことがない私は、外国のロックという音楽をそのときはじめて聞いたのだ。だいいちハーモニカから始まる楽曲など聞いたことがない。ただただスゲーっという感想しかない。そんなカルチャーショックを受けている13才の男の子を尻目に、レコードの針は溝の中をどんどん進んでいく。
 
身体は自然に左右にリズムをとる。気恥ずかしくなった友人がやめろよ! と足で軽く蹴ってくる。はっと気づいた私の顔に赤みがさす。4曲目は「シー・ラヴズ・ユー」ドラムのフィルインに続き、すぐにサビの部分から曲が始まる。こんな曲の入り方もはじめてた。身体の震えが止まらない。
 
針の溝が6曲目にはった途端、私の身体に電流が走った。曲にはイントロがなくいきなり曲がはじまる「オール・マイ・ラヴィング」だ。なぜこういうことが考えつくんだと、数学の宿題や隣にいる友人のことなどすっかり忘れ、ひたすらのめり込んでいく。もう The Beatles という音楽に取り込まれてしまったのだ。中学校を卒業するまでの3年間を共に過ごすことになる。
 
あの衝撃的な出会いの思い出を振り返りながら薄暗い廊下の先に足を向けたが、「レコードライブラリー」のプレートはない。扉には入れないように鍵がかかっている。私が洋楽に出会った部屋はもうないのだ。
 
ビートルズにはイントロがない曲がおおい。All My Loving、No Reply、Help、We Can Work it Out、Girl、Hey Judeと6曲もある。最初の3曲はアップテンポのロックンロールだが、あとの3曲はミドルテンポの曲だ。ビートルズはイントロがない曲を得意としていることがわかる。
 
CDの販売からストリーミングへと音楽媒体が大きく変わった。曲は最初の5秒で判断されるようになった。ストリーミングサービスは30秒以上聴かれないと再生回数にカウントはされない。クローズボタンを押されないためにミュージシャンは最初の30秒に血道をあげざるを得なくなっている。近年イントロなしでサビから入る楽曲が多くなったのはこのためだ。
 
ビートルズを聞いたことがない人は、ぜひさきほどの6曲を聴いて欲しい。どの曲もサビからは入っていない。Aメロから入っているのだ。そして題名、曲の長さ、中学生レベルの歌詞と The Beatles こそストリーミング時代のための楽曲だ。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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