サプライズは唐揚げのレモン
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか？賞を取れるのか？プロも通うのか？〜
記事：前田理香（ライティング・ゼミ日曜コース）
「女性ってサプライズが好きなんですよね？」
昼休みに入った途端、後輩のＡさんが話しかけてきた。
サプライズが苦手な私は「いきなり何？」と言いつつ、Ａさんが半年ほど前に、「生まれて初めて彼女ができた」と嬉しそうに話していたのを思い出した。
詳しく話を聴くと、「付き合って初めてのクリスマスなので、インターコンチを予約したんです。驚かせようと思って、当日まで彼女には秘密にしようと思っているんですが、部屋の中に花束とか用意した方が良いですよね？」と満面の笑みで言うＡさん。
横浜の人なら誰でも知っている、ヨットの帆を模した高級ホテル「ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル」を予約したらしい。随分と張り切っているのが伝わってくるが、私の顔は引きつった。
「ちょっと待って。お泊りなのに当日まで言わないつもり？」
「はい！ サプライズで、喜ぶ顔を見たいんです！！」とＡさん。
私は大きなため息をついた。
そして、「あのさぁ、彼女実家暮らしだって言ってたよね。当日、親にどんな言い訳するの？ 彼氏とデートって言ってたらバレバレだよね。そんなの許してくれそうな親御さんなの？ それに泊まるとなると、化粧品やら下着やら女性には準備が必要なんだけど、分かってる？ 『部屋に花束』以前の問題だよ！」と、一気にまくし立ててしまった。
今度はＡさんが顔を引きつらせる番だ。
「じゃぁ、どうしたらいいんですかぁ？」泣きそうな顔で縋り付いてくるＡさんに、『自分で考えろ……』と思いつつ訊いてみた。
「あのさぁ、どうしてもサプライズしたいの？」
ブンブンと音がなるほど首を縦に振るＡさん。私は「はぁ～」と大きなため息をついた。
「サプライズは、本当に本人がサプライズ好きじゃないとお勧めしないけど、どうしてもって言うんだったら『泊まる予定だ』って言うことだけは先に伝えた方が良いよ。そうすれば彼女も泊まる準備ができるし、親御さんへの言い訳もできるよね。泊まる場所はサプライズでいいと思うよ。花束は、翌日持ち帰れないでしょ？ やめておいた方が良いと思うよ」
私のアドバイスを聞き、ぱぁーっと笑顔になったＡさんは「そうします！！」と言い、元気な足取りで自分のデスクに戻った。
翌週の仕事始めの日、Ａさんが「前田さん、ありがとうございました。クリスマスの件で彼女から『女心が分かってる』って褒められました！」と嬉しそうに報告に来た。
どうやら上手くいったらしい。
とはいえ、人の交際に口をはさむのも何なので、「今後は自分で考えるか彼女に相談しななさいよ」と伝えると、満面の笑顔で「はい！」と返事が来た。
その１年後、Ａさんと彼女はめでたく結婚した。
Ａさんのケースは、相手が困らないようにサプライズの部分を限定して成功したケースだが、世の中には成功したサプライズばかりではない。
私の周りでも、「自分の誕生日に彼が忙しいというので、友達と食事に行ったら、当日に彼が家にやってきて『なんでいないんだ』と怒られた」とか、「サプライズで高級レストランに連れていかれたが、もっとおしゃれして来たかった」など、悲しい話も多い。
中には、「サプライズは嫌い」と言っていた彼女に、友達を巻き込んで公衆の面前でプロポーズし、「私が嫌っていることをするってことは、別れたいんだね」と結婚どころか別れ話になった人もいるくらい、サプライズは好みがわかれるものなのだ。
そう唐揚げにレモンをかけるかどうか、と同じくらい。
「唐揚げにレモンをかけるか問題」は、レモンをかけた方が美味しいと思う人が、「他の人もそうだよね」という思い込みで、周囲の人に確認せず、若しくは「レモンかけるね」と言いながら唐揚げにレモンをかけてしまう……という行為で、一時期「迷惑行為」とテレビで取り上げられていた問題だが、根本にコミュニケーション不足がある。
「女性はサプライズが好き」「これだけのことをしたら喜ぶに違いない」「嫌いと言っているが、されたら嬉しいはず」という、サプライズしたい側の大きな勘違い。
そして「サプライズは嫌いだと言っているから、わかってくれているだろう」という、サプライズされたくない側の甘さ。
この２つが重なって、残念な結果に繋がってしまうのだ。
ではどうすればいいか？
サプライズしたい側は、相手が本当にサプライズを嫌がってないかを確認する。そしてサプライズされたくない側は、「本当に嫌い」「私にサプライズしたら付き合い辞めるからね」と、特に誕生日やクリスマス、記念日などの前には念には念を入れて伝えることが重要だろう。
唐揚げも「レモンは自分の皿でかけようね」と言えるよう、気を付けたい。
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