さようならは、see you laterで
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記事:おがたすず(ライティング・ゼミ日曜コース)
あなたは人と会って(出会って)別れるとき、どんな言葉を使っているだろう。
オーソドックスに「さようなら」
それともお上品に「ごきげんよう」
会社などでは「お疲れ様」
子供のように無邪気に「バイバイ」
など、色々と種類があるが、私は好んで「またね(See you later)」
を使う。
私のこの言葉選びには母の影響がある。母はその頃には珍しくフルタイムの正社員で仕事をしていて、小さい私の面倒もみなくてはならず、とても忙しい身だった。しかし父が出勤する際は、毎日必ず玄関先まで出て笑顔で父を見送った。子供ながら父と母の間に険悪な空気を察している時でさえ、母は見事に切り替えて、父を笑顔で見送った。
一度、わざわざ冬の寒い日まで玄関から出て父を見送ることはしないで、部屋の中で「いってらっしゃい」といえばいいじゃないと、母に問うたことがある。
そんな私に母は苦笑しながら言ったのだ……
「だって後悔したくないから」
子供だった私は、母が何を言いたかったのかよくわからなかったが、その苦笑した顔はとても印象的で、今でもはっきりと覚えている。
ある程度歳を重ねた今の私は、なんとなくその意味を理解している。
一歩家を出たら、夜また家で再び会えるとは限らないのだ。
絶対ということなど何もないのだ。いってらっしゃいと声をかけたのが今世で最期のその人と接するの時になるかもしれないのだ。
だから母は笑顔で見送る。もしかしたら、母には後悔すうりょうな出来事があったのかもしれない。
そんな母の苦笑を最近思い出した出来事があった。
まだまだ残暑が厳しい頃に、私と夫は行きつけの居酒屋で、いつものように美味しいお酒とお食事をいただいて、いつものように
「ごちそうさま〜!」
と笑顔で言いながら、支払いを済ませた。
そしていつものようにそこの大将は恵比須さまのような笑顔で、
「いつもありがとうございます」と見送ってくれた。
ひと月に一回は普段なら行っているのだが、その居酒屋に次に行ったのは、年の瀬だった。いつも笑顔で出迎えてくれる大将が見当たらず、「今日はいらっしゃらないのかねー」と夫と話しながら、いつものように食事を楽しんでいた。
そして何度目かのお酒の注文の時に、夫が悪気なくフロアにいた大将の奥さんに「大将、今日はお店に来てないの?」と聞いた。
聞いた次の瞬間、奥さんは何とも言えない表情になり、目から涙がわっとあふれて、大将が晩秋に亡くなったと聞かされた。
長く働きながらも闘病生活を送っていて秋に入って急激に体調が悪化して、晩秋の頃に鬼籍にはいられたとのことだった。
私はここの大将の笑顔が大好きで、奥さんといっしょに涙した。
最後に会ったときの大将は笑顔で、私もちゃんと笑顔だったかなーと思った。笑顔だった自分を思い出して、心からよかったと思った。
そして母の苦笑を同時に思い出していた。
笑顔で見送る母の行動を手本にしていてよかったと思った。
今あっている人とこれから再び会うかどうかはあやふやで、会う事がない人が大半なのだろうと思う。だからこそ母のように私も人と出会って別れるときは、笑顔で「またね」というようにしている。(TPOによってはさようならと言っていることももちろんある)
江戸時代などとは違い、現在の旅は安全で、お金と時間があれば、どこにでも何度でも行きたいところに行って、帰ってこられる。 それでも一合一会は起こる。また会う事があってもなくても最後のその人にとっての私の印象が笑顔であるようにと思っている。だから私は「また」とか「またね」という。
私が生きている間に二度と相まみえることがなくともだ。
英語であれば、Good-byeでなくて、So longでもなくて、See youでさよならする。
あなたはお別れの時に、使う言葉について考えた事がありますか。
そして考えた後に選ぶ言葉はなんですか。
***
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