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自由を手に入れるための一歩


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田玲菜(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
それに出会ったのは、まったくの偶然だった。
 
イングリッド・フェテル・リー氏の著書「Joyful 感性を磨く本」の中で、「おそらく最も美しい不完全な調和」の例として、ジーズベンド・キルトが紹介されていたのだ。
 
「おそらく最も美しい不完全な調和?」分かるようで分からない。
 
興味を持った私はすぐにネットで画像を検索した。
 
キルトといえば、日本では多色の布を縫い合わせたパッチワークキルトが主流だが、私のiphoneの画面に出てきたのは、まったく新しい、衝撃的なキルトだった。
 
キルトについて私の持つ一番古い記憶は、おそらく幼少期までさかのぼる。
 
私の祖母は手芸が趣味で、暇さえあればいつも手仕事をしていた。
 
そんな祖母の家の中は、自作の人形や洋服やカバー類や造花で埋め尽くされていた。当然、手製のキルトも山のようにそこに飾られていた。
 
その祖母の影響を受けてか、母も手芸が好きだった。
 
私はそこまで手芸に興味を示さなかったが、手芸好きの祖母と母のおかげで手芸品が常に生活の中にある家で育った。
 
幼い頃の私の服の多くが祖母の手作りだったし、夏休みの工作の宿題はいつも祖母に手伝ってもらって作った手芸品を提出していた。
 
だからキルトなんて見慣れていたし、それを見て特に「綺麗」だとか「自分も作りたい」だとか「憧れ」だとかを抱いたことはなかった。
 
むしろ、私の持つキルトのイメージはあまり良いものではなかった。
 
「ほっこり」「ファンシー」「少女趣味」。
 
細かい作業が苦手な私には、きちんと寸法を測って一つ一つ丁寧につなぎ合わせていかなければならないキルトは、イライラの元だった。
 
きちんと計算されて左右対称に作られた伝統的な図案にも窮屈さを感じたし、図案集を見ても退屈で心惹かれるものはなかった。
 
そんなわけで、ずっと作るのを避けてきたキルトだったが、ジーズベンド・キルトは私の持つキルトのイメージを見事に吹き飛ばしてくれた。
 
ジーズベンド・キルトの画像を見て、最初に感じたのは「自由」だった。
 
ジーズベンド・キルトは音楽で言うところのジャズだ。
 
ジャズに出会ったとき、私は高校生くらいだったと思うが、その時に感じた自由さと即興性、躍動感、衝動、喜び、没入感、そういったものをジーズベンド・キルトにも感じた。
 
俄然ジーズベンド・キルトに興味を持った私は、ネットで詳細を調べてみた。
 
アメリカの切手のデザインにもなったこのキルトは、どの作品も5000ドルを超える値がついている。高い。アメリカでは博物館や美術館で見るような代物のようだ。
 
日本のこぎん刺しのようなポジションかと思っていたが、想像以上に敷居が高い。
 
日本でお目にかかれる機会はなさそうだ。
 
ジーズベンド・キルトに関する本ならあるだろうか?
 
そう思って調べるが、あまり情報が出てこず。
 
それならば、と動画を検索してみると、ドキュメンタリー番組の動画を見つけた。
 
全編英語なので何を話しているかはよくわからないが、その映像の中にジーズベンド・キルトの制作風景が映っていた。
 
それは数名の黒人女性が、大きな布にハギレを縫い合わせているところだった。
 
ジーズベンド・キルトは貧困のための寒さから身を守るために布を縫い合わせて作ったキルト、という情報は知っていたので、その情報と制作風景とのギャップに驚いた。彼女らは、自由に歌をうたいながら、楽しそうに作業を進めていたのだ。
 
アフリカ系アメリカ人の色彩感覚がそうさせるのだろうか。
 
彼女らの選ぶハギレの組み合わせはユニークで色鮮やか。伝統的なキルトの組み合わせからは明らかに逸脱している。
 
また、その図柄も定規で測ったかのような直線や直角、均整のとれた幾何学模様といったものはほとんど見られず、かすかにゆがみ、いびつででこぼこしている。
 
こういうゆがみは素人臭さや下手さを感じさせるのでは? と思っていたが、出来上がった作品を見ると、アートとしてのクオリティがはるかに高く、そのゆがみやへこみさえも味になって個性を引き立てているのがよく分かった。
 
「これを作りたい!」
 
衝動的にそう思った。しかしどういう手順を踏めばあれが出来上がるのか、皆目見当もつかない。
 
ジーズベンド・キルトの作り方は秘伝のタレのように先祖代々、母から娘へ受け継がれていくものらしく、教則本や教室のようなものは存在しなさそうなのだ。
 
もともとは伝統的なアメリカンキルトから派生したものらしいので、アメリカンキルトの知識があれば、作り方の見当がつくのかもしれない。
 
遠回りにはなるが、きちんと基礎を学んでからでないと、作れるようにはなれないのだろう。
 
そこまで考えて、やはりジーズベンド・キルトはジャズだと思った。
 
多くの大人はジャズピアノのかっこよさと自由さに憧れて、ピアノもろくに弾けないのにいきなりジャズをやろうとする。しかし、高度なテクニックと即興性、美的感覚を兼ね備えたジャズは、ピアノの基礎がしっかりできていないと、まずマスターすることはできない。
 
結局、自由になるためには、それを支える基礎の習得が不可欠なのだ。
 
とにかくわたしはジーズベンド・キルトを作れるようにならなければならない。
 
そのためなら、伝統的キルトの緻密さも、面倒臭さも、ある種の退屈さも喜んで享受しようではないか。
 
そう思い至った私は、アメリカンキルトを一から学び直すことに決めたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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