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幸せな未来へのタイムマシン


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田理香(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
狭い通路でその人とすれ違った瞬間、胸が「キュン」としてしまった私は、思わず振り返り、その広い背中を見送った……。
 
「その人」とは、七福神の布袋様のように恰幅のいい私の上司。お顔にも優しさが溢れていて、とても尊敬している上司だが、恋心を持ったわけではない。
 
では、なぜキュンとしてしまったのか?
 
「におい」である。
 
上司が、偶然にも昔の恋人と同じ香水「アラミス」をつけていたのだ。
 
普段からうっすらとしかつけていなかったのだろう。この日、片方が立ち止まって壁側に避けなければすれ違えないほどの狭い通路ですれ違うまで、私は上司の香水に気づいていなかった。
 
その懐かしい香りを嗅いだ瞬間、もう十年以上も思い出すことのなかった元彼との記憶が鮮やかに蘇り、切ない思いが胸に広がった。
 
「におい」とは不思議なものだ。その「におい」を嗅いだ瞬間、私たちを学校の部室や公園の滑り台、古い喫茶店やジムのプールへと連れて行ってくれる。
 
それは、まるで行き先を指定しないタイムマシンのように。
 
思い出すのは情景だけではない。その時一緒にいた友達の顔は思い出せなくても、楽しかった感情や、切なかった感覚も一緒に蘇ってくる。
 
それは「嗅覚」が、他の「視覚」「聴覚」「触覚」と違い、感情と記憶をつかさどる「偏桃体」や「海馬」という脳の器官と直接つながっているためで、思い出とともにその時の感情も思い出してしまうらしい。
 
だから狭い通路で上司とすれ違った瞬間、元カレの顔も声も思い出さなかったのに、胸が「キュン」としてしまったのだ。
 
「におい」に結びつけられた記憶が、楽しかった出来事や嬉しかった出来事だけならいい。しかし、辛い出来事や悲しい出来事も「におい」で記憶されてしまうことがある。
 
私はうつ・クライシス専門カウンセラーとして、ショックな出来事を体験した方々のカウンセリングを行っている。
 
ショックな体験をした方は、その時見た映像や聞こえた音、その時触れた手の感触や体の感覚と共に、その時のにおいを覚えていることが多い。
 
その中でも特に「におい」は長い間記憶に残り、時折その出来事が、あたかも今起こっているかのように思い出させて、苦しめる。
 
例えば、隣家からの延焼で焼け出されてしまった人が、消防車の音やパンッという物が爆ぜるような音についてはだんだん気にならなくなってきたのに、数か月経っても鼻の奥で「焦げるようなにおい」を感じ、周囲に火の手がないか確認してしまったり、電車の事故を目撃した人が、電車のブレーキ音や構内アナウンスは平気になったのに、その時近くで咲いていた「キンモクセイの香り」を嗅ぐと心臓がバクバクして足が震えて動けなくなってしまったりと、ショックな出来事を体験した人たちを、その苦しさ辛さの中に連れ戻してしまうことがある。
 
そして私たちは今、未曽有の大惨事の中にいる。
 
昨年から始まったこの「コロナ禍」は、私たちの生活を一変させた。
 
子供たちは、新しい人間関係を作る大事な機会である新学期に学校に行けず、習ってもいない科目で大量の課題を与えられ、学習に対しての自信を無くしていった。
 
大人たちは、突然始まったリモートワークに戸惑い、出勤を余儀なくされた人たちも感染のリスクに不安を感じ、飲食店やサービス業は多くが閉店に追い込まれた。仕事を失った人も少なくはない。
 
多くの人が、大切な人と直接話したり、触れ合える機会を制限され、精神的にも追いつめられている。
 
カウンセラーの世界で危惧されていた「自殺の増加」も、予想以上の速さで増えていて、「今年はどうなってしまうのだろう……」と不安は大きくなるばかりだ。
 
そして、「マスク」によって「匂いを感じない」生活。
 
「匂いがない」ことが、「におい」の記憶として残ってしまう可能性に、私の不安はさらに大きくなった。
 
……ここで気がついた。
 
「匂いがない」なら、楽しいことや幸せなことに「におい」の記憶を加えればいいじゃないか!
 
例えば、家族で過ごす夕飯のお味噌汁の匂い。オンラインで友人おしゃべりする時に入れたハーブティーの香り。ひとり公園で運動した後の、木々の匂い。好きなアーティストの動画を見るときに飾った、アーティストの好きな花の香り……。
 
些細なことであったとしても、嬉しいことや楽しいことを見つけては、自分の好きな「におい」を見つけ、嗅いで、記憶と「におい」を結び付けていく。
 
それがたくさん集まったら、きっと将来、「好きなにおい」が幸せな時間の記憶を、鮮やかに蘇らせてくれるだろう。
 
そんな幸せな未来のために、明日、大好きなフリージアを買って帰ろう。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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