「ミニマリスト」になるには『要約力』を鍛えるしかない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:國井江美子(ライティング・ゼミ日曜コース)
『個別包装を買う意味あるか……?』
ひとり、自分にツッコミを入れる。
空になったナッツの小袋が机上に散乱している。
リスのように毎日ちょっとずつ食べられるようにと買ったはずなのに、計画が守られたことはない。
それだけではない。
コーヒーの円い跡が、干からびた泉の如く底に刻印されたマグカップと、その茶色い液体を含んで無造作に丸められたティッシュペーパーの小山。
なぜか視界に入るシャンプーの詰め替えは場違いもいいところだし、あってはならない三日月の爪の破片は隅っこで所在なさそうに苦笑いしている。
「見慣れたいつもの風景」だ。
生産性が高い人の机の上には、物がほとんどないそうである。
人間は「視覚」からの情報を大量に受けていて、一説によると全体の8割とも9割とも言われている。
物の多さは、脳が処理する情報量の多さだ。
それだけ脳に負担がかかり、集中力や判断力が落ちたりする原因になるというのだ。
つまり物を減らすことで、脳のパフォーマンスが向上するらしい。
そのエビデンスを知った日を境に「見慣れたいつもの風景」をすんなり受け入れることに違和感を覚えはじめた。
以降「ミニマリスト」「ミニマリズム」というワードが脳内検索で急上昇する。
必要最低限の物で暮らすミニマリストたちの生活空間は、わたしの心を奪った。
その余白に、簡素さに、潔さに、感嘆した。
余計な物を極限まで削ぎ落とした空間の美しさは「非日常」の中にあると思い込んでいた。
それは美術館であり、高級ホテルのロビーであり、あるいは白熱したゲームのためだけに特別に整備されたグラウンドのように。
「ミニマリストになりたい」と思った。
「日常に非日常を創りだす」ミニマリストたちの感性と、そこに辿り着くまでに繰り広げられたであろう数多くの「選択」を思うと、敬意を払うしかなかった。
その「選択」とはとりもなおさず、「何を残し何を捨てるか?」という取捨選択のことだ。
すぐさま頭に浮かんだのは、文章の専門家・山口拓朗さんの『要約力』という本だ。
「何を残し何を捨てるか」とは『要約力』そのものではないか。
要約力をひとことで言い表すならば『死んでもこれだけは伝えたい』を選び抜くことだ、と山口さんは述べている。
『死んでもこれだけは伝えたい』をミニマリスト的に言うと『死んでもこれだけは手放せない』という判断基準になるのではないだろうか。
そうだ。
かつてわたしにも『死んでもこれだけは手放せない』という危機的状況があったことを思い出す。
人間は臭いものに蓋をする生き物だ。
擦り潰した苦虫5万匹を煎じて飲むような、苦い過去の記憶が蘇る。
2003年3月5日。
この日、某大手通信会社のコールセンターで派遣社員として働いていたわたしは、突然の退職を余儀なくされた。
18年経った今でも、そうするしかなかったと思う。
事の発端は、母が家族に内緒でせっせとこしらえた借金にあった。
その借金のすべてが「パチンコ台」に吸い込まれていった。
わたしの母は、表向き善良な「普通の主婦」を装いながら、とんでもない「パチンコ依存症」だったのだ。
膨らみ過ぎた借金に首が回らなくなった母は、ヤミ金にまで手を出していた。
その数、27社。
ヤミ金だけでその数だったのだから、稲川淳二の怖い話など「怖い」というカテゴリーにすら入らない。
ヤミ金にはヤミ金のネットワークがあり、みな裏で繋がっている。
「同じ穴の狢」たちは、異臭漂う暗い穴の中で、獲物が転がり落ちてくるのを静かに待っている。
普段は「ムジナ」の被り物をした彼らが、一斉に被り物をはいで「オオカミ」の牙をむいてきたのが、その日だった。
『お電話ありがとうございます。
××××センターの國井が承ります』
『……お前が國井か? クニイエミコか?
“ペテン師の娘”か……!
……お前のかあちゃん、俺たちより才能あるよ。
仲間にスカウトしたいぐらいだよ……!!』
たちまち不穏な空気がフロアを覆いはじめる。
四方八方から湧き立つざわめきと、鳴りやまない電話の着信音……。
―― 数分後、コールセンターの回線がパンクした。 ――
やがて人っ子ひとりいない、どこか遠くの農村のような静寂が、フロア全体を飲み込んだ。
『……國井は退職したと言い切って、業務を再開してください……』
深々と頭を下げ、約3年勤めた勤務先を後にした。
その日、わたしたち一家は「夜逃げ」した。
ありとあらゆる、すべての手を出し尽くしたあとだった。
「逃げる」ことしか選択肢がなかった。
映画やドラマのシナリオだと信じて疑わなかった「非日常」が、現実となった夜。
なんと、わたしは過去に一度「ミニマリストになっていた」のだ。
【望まざるミニマリスト】に。
「夜逃げ」のお共に選抜したのは、わずかばかりの現金が入った財布とガラケー、必要最小限のアメニティと3日分の着替えを詰め込んだバックパック。
それと車中泊には欠かせない、毛布。
群馬の3月はまだ、底冷えがした。
暦のうえでの春とは名ばかりで、冬の延長でしかなかった。
夕暮れから太陽と一緒に気分も沈んでいくのが、はっきりとわかった。
歯の根がかみ合わない長い夜を迎えるのが、ただただ、怖かった。
あの時のわたしに、問う。
『“死んでもこれだけは手放せない”ものを、ひとつだけ選ぶとしたら何ですか?』と。
答えは、こうだ。
『体によくなじんだ毛布です』
外野から ≪現金で毛布を買えばいいのでは?≫ という極めて素朴な野次が聞こえる。
だがなぜだろう、不思議と答えは変わらない。
現金ではなく、毛布だ。
やはり、わたしは『要約力』が弱いのだろう(笑)。
実感として「本当に必要なもの」はたいして多くない。
「本当に伝えたいこと」もまた、多くはないのかもしれない。
シンプルに本質だけを切り取って「より短くより効果的に」伝える『要約力』を身につけたなら、“一生モノのスキル”になる気がする。
人生のあらゆる局面において応用が利く、汎用性の高いスキルだと思うからだ。
わたしは2020年12月から、天狼院書店の「ライティング・ゼミ」なるものを受講している。
意味のない雑談が苦手なくせに、だらだらと冗長な文章を書いてしまう自分の癖を知る。
『要約力』を鍛えたい。
そのために、もう一度ミニマリストを目指す。
【自ら望んでミニマリスト】になるのだ。
今わたしの机の上には、電気スタンドとPCが放つ、白い光があるのみだ。
***
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