書きたい気持ちを連れてきたもの
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:桐生 譲(ライティング・ゼミ日曜コース)
小学校の読書の時間では、シャーロック・ホームズが楽しみだった。
中学校では、休み時間になると星新一のショート・ショートを開いた。
高校生になって、通学電車で、吉川英治や司馬遼太郎の分厚い小説が好きだった。
他人とのおしゃべりはどうにも気づまりで、ネットやスマホもなかったので、学生の頃は本の世界に浸って、つまらない世界をやり過ごしていた。
いろんな感動を味わうにつれ、小説とは言えなくても、時おり何かストーリーを書きたくなった。でも、アイディアが浮かんで、いざ文字にし始めてみても、1時間もしないうちに冷めてきて、読み返してみてもつまらない。
楽しく文章が書けないのは、知識や経験がないからだと考えた。
国語・数学・理科・社会、そして英語を一通り勉強して大学に入った。そこそこ知識は蓄えられたはずだった。
ふと、ペンを握ってノートに向かってみた。ページ半分ももたなかった
中学と高校では山登り系の部活に入っていた。登校して靴箱に手紙が入っていたことなぞなく、バレンタインは義理すら貰えず、通学途中で食パンをくわえたJKと鉢合わせになることもなかった。
その時、悟った。
「経験がない者、物語を書くべからず」と。
当時はそんな書けない理由に十分納得していた。
通勤電車で「半沢直樹」を読んだ。偶然、著者と同じ銀行に勤めていて、「実際、そりゃないでしょう」とツッコミを入れながらも、ただただ面白く、駅を降り損ねることもしばしばだった。
その時、さらに悟りを得た。たぶん自分に「共感性」や「感受性」が乏しいから書けないのだ。
文章とは、簡潔に他人に必要な情報を伝えるためのもので、自分にそれは楽しめるものではない。
「はい、あきらめました!」
40代になって、上下左右、ナナメ上の人間関係に神経をすり減らす会社員生活にあって、休日は、家族で過ごす以外は「パパの放し飼い」と公認されて、栃木や群馬の山歩きや秘湯巡りが趣味になった。
雄大な景色、ダイナミックな雲の形、毒々しいキノコ、薄暗い森の中の一条の陽の光……。
自然に携帯で写メを撮った。でも、家で見返してみても、その時の感動が伝わってこない、単なる記録に過ぎなかった。
会社員人生も終わりが見え始めた頃、寂しい定年後の生活をあれこれ考えて、一つカメラを始めた。
男の子はメカが好き、なこともあって、一眼カメラはそれ自体楽しい。慣れれば慣れるほど、レンズを揃えれば揃えるほど、表現の世界が広がっていく。
思わず微笑む動物のしぐさ、滑稽な街の人、偶然捕まえた流れ星、光と影、そしてそれらのグラデーション。
「あっ、きれいな虹!」
アカウントを作ってはみたが、綴るネタのなかったSNSに写真をアップしてみた。
「いいね!」が付いた。翌日も付いた。
カメラを持って出かけると、自然と構図や被写体に他人の眼を意識するようになった。それ以上に、何より、日常がかけがえのないシーンにあふれていることに気づかされた。
「このドラマを切り取ってあの人に伝えたい」
伝えたいものをしっかり伝えるために、余計なものは削りおとす。主題を強調する。もっと鮮やかにする。
あのお祭りのおじさんと少女の一コマでは、端にある「駐車禁止」の看板や、「本日特売!」の文字情報はノイズなのでトリミングして消えてもらおう。
あれこれ見てもらうことを意識するうち、カメラを構えながら、物語が浮かぶことがあった。
沖縄の砂浜の朝の散歩。緑色のガラス瓶が波にあたって水しぶきを上げていた。
すると、突然、世界一周のクルーズ船の甲板で、昨夜のショーがつまらなかったと、飲み残しのビール瓶を海に投げ捨てる、小太りの紳士が脳裏に浮かんだ。その紳士には、日本の法律事務所に勤める可愛い娘がいる。
「ショーは退屈だったが、明日、横浜で半年ぶりの娘との再会だ・・・・・・」
心地よい潮風に、物語が勝手にあふれてきた。
あっ、シャッターを押そう。
撮った写真を確認する。
遥々太平洋を流れ着いた冒険には、画が平凡すぎる。
きれいな砂浜だけでは物足りないので、もっとカメラを低く構えて空を入れよう。
(賛否が分かれるかもしれないが、)瓶を少し波打ち際まで移動させて、波の飛沫をもっと大きくしよう。
「よし、あとで空の色をもっと青く仕上げて、あと、縁に写りこんだ海藻を消したら完成だ」
写真を通じて伝えたいこと、被写体があらかじめ決まっているときは、その魅力が最大限伝わるように、構図や露出を工夫する。
心惹かれる風景では、逃がす前にとにかくシャッターを切る。パソコンに取り込んでから、落ち着いてその魅力を分析する。理由が分かったら、その音や匂いや肌触りを目指してレタッチをする。
頑張って気に入った作品をコンテストに出しては見たが、なかなかハードルは高い。
あの入賞作品からは物語が聞こえてくるのに。
写真に向き合ううちに、いつしか自分に物語が生まれるように感じられた。
そして、仕上げても写真から想いが十分に伝わらないとき、言葉を添えたくなった。
ピッタリくる言葉を探すようになった。
添え物の言葉が、ある時主役になって、文章のイメージを写真がサポートすることもある。
伝えるために文章にもレタッチする。素材を極力そのまま生かすのがドキュメンタリーとすれば、手を加えたものがフィクションだろう。
ボクにとって、写真と文章はお互いに素敵な協力者なのかもしれない。
文章を書きたい気持ちを、カメラが連れてきた気がした。
***
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