誇りを持ってやっつける ~「やっつけメーキング」を読んで~
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記事:村人F(リーディング倶楽部)
やっつけ仕事って言葉がある。
短時間で終わらせてハイ終了という手抜き感溢れる言葉だ。
頼んだ仕事に対し、「やっつけで終わらせました」なんて後輩が言ってきたらぶっ飛ばしにかかるかもしれない。
ネガティブワードの筆頭になる言葉だと思う。
しかし、そんなやっつけを堂々とタイトルに付けた本があった。
「やっつけメーキング」だ。
この本は、作者の田中偉一郎さんがやっつけで作った美術をまとめた本である。
この中に出てくる作品はどれもやっつけで作ったとしか思えない代物だ。
カレンダーに出てくる数字を全部1にしたものとか、
女性のドレスの胸にセミを置いてブローチつけましたとか言ったり、
バルーンアートでネジネジしただけの簡単なやつをソーセージとして出したりと、
本当に短時間でポンポンやっつけで作った作品がいっぱい出ているのである。
そんなまさにやっつけ仕事の芸術がこの一冊には詰まっているのだ。
それなのに面白い。
ページを開く度になんなんだその発想はと思うような写真がバンバン出てくるのである。
そしてあっけに取られたり唖然としたり笑ったりするのである。
やっつけ仕事で作った作品なのに、そうとは思えないパワーで満ち溢れているのである。
なんで「やっつけ」と銘打った作品でこんなにインパクトを残すことが出来るのだろうか。
それはおそらく、やっつけで作ってはいても、決して手を抜いたわけではないから。
そして一作品、一作品に魂を込めているから。
そもそもやっつけの意味を辞書で調べてみると、いい加減にやるとかいうニュアンスは確かにあるが、もう一つ「間に合わせ」という意味がある。
つまるところ、やっつけ仕事という言葉のせいでついつい手抜き仕事というイメージを持ってしまうわけだが、決してそういう意味ではないのである。
あくまで今ある素材の間に合わせで良い加減に仕上げることがやっつけ仕事なのである。
だからやっつけメーキングを評した作品群からこれほどまでのパワーを感じることが出来たんだと思う。
しかし、せっかく一冊の本にまとめるくらいの作品を作ったのに、なぜやっつけなんてネガティブな印象を受ける言葉をタイトルに持ってきたのだろうか。
もうちょっとカッコつけた名前を付けたいと思うのが普通の心情ではないかと思ってしまう。
だが、きっと作者は狙って「やっつけ」という言葉を使っている。
そして、誇りを持ってやっつけ仕事をしている。
僕たちが普段思い浮かべる芸術作品の常識から考えるとやっつけ仕事で誇りなんて持てるのかみたいなイメージは正直ある。
でもそれは学校の教科書で習った、西洋の巨匠達の傑作くらいしか見てきていないことに起因しているのかもしれない。
だからモナリザとかゲルニカとか、時間をかけて丁寧に作られた作品のみを美術と見なすなんて思い込みが勝手に刷り込まれてしまったように思う。
でも実際に美術はそんな堅苦しいものなのか?
いや違うはずだ。
かつて岡本太郎は「芸術は爆発だ!」なんて言ってたけど、そんな風にパッションを自分にしか出せない方法で、全力で表現したものは全部芸術と言っていいはずだ。
幼稚園児が粘土でこねこねして作ったなんかいい感じの四角いやつも芸術だ。
僕が書いた下手くそな落書きも芸術だ。
なんならその辺にいる人が着ている服も芸術だ。
本当は芸術には型なんてなくて、とにかくパッションが感じれば何でも芸術って言っていいんだ。
だから作者はやっつけメーキングというタイトルをこの本に付けたんだと思う。
このやっつけ仕事の作品群は作者なりに芸術を必死にしこたま考えまくって編み出した表現技法なのだ。
一見ふざけているようにしか見えないものも、自分が美を見出したものをそのまんま提出しただけなのだ。
だから堂々と世の中に発表できる。
自信を持ってこれが自分の作品だと誇れる。
その姿勢がこういう本の形でまとめられるくらい世の中に評価されたんだと思う。
僕がやっつけ仕事をするとき、こんな誇りを持ってやっていただろうか。
おそらくそんなことはなかった。
いい加減のところを手抜きと解釈して、本当にダメなものだけ作っていたように思う。
しかし実際のやっつけ仕事はそんなものではないのだ。
あくまで自分の持つ力をいい加減に間に合わせて、全力で行ったことがやっつけ仕事なんだ。
この本からはそういうことを教えてもらった。
だから僕はそういう誇りを持ってやっつけ仕事を進めていきたい。
この文章も30分くらいでやっつけて、全力で生きていこうと思う。
本記事で紹介した作品
タイトル:やっつけメーキング
作者:田中偉一郎
出版社:美術出版社
***
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