国語辞典のすゝめ
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記事:こまる(ライティング・ゼミ平日コース)
最後に国語辞典のページをめくったのはいつですか?
中学生のとき? もしかしたら小学生のときだろうか。
本棚の奥にほこりをかぶった国語辞典が眠っている人も多いだろう。
というか、自分の本棚に一冊でも国語辞典がある人ってどれくらいいるのだろう。
インターネットが普及した現代において、国語辞典を使う必要はなくなってきたかもしれない。私は大学時代、日本文学や国語学を専攻していたのでよく使っていたものだが、社会人になった今、日常生活を送っていて国語辞典が必要になる場面はほとんどない。
googleを開いてから、検索ボックスに文字を入れ、必要な情報が出てくるまで約1分。
1分で知りたいことがいつでもどこでも得られる時代。この時代に紙の国語辞典って必要なのだろうか、そんな疑問すら思い浮かぶだろう。
そんなみなさんに、国語辞典オタクを代表して、国語辞典の楽しみ方をお伝えしたいと思う。
まず、書店の本棚の前に立った時、合コンが始まったと思ってほしい。
テーブルを挟んで座っている異性たちは、性格も見た目も違う。出身地も違う。得意不得意もそれぞれあるし、年齢もバラバラ。育った時代が違えば、親の教育方針も違ったりする。
それと同じで国語辞典にも、表紙、言葉の選び方、用途、用例をどこから引用しているかなど、様々な個性がある。国語辞典はみんな同じような内容で、ただ言葉の説明が並んでいるだけだと思っている人もいるかもしれないが、実はみなさんが思っているよりも(むしろ実際合コンに来る人たちよりも)バリエーションに富んでいるのだ。
たとえば、「恋愛」という言葉を引いてみるとどうだろう。本棚にある国語辞典か、今手元にあるスマホでもいいから意味を調べてみてほしい。
これ、バラエティー番組とかクイズ番組でもたまに取り上げられたりするのでご存じの方も多いかも知れない。話題になった『新明解国語辞典』の第三版を引いてみよう。
「特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる(まれにかなえられて歓喜する)状態。」
……合体!???
凄い説明のしかた。どきどき。ていうか、かなえられないのがデフォルトで、かなうのは「まれに」か……。
合コンだったら私はこう思う。「この人、童貞なのかな。この人はハズレだな。」(失礼。)
この『新明解国語辞典』さん、なんとこの後いろんな恋愛を経験したのか、驚きの成長を遂げる。第五版では、「合体」とか何とか言っていたのが「出来るなら肉体的な一体感も得たい」という少し控えめ(?)な表現になる。その後の第六版以降は性欲的な表現の部分はなくなり、「二人だけでいたい」とか、「不安になる」といった精神面での表現が強くなる。
そして第八版。
「特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。」
私は驚いた。
こんなにフラットで恋愛経験値も高そうな人が、かつての『新明解国語辞典』さん!?!?
(ちょっと重そうだけど、そこがまた良い。)
今でも多くの国語辞典で「特定の異性」とか「男女」のような表現がなされているなか、「特定の相手」という、性別を指定しない言葉を選んでいるのだ。この第八版は2020年に発売された。多様な性についての問題が注目された現代だからこそ、この表現に落ち着いたのだろう。
国語辞典といえば三浦しをんさんの『舟を編む』が映画化されたが、この作品で描かれているように、編者たちは一つひとつの言葉に根気とこだわりを持って向き合っている。常に変わり続ける言葉に対し、その時代の背景やその人の想いが反映されているのだ。
さて、先ほどみなさんが「恋愛」の意味を調べるために引いた国語辞典やネット辞書の解説にはどんな言葉が使われていただろうか。他にも、「右」「上」のような他の言葉で説明しづらいものや、「全然」「圧巻」のように従来とは違う使われ方をしているものがどのように扱われているか、注目してみると面白いかも知れない。
最後に、ここまで読んでくれたあなただけに、明日から合コンで使えるテクニックを教えよう。これさえあれば、長時間その相手と向き合わなくても自分に合うかどうか見極められるテクニックだ。
それはずばり、国語辞典の最初の部分、「編集方針」を読むこと。
どの国語辞典にも、「こんな意図でこの辞書をつくってみました!」みたいなことが、最初に序文のような形で書かれている。いわば自己紹介みたいなものだ。もちろん出会いの場では相手を知ろうとすることが大事であるが、様々な言葉を、何冊もある辞書の中から何度も引いて、解説を見比べて、というのは正直しんどい。国語辞典はその辺の男女とは違って見栄も張らないし、ぶりっ子もしないから、安心して、素直に自己紹介を受け止めてほしい。
そして、そこでいい出会いがあれば、ぜひ持ち帰ってたくさん可愛がってあげてほしい。
ちなみに、国語辞典の世界では浮気も認められているので、二股でも三股でもいいからどんどんお持ち帰りしちゃってほしい。図書館で昼顔みたいに禁断のひと時を過ごしてもらってもいいし、本屋で立ち読み、つまりつまみ食いもオッケー。
ちなみに、私のお気に入りは国語辞典界でも権威のある『日本国語大辞典』さん。あ、でも、『基礎日本語辞典』さんも素敵だし、『新潮現代国語辞典』さんも気になっている。ただ、私は国語辞典に対してだけ浮気性なだけで、男性に対しては超一途なのでここで名誉挽回をしておく。(もう遅い。)
とにかく、ここまで読んでみて、国語辞典に少しでも興味を持ってくれた方がいたら、どんな国語辞典でもいいから一度手に取ってみてほしい。もしかしたら、それが運命の出会いかもしれないから。
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