メディアグランプリ

震災から10年。昨夜の地震があの時の記憶を呼び起こす。


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記事:高橋実尚(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
2021年2月13日午後11時8分ごろに震源を福島県沖とする地震が発生した。福島県中通りと浜通り、宮城県の南部で最大震度6強が観測された。私の住む東京23区や神奈川県、新潟県、静岡県などでも震度4を観測。不幸中の幸だったのは津波が起きなかったことだ。この文章を書いている2月15日現在、報道によると東北地方へ向かう新幹線は一部運休を含めて運転見合わせが続いている。全線開通には10日前後かかる見通しだ。この新幹線のことだけでも被害の大きさが窺い知れる。
 
その夜、食事を済ませ私はのんびりと2階の自室のベッドに寝そべりながらYouTubeを見ていた。その時突然スマートフォンの緊急地震速報が鳴った。しかし地震はまだこない。だが、音もなく遠くの方からなにかが近づいてくる感じがする。そしてゆっくりと揺れはじめた。じょじょに揺れは大きくなる。意外に大きい! 慌てて体を起こした私は、周りを見回し次に備えた。地震はピークに達する。本棚に飾ってあったSIGGのボトルが落ちる。これはヤバいと飛び起きてドアを開けた。長く続いた揺れがようやくおさまると、私は1階のリビングへ下りた。
 
テレビのニュースを見ながらオドオドとしている母を落ち着かせ、寝室で伏せている父の様子を確認。家の状態を点検してから自室へと戻った。インターネットで地震の情報をチェックした。大きな余震の可能性があるとのこと。次に大きな地震がきたら避難をすることに決めた。慌てて非常用持ち出し袋を探したが、どこにも見当たらない。東日本大震災後に準備をしたのだが、いつの間にかあやふやになってしまった。
 
防災に対する意識が薄くなっていることに反省をしながら、ベッドに腰を下ろすと私自身の変化にも気がついた。心臓の鼓動が速まっていない、ドキドキしていないのだ。いつから起きなくなったのかまったく覚えがない。しかしこのドキドキがいつから始まったのか、理由もハッキリと覚えている。
 
今から10年前の2011年3月11日14時46分に宮城県沖を震源とする「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」いわゆる東日本大震災が発生した。その日以降、余震や小さな地震が起きるたびに私の心臓の鼓動は速まり、あの日の光景が蘇る。
 
その日私は昼食を終えると日本橋へと営業に出かけていた。中央通りを東に1本中にはいった通りを歩いていた。そしてむろまち小道と按針通りの間で震災にあったのだ。
 
突然大きく揺れ出し目の前にある首都高速道路の橋脚が大きく揺れて道路は波を打っていた。後ろを振り返る。角の飲食店の女将さんと思われる女性が慌てて店から飛び出し、エアコンの室外機にしがみついている。鉛筆を人差し指と親指で鉛筆の端を持ち、上下に揺らし続けると曲がって見える。ラバー・ペンシル・イリュージョンというが、女将さんの先に見える細いビルがまさにそれだ。いつ倒壊してもおかしくないくらいに揺れていた。足は震え、心臓の鼓動は早まる。上から何かが落ちてくるかもしれないそんな恐れに襲われる。急いで目の前にある山本ビル別館1階の駐車場に逃げ込んだ。
 
地震がおさまると私は逃げ込んだビルを離れて小伝馬町方面へ移動した。なぜそちらへ向かったのはいまでもわからない。正しい判断を下せない状態であったことだけは間違いない。
 
国道4号線に出る。ここで震度5弱の最初の余震がおこると同時に首都高速道路上野線の橋脚が目に入る。すると阪神淡路大震災のニュース映像が蘇る。阪神高速道路が崩れ落ちている映像だ。目の前の上野線が崩れ落ちたらと、そんな恐怖にかられ足早に離れた。
 
日本橋小舟町に入る。国道6号線に沿って歩く。ここに来るまでおよそ10分。ここで2回目の余震にあう。震度5弱だ。止まっていた2トントラックは上下に大きく揺れている。ビルからは人々が避難してくる。足がすくみ私は再び恐怖に襲われた。
 
なんど電話をしても会社につながらない。地下鉄も止まっている。店舗の商品は崩れ落ちている。大混乱した都内を抜け南千住にある事務所までなんとか辿り着いた。
 
これが東北地方太平洋沖地震直後の私の体験だ。10年も経ってしまったので細部に関する記憶は失われている。いままでになん人もの人に話した。今回はじめて文章にしたのはなんらかの形として残しておきたかったからだ。
 
この日以降、余震が起きるたびに心臓はドキドキして緊張していた。しかし時間の経過と余震の回数が減るとともに動機の酷さは落ち着いてきた。その時の恐怖が少しずつ遠のいてしまったのだ。ヒトは忘れる動物であるとか、物事は時間が解決してくれるなどよくいわれるが、こと災害に関しては間違っているとおもう。こころの片隅に常に置いておかなければならない。決して忘れてはいけないのだ。
 
13日に起きた地震はそれを暗示するものではないかと私は思う。おそらく東日本大震災から10年目という節目を前にもう一度、地震という災害に向き合わなければならない。震災の記憶を風化させてはいけない。体験をした我々は次の世代にどのような形であれ引き継いでいく責任がある。いずれ起きうる南海トラフ大地震への備えを怠らないためにも。
 
 
 
 
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2021-02-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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