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常識は日光浴と同じだな


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記事:武田依子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
母子手帳から「日光浴」の記載が削除されたのは、1998年のことだった。
 
その時のことはよく覚えている。理由とともにその事を知った時、「えええ! 日光浴って健康にいいんじゃなったんかい!」と思った。ちょっと待って。年がバレるだろ。そう、私は1998年よりはるか昔に子供であった。
 
それ以前は、紫外線に当たってビタミンDを活性化ビタミンに変化させることが、骨の成長には必要とされていた。
 
「くる病」という病名を聞いたことがあると思う。症状としては、骨が柔らかく曲がりやすく伸びにくくなる。歯が生えるのが遅い、虫歯になりやすい。身長が伸びない、O脚やX脚など下肢が曲がりやすい、など。
 
これは骨の石灰化異常というものが原因で、ビタミンDの不足や代謝異常が引き金になる。乳幼児期に現れる骨格異常がその石灰化異常の典型的な病態で、それをくる病と呼ぶのだと言う。
 
幼い我が子が健康であることは、どの時代も親にとっては普遍的な願いであるから、このくる病とビタミンDと日光浴の関係が周知されて以来、私が知る限り、親たちはせっせと子供に日光浴をさせていた。
 
繰り返すが私は1998年よりはるか昔に子供だったので、やはり日光浴をさせられていた。
 
夏になると、毎年必ず海水浴に行って、真っ黒に日焼けして身体中の皮が剥ける。これがお決まりだった。日焼けした後はヒリヒリして痛いけど、それでも健康な体には必要な事だと思って我慢していた。毎年海水浴に行くことが、当たり前のルールのようになっていたから、ある年に海水浴が見送りになって驚いた。今思うと、海水浴以上に大切だったり重要だったり優先すべきイベントが、ちょいちょい起こる方が当たり前だと思うのだが、それくらい日光浴が大切だと子供心に信じていたのだ。
 
しかし、日本は飽食の時代となり、栄養状態が改善され、ビタミンDが不足するような栄養不足の子供はあまり見当たらなくなった。昔のように、少ない体内の栄養素を一生懸命に活性化して効率よく利用しなくても大丈夫になった。
 
その上さらに、オゾン層が破壊されるという環境の変化も、日光浴不要に拍車をかけた。地球を取り巻く大気中のオゾン層が破壊されることによって、紫外線の皮膚への到達率が高まり、それに比例して主に白人系の人たちの間で皮膚ガンなどが増えていったという。白人系の人の皮膚は紫外線の影響を受けやすいからなのだが、赤ちゃんなど乳幼児の皮膚も大人に比べて薄いため、影響を重く見て「日光浴」の記載を母子手帳から削除したのだという。
 
私は、日光浴に対する認識や扱いのこうした変化を思い出すたびに、私たちを取り巻いている「社会の常識」というものを思い出す。これが正しい、とか、これが真実だ、とか思っていたことが、あれ? そうじゃなかったの? と分かったり、そんな事なくない? と気づいたり。こんな事が人生の中で、少なくない頻度でしばしば起こるのだ。
 
普段私たちが接する「常識」というものは、メディアなどから発信されたものや、周りにいる人ないしは自分の持っているものなどだが、これまで一般的に言われてきたことで、もうその地位が怪しくなって久しい常識は、思い出すと沢山ある。
 
たとえば、大企業に就職すれば安心、とか、科学的ではないから神様の存在を信じない、とか。
 
今はちょっとスマホを開いてニュースを見れば、これから先どうなるか分からないと思わせる大企業の報道が溢れている。実際に苦境に立っていると報じられている中には、人員削減などのあまり見たくない言葉を目にしてしまう。
 
神様の存在については、物理学・量子力学の科学者が「精神が物質を生み出す」が故に「この宇宙は神様に作っていただいたとしか言いようがない」なんて言っているのを読んだりする。
 
歴史に弱い私でも、200年以上前に産業革命が起こり、工業化社会となり安定的に物質を生産し、それ以前に比べて世界は飛躍的に豊かになったらしいことを、ザックリと知っている(ザックリすぎるが)。
 
その時、きっと神はそれまで自らがいた座を科学に譲り、人々が信望し頼りにする対象は神から科学に移ったのだと思うのだが、それから200年くらい経って今、科学が神様と遭遇するというオチは大変興味深い。
 
常識も日光も、それに取り囲まれて生きているけど、普段は特に意識する事はない。でも、昔は身体に必要とされていた日光浴が、栄養状態の改善により積極的に推奨されなくなり、オゾン層の破壊によって健康を損ねかねないことがわかったように、正しいと思っている「常識」が、時代の流れとともに様変わりしてしまって、気づいたら自分の可能性を狭め、害するものになってしまう事だってある。場合によっては、オリジナルな自分が「常識」によって切り刻まれてしまうことだってあるのだから。
 
そんなことにならないように、自分が持っている「常識」に何かのズレが生じた時に、どうか小さな違和感が生じますように。そして、小さな違和感の放つ微かなサインに、気づけるようになりたいと願っている。
 
 
 
 
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2021-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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