メディアグランプリ

観葉植物に潜むラーメンの彩り


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:濱田 英樹(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「この綿みたいなのは、一体なんだ?」
初めて観葉植物を育ててみて、数か月後が過ぎた頃です。
植物は元気に育っていて、部屋の雰囲気も明るくなったなと自分の中で満足感を感じていたある日の朝、私は水をあげようと植物に近づいた時、植物にある小さな異変に気付きました。
最初は、ほこりが付いたのかとも思いましたが、目を凝らしてよく見てみると、それは植物にこびりついているようでした。
どうも、よくわからないけど虫か病気のように見える……。
しかし、私は植物を初めて買ったばかりの初心者で、できる事と言えば植物に水をやり、明るく暖かい場所を選んで置いてあげることぐらいでした。
早速、ネットで観葉植物の虫について調べてみると、あっさり正体がわかりました。
カイガラムシという虫でした。植物につく虫の中では、かなりポピュラーな存在のようです。
カイガラムシは、小さな白い虫で綿の様なものに覆われ、その中に殻をもっているカメムシの仲間です。綿や殻のおかげで、外敵に強く、いわゆる殺虫剤の類はあまり効果が無く、一番手っ取り早いのは、濡れ雑巾などで除去することと書いてありました。
早速私は、手元にあったティッシュを水で濡らし、その綿状のものを注意深く取り除くと、植物についていたものはあっさり取れ、きれいになりました。
取り除いたティッシュを広げ、どんなものかと顔を覗き込むと、ティッシュの中心は鮮やかな赤で染まっていました。つい力を入れて虫をつぶしてしまったのでしょう。しかし、虫をつぶして赤い血が出るというのは、私の血をたっぷり吸った蚊以外に見た記憶がありません。
人や動物の血液には、ヘモグロビンがあって血が赤い。しかし、虫にはそれが無い。なんてことを、昔学校で習ったような気もしますがあまりよく憶えていませんでした。私は、まあいいかと思い、ティッシュをゴミ箱へ捨て家を出ました。
私は車に乗り、園芸店へ向かいました。
先日買った植物の育て方や面白さがなんとなくわかった気がしてきたので、違う植物も買い足したいと思ったのです。また、店員さんに、先ほどの虫の件もちょっと聞いてみようと思いました。
 
車を運転していると、空腹を感じ、時計を見ると11:37でした。少し早いですが今ならまだ店も空いているだろうと思い、早めの昼食をとることにしました。園芸店の数百メートル手前にちょうど、ラーメン屋があったのを思い出し、私はまずこちらに立ち寄ることにしました。
お店はいわゆる町中華といった感じの姿で、赤いカウンターに丸椅子が並んだ昔ながらのスタイルです。
私はラーメンとギョウザのランチセットを頼みました。
ラーメンは鶏ガラベースのしょうゆ味で、淡く透き通ったスープに麺、チャーシューとメンマ、うずまきが描かれたナルトに刻みネギが少々散らされている。見た目も味も、実にオーソドックスなラーメンです。餃子も個性はありませんが、安定した美味しさでした。
 
食事を終え、園芸店に向かうと売り場では男性スタッフが別のお客さんへの商品説明を終え挨拶をしている様でした。園芸店は広いのですが、スタッフは決して多いわけではなく、みんな慌ただしく動き回っています。つかまえるのは少々大変なので、私はチャンスとばかりに私はその男性に声を掛けました。
先日買った植物の事、今回買うおすすめの植物を相談しながら、新しい植物を選ぶことができました。
植物が決まると私は、今朝の出来事を話しました。
すると、
「それはお客様の言う通り、カイガラムシだと思います。対応はそれで良いと思います。」その返答に私は安心しました。
私はスタッフにお礼を言い、レジに向かおうとしまましたが、その時に、
 
「そうそう、ちょっとおもしろい話があるのですが、聞きませんか?」
とスタッフに呼び止められました。
「え、何?」
彼は、私を見て一瞬考えたようでした。
「もし、気分を害されたならごめんなさい」
「? いえ、全然大丈夫だと思いますよ。聞きたいです。」
 
「お客さん、最近外でラーメンとか食べたりしませんか?」
「ええ、さっきすぐそこのラーメン屋でランチセット食べたばっかりですよ! なんで知ってるんですか? もしかして……匂いました?」
「いやいや、そうじゃないんです。あそこのラーメン屋ですよね。」
彼は、少し笑いながら、私にこう言いました。
「お客さん、カイガラムシ、たぶん今日食べてますよ。」
「!?!?!?!?!!」
私は鳥肌が立ち、まだ胃の中に残るラーメンと餃子がゲロゲロと騒ぐ感覚を覚えました……。
 
彼の話によると、中南米では、昔からウチワサボテンという平べったいサボテンに大量のカイガラムシを繁殖させ、その体内にあるコチニール色素という天然色素を作っているのです。
コチニール色素は食品添加物としても世界中で幅広く利用されています、なるとや蒲鉾、飲料や菓子、口紅などの化粧品など。中南米の衣服などにも、染料として古くから用いられています。今朝の赤いティッシュを思い出すと、確かにしっかりした赤い染色ができそうだと思いました。最近では、動物愛護の観点から、植物性の色素などに置き換わっているものもあるそうですがいまだに幅広く使われているようです。
私の植物に悪さをする害虫だと思い敵対関係にあったものは、地球の反対側では栽培され、人々の生活に潤いをもたらしていたのです。
 
余韻が冷めやらぬ私は帰り道にスーパーに寄り、上がピンク色になっているの蒲鉾を買いました。
夕食時、行ったこともない遠い異国の地とカイガラムシに思いを馳せながら、私は蒲鉾をわさび醤油にさっとくぐらせて食べました。しかしそれは、いつもと変わらぬ美味しい蒲鉾の味でした。
自然の恵みは深いと思いながら、私はいつもよりゆっくり、その味をかみしめました。
 
 
 
 
***

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2021-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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