患者の私がびっくりしてしまった病院での出来事
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記事:大附 祐貴(ライティング・ゼミ日曜コース)
「このたび、小さなクリニックを開院することになったんで、この大学病院を離れることになりました」
主治医の先生は、そう話してくれた。
私は、7年前に「潰瘍性大腸炎」という病気を患った。
安倍前首相もこの病気だったことで有名だったが、大腸に原因不明の潰瘍ができる病気で、発症理由はいまのところ分かっていない。そんな病気なので、治療法も確立されておらず、この病気が一生完治することはない。
なので、先生からは
「症状が悪化していない状態をキープしていきましょうね」と伝えられた。
というわけで、私は現在2ヶ月に1回主治医の先生のところに通院している。
その先生が小さなクリニックを開業することになった。
昨夏のことだった。
この大学病院で私がお世話になってから、4年半もの長い間面倒を見てくれた先生だった。
一時期急激に体調が悪化したときでも、
「こんな治療法はどうですか?」
「こんな点滴があるんで、試してみましょうよ」
と寄り添ってくれた先生だった。私にとって必要不可欠な存在になっていた。
そんな先生だった。
私は、その先生が開院する小さなクリニックに転院することにした。
ただ、なんとなく不安がよぎった。
「先生はいいんだけど、その周りの環境はどうなんだろう?」
確かに思い当たる節はあった。
先生はあくまでも病院の先生であって、経営者としての姿は見たことがない。
看護師さんはどんな人なのか分からなかったし、病院のサービスが落ちてたら嫌だなとかいろんなことを考えてしまった。
「どうなんだろう……?」
開院日の直前に、内覧会があると聞いたので、早速行ってみることにした。
看護師さんと思われる人が診察室にいた。
「ここの看護師です、あっ、こんどお越しになられるんですね、お待ちしております」
明るい人だった。心の鎖がポロッと外れたような気がした。
数日後、定期的に受けている点滴を受けに、初診患者としてクリニックに行くことにした。
「あっ、先日の内覧会ではお越しいただいてありがとうございました!」
先日あいさつした看護師さんが応対してくれる。
治療を受けるときの椅子は、ごく普通の医療用のものではなく、ふかふかな座り心地のリクライニングチェアだった。
「先生が、治療中にゆっくりと座っていただきたいとのことで選ばれたんですよ」
看護師さんは説明してくれた。
ここの看護師さんは2人で回されているそう。
「痛くないですか?」「お気分悪くないですか?」
どちらもテキパキと動かれているが、患者への対応はこれ以上ないぐらい丁寧だ。
それ以上にびっくりしたことが、点滴を受けているさなかに起こった。
「タブレット端末をお持ちしましょうか?」
看護師さんから言われた一言だった。
点滴を受けている最中、どうしても患者が退屈になってしまうから、タブレット端末で映画や電子書籍を読んで過ごしてもらおうと、主治医の先生が提案されたとのことだった。
点滴が終わるころ、血圧を測りに看護師さんが私に話しかけてくれた。
「いかがでしたか?」
いたせりつくせりのサービスに、私は感動していた。
「いや、ホントびっくりしましたよ」
「先生は、クリニックを開業すると決めてから、いろんな勉強をされていたんですよ、患者さまにどうすれば心地よく過ごして頂けるか、と……」
たしかに、この病院には患者が自由に使用して良いWi-Fiや電源も完備されているし、
患者が自由に飲んでよい飲み物も待合室に置かれている。
とにかく、いたせりつくせりだった。
看護師さんは、こうも話してくれた。
「先生は、休日はずっと読書をされていたみたいですよ。
この前なんかはマネジメントの本を読まれていましたし。医療のことを勉強するのでも大変なのに、その他のことまで知識を得ようとして、それを実践されていると……」
こんなことを聞いて、ひとつ思い浮かんだことがあった。
先日、京都のとある神社に初詣に行ったときのことだ。
神社に設置されてある案内板を眺めたとき
「当社は厄除けの神社です」ということが書かれていた。
お参りを済ませ、社務所におみくじをひきに行くと、
そこには、恋愛成就、家内安全、学業……といった多種多様なお守りが並んでいた。
神社の神様というのは、この分野が専門というのはあるが、その専門外のことでも我々のお願いをなんでも聞いてくれる。
先生は胃腸に関する専門医なので、もちろんその分野について何でも質問すれば答えてくれる。
でも、それだけではなかったのだ。
私たち患者の願い……たとえば病院の待ち時間は短いほうがいいとか、点滴治療を受けているときの椅子は座りやすいほうがいいとか、そういったことだ。
そんな願いに、先生は多忙にもかかわらず試行錯誤をかさね応えてくれたのだ。
「いやはや、ここまで快適に過ごせる空間だとは思いませんでした。以前の大学病院よりも楽しく受診できそうです。またよろしくお願いしますね」
診察室から出ようとした私は、先生にお礼を伝えずにはいられなかった。
***
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