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一円もかからないけど家族を守るもの~私が大切にしていること


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:南野原つつじ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
突然電話が鳴った。
「N商店街のOという時計屋です。今 息子さんがうちの店の前で交通事故に遇われました。」と。
「えぇ~」思わず悲鳴のような声を出してしまいました。
「見た目は大きなけがはありませんが、震えておられます。すぐにお越し下さい」
 
電話を切るなり現場に急行。中一の息子が乗ってた自転車を跳ね飛ばした自動車は、一旦停止のところを速度も落とさず商店街に侵入してきたのだとか。
 
警察の事情聴取の後、病院に連れて行ったところ、かすり傷程度で骨折もなにもなく、無事でほっとしました。
 
幸い後遺症も出ず、三年後の今も元気にしていますが、その晩息子に言われた一言を忘れることができません。
「今朝はお母さん『いってらっしゃい、気をつけて』って言ってくれへんかった。見送りもしてくれへんかった。だから事故にあったんや」
 
そういえば、その日だけなにか手の離せないことがあり、朝見送りできなかったことを思い出しました。
 
「いってらっしゃい、気をつけてね」という言葉には、人を守る力が宿るのかも……と思いました。
 
というのも、人はイライラしたりクヨクヨしたり、心ここにあらずの時、どうしても注意力散漫になりがちだからです。
 
「いってらっしゃい、気をつけてね」という言葉は、
「あなたは大切な存在」ということを伝える言葉。
「自分は愛されてる存在」と思えたら、イライラやクヨクヨもましになるかも。
だから、その人を守るお守りのようになるのかもしれない、と単純な私はそんなふうに思いました。
 
その日から、私は他にやっていたことがあったとしても一旦手を止めて、
家族が出かけるときには毎朝
「行ってらっしゃい、気をつけて」
と家族の姿が見えなくなるまで手を振ることにしました。
こんなことを書くと「わぁ、暇人(ひまじん)!」とびっくりする人もいるかもしれません。
わかります、かつての私もそんなゆとりなんて一切なかったので。
 
いつも忙しい忙しいと、あたふたしてました。
時間だけではなく心のゆとりも欠けていました。
 
そんな私を変えたのは難病闘病体験でした。
 
それまでは歯医者とお産以外病院にもほとんど行かなかった私なのですが、2014年1月にさまざまな検査を経て重症筋無力症という難病を宣告されたのでした。
 
重症筋無力症の症状は人によって様々です。同じ人でも、症状の軽いとき重いときと千差万別なんですが、その症状が目に現れたときは、まぶたを開くことができません。そして目のピントを合わせる筋肉に現れたときはものが二重に見えます。口の周りに現れたときにはものが噛めない飲み込めない、言葉のろれつも回らない。
病状が重いときには自分の頭を自分の首が支えることができなくて、短時間座っているのもしんどいときもありました。
いつどの筋肉が自分の言うことを聞かなくなるかは予測不可能です。私の場合は病状が悪化して次第にほぼ寝たきりの生活が続いたのでした。
 
そんなときFacebookの投稿を見ると、子どもの友達家族は、川や海や山やUSJやらディズニーランドやらあちらこちらに行かれてました。でも夏休みなのに、私のせいで、どこにも行けなくなった子どもたちが不憫でした。
 
そんな自分が情けなくて、「こんな生活が続くのなら、家族に迷惑をかけるだけの存在なら、私なんていなくなったほうがいいのに……」と思って泣いてたこともあります。
でも子どもにしてみたら親に死なれたらもっと不憫でしょう。でもこんなポンコツな親が生きてても不憫、どちらに転んでも不憫と思うと立つ瀬がない感じがしました。
 
ありとあらゆることができなくなりました。
呼吸ができなくなって病院に救急車で運ばれたこともあります。
 
病気と闘っても戦っても、いつも負けてばかりで、そんな自分が惨めでたまらなかったです。
 
でも、病気を治そうと読んだ本や出会った治療家から、
「病気は敵じゃない、メッセンジャー。その人に必要なこと、メッセージを伝えてくれる存在。そのメッセージをその人が受け取ると役目を終えて天に帰る。」
と、そんなことを聞いて、病気を受け入れられるようになってから、私はずいぶん楽になりました。
 
病気は大切なことを私に教えてくれたのでした。
たとえば
”「死」の反対は「生」じゃない。「死」の隣、「死」の続きが「生」。
今いくら元気でも、人はいつ死ぬか分からない存在”
というメッセージも一歩間違えたら死ぬという場面に直面して初めてリアルに感じました。
 
家を出る前には元気でも、人はいつどうなるのかわからない存在。
記憶の中にお互いの笑顔が残るよう、たとえ反抗期の息子から、「うるせ〜ばばぁ」などと言われた5分後でも、どんな時でも笑顔で見送りたいと思うようになりました。
 
病気は私に様々なことを教えてくれて、私を変えました。
 
病気になる前の私は不平不満ばかりでした。「〇〇だったらよかったのに」と目の前にある幸せに気づかずに遠くばかりを見つめていました。
困っていても頭を下げることができず、いろんなことを勝手に一人で背負い込んでしまい、そのくせ「私ばっかり、大変」と、文句ばかり言ってました。
 
でも全身の筋肉が自分の言うことを聞かなくなり人に頼らざるを得なくなり、「助けて」と言えるようになると、それまでは冷たくて頼りにならないと勝手に思い込んでいた家族の温かさや優しさに気づきました。
自分がどれだけたくさんの愛や思いやりに恵まれていたことか心の底からわかるようになれたのでした。
 
【目が開く。ものが噛める。ものが飲み込める。手を挙げることができる。座ることができる。息をすることができる……。
家で家族と一緒に過ごすことができる。】
 
今までは当たり前だと思っていたことが、どれだけ尊くありがたいことか……
しみじみと実感しました。
 
そんなこんなで、病気が私にくれたメッセージを私が受け取ることができるようになってからは、不思議なことに薄紙を剥がすように少しずつ私は元気になっていきました。そして2019年3月からは薬も一切飲まなくても生活ができるようになったのです。
 
以前ほぼ寝たきりで入院してたときには、「今の私は退院してもお弁当も作ってあげられないけど、退院できたら、せめて家族に『行ってらっしゃい、気をつけて』と声をかけてあげることだけでもできたらいいのになー」と、そんなささやかなことでも、ずっとそうなれたらいいのになとただひたすらに思い続けていました。
 
そんな夢が叶い、今は毎日家族を見送ることができるようになりました。
1円のお金もかかりませんが、そんな簡単なことでも私も家族もずいぶん満ち足りた気持ちになり笑顔も増えたように思います。
 
家族の人間関係もよくなりました。
家族の無事と幸せを祈りながら、「いってらっしゃい、気をつけてね」と笑顔で送り出す。
そんなことが、私にとってはなにより有難く大切なこと。
 
そんな喜びを教えてくれた難病に、今は心から感謝しています。
 
 
 
 
***
 
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