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家系図のススメ

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記事:Atsu(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「Daigoさんの親戚にはこんな凄い人がいた! 」
チャンネルを回す手が止まる。Daigoさんの親戚といえば、首相経験者の竹下登だ。名家の家系図なら、さぞかし著名な人が出てくるのだろう。
 
VTRでは会ったこともない遠い親戚が出てきて、家系図に親戚を追記していく。やがて家系図が完成し、Daigoさんは西郷隆盛や岩倉具視、日産、トヨタの創業者といった名だたる歴史上の人物と繋がっていた。さらに芸能界でもゲストに来ていた加山雄三さんや千葉雄大さんとも遠い親戚であることが分かった。
 
遠い親戚だったら、自分も知っている人物と繋がっているかもしれない。実はこんな人となんてことがあったりして。
妄想が膨らみ、早速、白紙のノートを開く。家系図作りの始まりだ。
 
5分後、ギブアップ。
想像以上に書けない。両親、叔父・叔母、祖父母、その周辺の親戚程度までしか遡れない。小さい頃は集まりがあって、こんなに親戚ってたくさんいるのかと思った。だが今では名前だけでなく顔すらも思い出せない方ばかりだ。
 
このままでは終われない。
困ったときは先人の話を聞くに限る。東京から横須賀の実家に帰った折、同居する母方の祖母に話を持ちかけた。
「家系図作っていて、おばあちゃんのお父さんやお母さんを辿りたいんだけど」
祖母の目の色が変わった。
 
「それで、私のお母さんがナツ、それでそのお母さんがテツ。そのテツさんの妹が・・・・・・」
御年90歳の祖母の記憶力は驚くほどに軽快であった。祖母は9人兄妹であるため、家系図は横に大きく広がっていく。
 
ただ一つ問題があった。
「そしてそのフクさんって人の旧姓が高橋。高橋さんっていうのはあの山の向こう側の高橋呉服店。それでその子供が・・・・・・」
祖母の話が止まらないのである。その上、会ったことも無いいにしえの方々の話だ。人物同士の関係性を追うだけでも必死である。
 
「私が女学校の頃、仲良かったのは志村のあっちゃん、そして横山のすみちゃん。三人とも勉強できなかったけど特待生でね、タダで学校行けたんだよ。でも家にお金が無くてね、朝、歩いて新聞配達やってたの」
気が付くと話は既に家系図とは関係なく、女学校時代の話になっていた。だが祖母が特待生であったことも新聞配達をしていたことも初耳であった。家系図の脇に小さくメモしておく。
 
祖母の講義により家系図は充実した。私から数えて4世代上の曾々祖父まで遡ることができた。一世代を30年で計算すると、いまから150年前。時代はちょうど明治維新である。
「あと一世代遡れば、黒船を見た人もいるのかな。ただおばあちゃんのひいおばあちゃんだから分からないよね」
「小田原のすみちゃんに聞いてみればもっと分かるかもしれないよ」
小田原のすみちゃんとは祖母の2つ違いの妹である。コロナ禍で1年ほど会っていないが笑い上戸で気さくな方だ。
「じゃあテレビ電話でもするか。」
仲の良い小田原のいとこにLINEしてみる。いとこと同居中のすみちゃんはすぐに準備できるとのことである。
いざ、LINEのビデオ通話を押す直前、少し嫌な予感がした。
 
「それで、正三おじさんはほんと凄かったんだから。学校でモテてモテて」
「結局、結婚したんだけどすぐにやめちゃって、あの後3回結婚したんだよね」
「それで離婚しちゃったからって、うちに預けられたのがゆきこちゃん」
「そのゆきこちゃんの・・・・・・・」
会話を挟む余地がない。先ほどは一人相手にあのざまだ。二人のマシンガントークに太刀打ちできるはずがない。快活に話すすみちゃんおばさんは時折大声で笑った。そして、その横には青ざめた様子で私を見つめるいとこの姿があった。
 
1時間。何とか話を打ち切ってテレビ電話を切った。結局、曾々祖父より先は遡れなかった。代わりに家系図がさらに横に伸びて、各々の人間関係が書き加えられ、家系図というより人物相関図の様相を呈していた。
Daigoさんの家系図とは程遠く、著名な人といえば郷里で有名だった俳人くらいだ。親戚関係は神奈川県内で収まり、何世代にもわたってこの土地に土着し続けていることがよく分かった。
 
ふと横を見ると、電話が済んだ後も祖母は当時の思い出をぼそぼそと呟いている。
「新聞配達してたなんて知らなかったよ」
「そうねぇ、昔の話なんて若い人が聞いてもつまらない話だからね。あの時は貧乏だった。でも楽しかった」
そう言って祖母は微笑んだ。そういえば、祖母が主体的に話すのを久々に聞いた。普段は私の仕事の話を聞いたり、テレビを見てぼうっとしている。
「すみちゃんの元気な姿見られたし、ありがとうね」祖母は嬉しそうに言った。
 
東京へ帰る道すがら、改めて家系図を見る。横に大きく張り出した歪な図のなかに各人物の特徴がメモされている。「意地が悪い」、「色男、すけべ」「学校で漏らした」笑ってしまうようなコメントの数々を眺めると、家系図に登場した人たちの姿が近くに感じられた。聞くところによると戸籍等を調査してくれる家系図代行サービスもあるらしい。だが今回の調査で十分に自分がどんな家系に生まれ、命を受け継いできたか分かった気がした。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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