好きな人と別れても、好きな人の人生に居座り続けるための贈り物
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:岡部真恵(チーム天狼院)
「満月には毎月違う名前があるらしいよ」
じゃあ毎月一緒に見れたらいいのに、なんて下手くそな告白は飲みこんで、そうなんだと相槌を打った。
別に一緒に見ていたわけではない。
「ちょっといいな」と思っている相手とメッセージでやりとりしながら、同じ時間に同じ月を見ていただけのことだ。
それでも、私からしたらちょっとしたデート気分だった。
簡単に連絡が取れなかったからロマンチックだった時代に憧れはあれど、指先ですぐに相手と会話ができる文明の利器には頭が上がらない。
0時ごろから2時すぎまで、月を見ながらだらだらと会話をしていた。そろそろ寝ようか、と、どちらともなく終わりを告げてやりとりを終える。
正直、小躍りしそうなくらい嬉しい。むず痒くて頬が緩みっぱなしだ。足がバタバタと動いた。
ダメだ、落ち着け。落ち着こう。
そう言い聞かせながら、今度は一人で月を見上げる。
今月の満月は、スノームーンという名前らしい。白くてとても綺麗だ。
なんとなく目が離せずぼーっとしていたら、ある日の記憶が流れ込んできた。
自分でも少し変だと思う。普通ならさっき話していた人のことを思い出すはずだ。
あろうことか私は、別の人が思い浮かんだのだ。いや、思い浮かべざるを得ないのである。
今までにも何度かこういう事があったので、原因はわかっている。
とある人から受け取った、とある魔法道具のせいだ。
小学生くらいから、人より夜空に関心がある方だった。
いつかどこかでとても綺麗な天の川を見たからだと思う。
火星には何がいるんだろう。あの星はまだ存在しているのだろうか。
夜空を眺めながらそんなことを考えていた。
だけど、主役と言っても過言ではない月というものには、特に注目していなかった。
関心がないというより、高嶺の花だったから敬遠していたのだ。
なんにせよまだ小学生だったし、月の美しさを共有するくらいなら宇宙人がいるかどうかで一緒にドキドキしたかった。
ところが、高校三年生の誕生日。
登校するなり、親友が私のクラスまで誕生日プレゼントを持って会いにきてくれた。
親友は少し不思議な子だった。視点が独特だからいつも新鮮で、それがツボだった私はずっと笑っていた気がする。
一緒にいるとパズルのピースみたいにしっくりきて、ソウルメイトってこのことを言うのかもしれないねと話したこともあるくらいだ。
「はいこれ~、誕生日プレゼント!」
けっこう大きめの袋を渡された。無地の紙袋で、外袋からは何が入っているのか予想できない。
不思議に思いながら中身を取り出してみたら、大きめのエアバックが出てきた。
よく見ると真ん中に不思議なカードが入っている。moon……なんだ?
ここまで厳重に梱包されるべきものなのだろうか。
「このカードの番号を打ち込むと、月の土地の権利書が発行できるんだって~!」
「……なんて?」
月の土地の権利書?
土地? え、月?
「月の土地あげるってこと! 地図でいうとこの辺らしいよ。地球がダメになったら一緒に行こ~」
雷に打たれたみたいな衝撃が走った。
ずっと手の届かないものだと思っていた月の一部を、18の誕生日にサラッとくれた上に、一緒に行こう?
思わず大きな声で喜んで、クラスの子達を驚かせた記憶がある。
浮かれに浮かれた私は、友達がいるクラスを回って、祝われついでに月の土地を自慢した。
みんな「きょとん」といった反応だったけれど、正直言って、後にも先にもこんなに嬉しい誕生日プレゼントはない。
あれから4年以上経った今でも、ときどきあの日のことを思い出す。
食べ物なら一週間、消耗品なら数ヶ月、香水でも数年。
でも月は、私が死ぬまで星空で輝き続けるだろう。劣化もしないし、捨てたくなっても捨てられない。
今ではあまり話さなくなってしまったけれど、いまだにこうして私の日常に潜む彼女はずるいと思う。
面白そうだからという理由だけであのプレゼントを選んだのだ。そういう子だ。
なんなら贈ったことすらも忘れているかもしれない。
でも、きっと、私はふとした瞬間にあの時の気持ちを思い出すだろうし、「一緒に行こう」という冗談を手放せないと思う。
とんでもない魔法をかけられてしまった。
いつか私も「自分を一生忘れないでほしい」と思う相手ができたら、月の土地をプレゼントしてみよう。
***
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