元こたつ記事ライターが私の呪いを解いた話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小北采佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
「またやってしまった……」
横目で時計を見るともう夜中の3時を回っていた。明日も仕事があるから、そろそろ寝なければいけないのに。
でも、私はスマホ片手にネット検索をやめられなかった。
このとき、私は呪いにかかっていたからだ。
しばらく前になるが、病気で手術をしたことがあった。
私の場合、幸い大事には至らず、担当のお医者さんからも「早いうちに治療できたし、この病気で死ぬことはないから大丈夫!」と言われていた。
手術前の私は、今後の心配をあまりしていなかった。というより、そんな余裕がなかった。手術にあたって検査がいくつかあったし、入院の準備や、入院中の仕事の引継ぎでバタバタしていたためだ。でもいざ手術が終わってみると、これからのことに対する不安がじわじわと心の中を埋め尽くしてきた。
本当に治ったのか? これからずっと元気でいられるのか?
大きくなっていく未来への不安に対して、私はとにかく答えが欲しかったのだと思う。
少しでも時間があればネットで同じ病気になった人のブログを探したり、医療関係の記事を漁ったりするようになった。
同じ病気であっても一人一人状況が違うから、治療方針や、治療後に病気が良くなるかそうでないかは様々だ。そのため「病状が悪化した」という記事もあれば「元気になった」という記事もある。ところが私はどちらの記事を見ても納得も安心もできず、より多くのデータを求めてネット検索を繰り返していた。
ついには、病気について夜中まで検索し、そのまま寝落ち。朝目覚めるとまずベッドの中でスマホを開いて、また病気について検索する、という日もあった。寝ても覚めても、とにかく検索が止まらないのである。前に読んだ記事を繰り返し読んでしまい、「ああまたこれか」なんてこともしょっちゅうだった。
これは、よくない。自分でも分かっていた。
睡眠時間を割いてネット記事に一喜一憂することは、心身の健康にとって、決してよくない。
しかし、やめられないのだ。
それはまるで、悪い魔女によって「無限検索の呪い」をかけられてしまったかのようだった。
呪いが解けないまま迎えた2021年のお正月。
私は「元こたつ記事ライター」と出会った。
その日も夜遅くまでネットを見ながらぼんやりとテレビを見ていると、NHKの『ねほりんぱほりん』という番組が始まった。これは、珍しい体験をした人にインタビューをする番組で、その日のゲストは「元こたつ記事ライター」の方だった。
こたつ記事ライターとは、テレビやネットで集めた情報だけで記事を書く人のことだ。自分で直接取材をする苦労をせずにこたつの中で書けるような記事を書いている、という皮肉を込めて「こたつ記事ライター」と呼ばれている。
彼らは主に、ネットでより多くのアクセス数を得ることを目的として記事を書いている。多くの人に見てもらうために大袈裟なタイトルを付けた記事を書いたりするが、中身はテレビで放送された内容の一部をまとめただけの薄っぺらなもの、ということもあるらしい。
ゲストとして呼ばれていた元こたつ記事ライターの方は、上司からこたつ記事を大量に作ることを指示され、多くの記事を書いた経験を話していた。
衝撃的だったのは、1日に何本の記事を書くかノルマを課されていたが、まともに執筆をしていると到底ノルマを達成できなかったので、様々な手段で信憑性に欠ける記事を大量生産していた……というエピソードだ。
例えば、一般の人にリップクリームを使用した感想をアンケート形式で書いてもらい、いくつかの異なる商品の感想を寄せ集めて『おすすめのリップクリームランキング』のような記事に加工していたらしい。実際には記事の書き手がそのリップクリームをおすすめしているわけでもなければ、使用したわけでもない。しかも下手をすればアンケートに答えた人がそのリップクリームを実際に使用したかすらも定かではないのだ。
そんなエピソードがたくさん出てくるのを聞いて、ただただ唖然とした。
この人たちが書いてた記事ってデタラメじゃん。
今後ネットでおすすめのリップクリームの記事を見かけても、もう信用できそうにないと思った。
その瞬間、私はふと我に返った。
今まで私が必死に検索していた、病気についての記事やブログ。それらも、もしかしたらこたつ記事だったのではないか。
もちろん、私がこれまでに読んだ記事の中には、ちゃんとした医療関係者や病気の経験者が書いているものもあるだろう。でも、ネット記事の大半は誰が書いたか判断できないものだから、デタラメな記事が混ざっていた可能性は否めない。ゲストの元こたつ記事ライターが記事を投稿していたサイトは閉鎖されてしまったとのことだが、他のライターによるこたつ記事がネット上にたくさん残っているかもしれないのだ。
このことに気づいた瞬間、それまでの私の「検索熱」がみるみる冷めていった。
それはまるで『美女と野獣』のラストでベルが野獣にキスをした瞬間のように、元こたつ記事ライターによって、私の「無限検索の呪い」が解かれた瞬間であったのだ。
この元こたつ記事ライターの話を聞いてからというもの、どんなネット記事を見ても、心のどこかに冷静な自分を持てるようになった。冷静な私は「これも、もしかしたらこたつ記事かもよ?」とささやいてくるのだ。
私は思った。これからはネット記事ではなく、私の主治医が言うことを信用しようと。
そうして今は、長時間ネット検索を続けたり、記事に一喜一憂したりすることはほとんどなくなって、以前より精神的に安定した日々を送れるようになった。
信憑性に欠ける記事をネット上にばらまいていたことはよくないが、そういう記事が少なからず存在することを気づかせてくれた元こたつ記事ライターの方には、お礼を言いたい。デタラメな記事を書いていた過去を、勇気をもって告白してくれたのだから。そして、それが私の呪いを解いたのだから。
あなたは「無限検索の呪い」にかかっていないだろうか?
情報に溢れた今の時代、本当に信用できる情報を見極めること、多すぎる情報と距離を置くことは重要だ。毎日あちこちで触れている情報に対して、発信しているのは誰か、それを信用してよいのかどうかを一度吟味してみてほしい。
そうすれば、あなたは自分自身で呪いを解くことができるかもしれない。
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