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  大切なひとへの「想いの伝え方」 あなたはどうしていますか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせ

記事:月之まゆみ (ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

近頃、自分のことは自分でできることに感謝しながらも、生きるということは、何と

雑用の多いことかと思いながら一生懸命生きています。

80才を過ぎた母から届いた葉書の一文だ。母は同じ市内に住んでいる。距離だけ見れば、お互いにいつでも尋ねることはできるし、元気コールも毎日母から届く。

だけど私たちは心の距離を埋めるために、母娘のコミュニケーションを手紙という手法でつないでいる。メールでもLineでもなく、ましてやSNSでもなく、言葉の次に2000年以上、続いている手紙という手法で気持ちをつないでいる。

私たち母娘は多くの親子の例にもれず、仲良く寄り添いたいと思うけれど、心配事ばかりが会話に先立ち娘の背中を押すことができない母と、自分の選択を肯定してもらえない悔しさや寂しさを蒸し返す娘。 二人の会話には小さなトゲが残った。

私の反抗期は遅かった。 母に褒められたくて、期待に応えられる娘になりたくて社会人になるまでまっすぐに育った。

努力して母の望む身の丈に合わない理系の会社に入社した。

男女雇用機会均等法が施行されて間もないころだった。女性でシステム系の会社に入社することは華々しいゴールだったが、入社した途端に目標がなくなった。 

目標のない長い社会人生活を自覚しはじめたころ、心に穴があき、私は仕事帰りに深夜まで遊びまわった。

そんな私に、母は何の小言も言わず、早朝に出勤する私のために朝食をつくってくれた。

そんなことは学生の時でさえなかった。 母も同じくキャリアの前線を走っていたからだ。

会社一筋に生きて、男性以上に第一線で活躍していた母は、子供の学校行事や旅行など一度も参加した記憶がない。

私の遅すぎる反抗期によりそい、ただ黙々と朝食をつくり一言も会話しないまま私が食事を終えて出勤するまで、母は見届け送り出してくれた。

それが6年半続いた。 

陽の昇る小さな台所にたつ母の無償の献身に対し、私は今も報いることができない。

そんな親子だからこそ、私はよい関係性を築くために文通を提案し、母も賛成した。

その往復書簡はすでの数百枚を数える。

文通を始めると意外な効果が顕れた。 母の文字は美しい。 

流麗な字体で書かれた言葉は、口から放たれる言葉より繊細で愛情に満ちている。

まっさらの葉書や便箋に向かうと、お互いに雑念が消えて純粋な気持ちだけが文字になる。

手紙には他愛のない出来事や時事への関心事、娘の健康への気遣い、そして誕生日にはその日の感動が温かい言葉でつづられてくる。

母の言葉通り、生涯のそのほとんどを私たちは雑用に追われて過ごしているのかもしれない。

好きなことに自由な時間を費やせる人でさえ、朝起きてから寝るまで、自分の身の回りのかかる手順は年齢や性別は関係ない。

便利になった現代に感謝しながらも、相変わらず私たちは三食の献立に悩み、生活にかかる費用や人間関係、仕事の意義に悩む。 そして愛する家族に伝えるすべに遠回りしている。

たとえアレクサがもっと進化して、身の回りの雑用をすべて引き受けてくれたとしても、心にのこる雑事から解放されることはない。

日常生活で、自分の世話ができない状態を最近では「セルフ・ネグレスト(自己放棄)」と呼ぶそうで、メディアでも特集が組まれるほど話題になっている。

原因は心的ストレスや生活への不安、認知症、うつ病、依存症、そして孤独などさまざまだ。

これは誰しも他人事ではない話だ。

ある日、いきなり生きることに意味を失い、立ち止まってしまったら……。

人生のそのほとんどを記憶にも残らぬ雑用に費やすとしたなら、いったい心満たす真意の時間はどれくらい残るのだろうか。

でも幸せに感じることの多くは、その毎日流れては消えていく無数の雑事の中から、蓮の花が咲くように生まれるのではないかとも思う。

歩むことをやめてはならない。

歩幅やその行先が皆、違ったとしても進むしかないと思う。

ネイティブ・インディアンのことわざに「人は生まれる時、自分は泣いて周りが笑うが、死ぬときは周りが泣いているが自分が笑っている」と聞いたことがある。

母もあらゆる雑用から解き放たれたとき、自由になって笑いながら人生を全うするのだろうか。

葉書を読み終えた私は、ゆっくりとやってくる母の将来を想像しながら、電話をかける。

「最近、どうしてる? 元気。葉書読んだけど……」

「あぁ、元気、元気。 でもお母さんね、ときどき生きるために食べてるのか、食べるために生きているのか、わからなくなる時があるんよ」

そう言って朗らかに笑う母。

私の予想を裏切って、与えられたもののなかでしなやかに明るく生きる姿に、いくつになっても母を超えられないと思う。

そして母からとどく手紙を心待ちにしている。

もしあなたが、大切な身近な人へずいぶん想いを届けていないと思うなら、手紙を書いてみてはいかがでしょうか。

心から手に伝わった言葉には、日頃、口にだせない心の底のやさしいあなたの言葉になってきっと伝わるはず。

 
 
 
 

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