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 井の中の蛙

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせ

記事:森典子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

「井の中蛙、大海を知らず」という言葉をご存知だろう。

私は、井の中の蛙である。社会人になって「保育」という井戸の中から出たことはない。

世界を股にかけグローバルで活躍する人たちがいる中で、ずっと子どもたちと過ごしてきた。保育士として働き、今は園長の仕事をしている。

3月に入ると、卒園証書の名前を書く。名前は子どもたちでも読めるように平仮名で書くのだが、これが案外難しい。保育園の卒園証書は、その子が生まれて初めてもらう賞状になる。だから、一字一字大切に書く。筆で文字を書くのは、一年にこの一回だけだ。

決められた場所にきれいに書くには、書き出しをどこにするかが決め手となる。名前の長い子などは、どこから書き出すといいか悩む。そしてもう一つ、苦手な文字に悩まされる。「し」「も」などの曲線が苦手だ。証書の予備は3枚。30人の子どもの名前を間違えず、集中して書く。書いている間は息を止めているので、書き終えてやっと大きく息を吸う。一年の仕事を終えた気分になる。

人によっては、字の上手い人に書いてもらう人もいる。でも、私は下手でも一人ひとりの顔を浮かべて名前を書く。
名前を書きながら、その子と初めて出会った頃の姿を思い出す。あんなに泣いていたのに、今では小さい子の面倒や、困っている子のことを気にかけるまでになった、とその子の成長を噛み締めながら、心を込めて書く。保育園時代の子どもは、ものすごい勢いで成長していく。

そんな時代だから大切にしたいことがある。「自分は愛される存在であり、困ったときには、人を頼っていい」と感じでもらうことだ。
そのためには、子どもたちを支える先生たちが、職場で自分はなくてはならない大切な存在であり、困った時には、困ったと言える環境を作ることが大事だと思っている。

大人に比べると未熟な子どもは、大人に負けない好奇心を持っている。そんな子どもたちの「やってみたい」を叶えてくれるのは、一番近くにいる担任の先生だ。
担任には一日何度も「先生○○したい」という声が寄せられる。その子どもたちの声に、耳を傾ける。「こんなことやってみたい」と言っているけど、どうしてあげたらその思いを実現させてあげられるのか悩む。

なんでもいいよと言ってあげたいが、怪我があってもいけない。そうかと言って、怪我はどんなに気をつけていてもなくなることはない。今年も医者に連れて行く怪我が何件かあった。それでも、子どもが担任のことが好きで、お友だちが好きであれば、親は怪我したことも許してくれる。子どもの目の輝きと苦情は反比例する。だから、苦情を恐れることよりも、子どもたちが満足して毎日を送れることに力を入れたい。それはどんな商品の販売でも同じように思う。

つまり「顧客満足度」というものだ。私の顧客はあくまで「子ども」。決して親ではない。顧客の子どものためなら、親とも戦う覚悟でいる。あまり戦いは好まないが、これは何とかしなくてはということに関しては、親の出方を予測して、十分担任と戦略を練ってから、戦いに挑む。しかし、攻めるための戦いではない。「こうすると、もっと子どもの目が輝く」ということを理解してもらうためのものだ。

子どもの目が、輝く時とは一体どんな時か。人は生まれながらにして、好奇心をたくさん持っている。いたずらをしている時のなど、まさにその瞬間だ。大人なるにつれて、人は知っていることが増える。そうすると、周りの状況を当たり前と思い、些細なことを気付かなくなる。

先日保育園の木を剪定した。その時、小さな桜の木の枝が落ちていた。その枝を見つけて、私のところに持ってきた子どもがいた。
「これ、お水にさしておいたら咲くかな?」と言った。咲かないだろうと思いつつも、
「じゃあ、瓶あげるから、差しておく?」と答えた。それからずっと小さな瓶に入れられた桜の枝は、外にある下駄箱上に置かれた。私はそのことその後すっかり忘れていた。
それから約二週間。私がクラスに行くと、なんと桜の蕾が膨らんでいるではないか。
「ねえ、この桜咲くかもね」とこっちの方が興奮して言うと、

「うん、そうだよ。私たちが毎日お水換えてあげてるもん」と子どもが答えた。

子どもたちは、自分たちの力で自分の思っていることを信じて確かめた。
私は信じることの大切さを子どもたちに教えられた。

そんな訳で、私は井の中の蛙で、満足している。保育という井戸には下からドンドン新しい水が溢れてきて、まだまだ知らないことや教えられる。
私はいつまでも、この湧き出てくる井戸の水を大切に守っていきたいと思っている。

顧客である子どもは、自分で保育園を選べない。だから、子どもの目の輝き少しでも増やしていきたい。そして、この井戸から出て行った子どもたちが、大海で活躍していく姿を見守っていきたい。

だから私は、少しでも子どもの素晴らしさを伝えい。この文章を最後まで読んでももらった人に、子どもって素敵だなと感じてもらえたら嬉しい。

 
 
 
 

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2021-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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