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 人生一度は富士登山だ!

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせ

記事:藤岡恵子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

「体力に不安のある人は前のほうに来てくださーい! 」

ガイドさんの声で、参加者たちはそれぞれお互いの様子を見ながら列をつくっていく。

「それでは、出発しまーす! 」

ガイドさんについて、ゆっくりゆっくり歩き始めた。

いよいよ、わたしの生まれて初めての登山が始まる。

富士山には4つのルートがある。

山梨県側からの吉田ルート、静岡県側からの富士宮ルート、須走ルート、御殿場ルートの計4つ。

登山者が一番よく利用していて、夏にテレビ中継でよく見たりするのが吉田ルート。

わたしたちのツアーも吉田ルートを利用して歩き始めた。

登山道に入ってからしばらくは樹木が茂っている。

でもそれも束の間。

徐々に樹木は姿を消していき、わたしたちがイメージする岩と砂利の斜面に変わっていく。

ふと立ち止まって見上げると、ずっとずっと上まで岩と砂利のグレーの斜面が続いている。

わたし、ほんとに頂上までたどり着ける……?

一瞬、不安になったけど、ここまできたら、もう行くしかないでしょ。

岩と砂利の道に変わってからは自然と足元に注意がいってしまう。

さらに空気も薄くなってくるので、だんだんとしゃべっている余裕はなくなってくる。

黙々と歩き続けて、ようやく山小屋へ着いた。

荷物をおろすと、山小屋の人たちが夕食の準備を始めてくれる。

目の前に置かれたシンプルな山小屋カレー。

ああ、なんておいしいの……。

疲れた体にあったかいカレーがしみる。

ほんの数時間の仮眠をとってから小屋を出発。頂上へ向けてふたたび歩き始めた。

深夜の富士山は真冬並みに寒い。

ダウンジャケットを含めて持っていった服すべてを着て、さらに防寒具代わりのレインコートを着ても、まだ寒い。

それもそのはず。

真夏の時期でも、深夜の富士山は2~3度くらいまで気温が下がる。風が吹けば、体感温度はそれ以下だ。

それでも1時間ほどゴロゴロした岩場を登ると体も温まってきて、周りを見る心の余裕が少し出てくる。

夜はみな、ヘッドライトを頭につけているので、登山道に沿っていくつものライトが光っている。

こんなにもたくさんの人が登っているのかと驚く。

そして、ここにいるみんなが頂上を目指してがんばっていると思うと、心強くなる。

テレビで見たことある人も多いかもしれないけど、吉田ルートは人気のルートで、よく登山者の渋滞が起こる。

前の人が岩場を登りきるのを待っている間、なにげに見上げると満天の星空と流れ星が見えた。

流れ星に元気をもらって、また、黙々と登り続ける。

体がきつくなるたびに「ここでやめたら、わたし、後悔しない? 」と自分に問いかけて、なんとか足を運び続ける。

でも、それも頂上間近で限界がきた。

すぐそこに頂上が見えているのに、体が動かない。気分が悪い。

ガイドさんに指示された場所で座って体を休めながら、ぼーっと太陽が昇る方角を見ていると、地平線の色が少しずつ変わっていく。

太陽のあたまが見え始めると、あちこちから「わぁぁぁ」という声が聞こえてきた。

頂上のほうからは「ばんざーい! ばんざーい! 」という声も聞こえてくる。

わたしは、頂上までたどり着けなかった悔しい気持ちなんてすっかり忘れて、太陽が昇るのをただただ、じっと見ていた。

太陽がすっかり昇りきったころには、心の中はあったかい気持ちでいっぱいになっていた。

しばらくご来光の余韻を楽しんでから、下山を始めた。

下るにつれて、あんなに気分が悪かったのがウソみたいに治った。

どうやら軽い高山病だったらしい。

途中、トイレに寄って並んで待っていると、同じツアーの若い女の子たちのグループを見かけた。

ツアー中もほとんど話しなんかしてないのに、大勢の登山者たちの中で会うと、「一緒に富士山に登った」という妙な連帯感が生まれていることがおもしろかった。

この富士登山をきっかけにわたしは山登りにはまったんだけど、年季の入った山好きな人にこの話をすると、ほんとの山好きは富士山には登らないらしい。

岩と砂利だらけの道を歩いても何も楽しくないんだそうだ。

うん、確かにそのとおり。景色はけっしていいとは言えない。

でもね、何か違うんだよ、富士山は。

わたしは、この初めての富士登山のあとも3回富士山に登った。

登りたくなるのは、決まっていつも心がくすぶっているとき。

富士山てほんとに登るのがきついから、気づいたら「無」になってるの。

「無」になってるんだけど、遠くに見える麓では普通に日常生活を送っている人がいて、でも今、わたしはこんな樹木も生えないような無骨な自然の中にいる、っていうギャップみたいなものを感じた瞬間、なんとも言えない自分の小ささみたいなものを感じるの。

ほかの3000m級の山にも何回か登ったことはあるけど、この感覚は富士山とほかの山では微妙に違うんだな。

きっと登った人はみんな、多かれ少なかれ、この微妙な感覚を味わってるんじゃないかと思う。

だから、富士山を特別なものに感じてしまうんだ。

心がくすぶって、どうしようもなくなったら、ぜひ富士登山をおすすめしたい。

きっとなにか感じるものがあると思う。

人生一度は富士登山だ!

 
 
 
 

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2021-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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