メディアグランプリ

奇跡のゾウ、エンケシャ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせ

記事:細田 茜(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

私は初めて彼女を見た時、言葉を失った。

彼女というのは、エンケシャという名の2歳ばかりのアフリカゾウのこと。同い年のゾウと変わらず、砂で戯れて元気に遊んでいた。そんなエンケシャの鼻は、今にもちぎれてしまいそうだった。

遡ること1年半前。アフリカ大陸、ケニヤの国立公園の一角にて。パークレンジャーが大声で鳴きわめいているゾウの親子を発見した。

パニック状態の母ゾウの機嫌を見ながらそっと近づくと、どうやら子どものゾウの鼻に罠の紐が絡まっていたようだ。罠の紐は引っ張るほどきつくなる仕組みで、子ゾウはもうだいぶ弱って横たわっていた。

本当なら、こんなに幼いゾウを親から引き離すのは極力避けた方が良い。しかし、これは命に関わる緊急事態だった。レンジャーはすぐさまレスキュー隊に連絡し、子ゾウはヘリコプターで本部に連れてかれた。

ヘリコプターが到着してすぐに手術は始まった。みんな緊迫した面持ちで4時間という長い間結果が出るのを待った。

彼女は助かる。

紐の傷が深く、危うく鼻を切断しなければならなかったが、安静にしていれば若いし鼻は元に戻る。

レスキュー隊のみんなが一斉に歓喜の声を上げた。そして、彼女にエンケシャという名前をつけた。

「よかった!エンケシャ、もうすぐしたら親のところに帰れるよ!」

とりあえずエンケシャは麻酔と手術の影響で疲れていたので、暖かいブランケットとぬいぐるみで包んで小屋で一晩寝かせた。

次の朝、レスキュー隊また彼女の様子を見に行った。

「なんということだ!また出血している!?」

なんと、エンケシャは夜中に手術の縫い糸を自分でちぎってしまったらしい。そのせいで、くっつくはずだった鼻の切り傷がまた離れて出血したのだ。しかもそれに加えて、回復途中の段階で鼻をくっつける手術をするのは無理だと言われてしまった。

止血はすぐにできたものの、鼻が元の状態に戻せないのならば、問題だ。自然界で怪我や障がいを持った子どもは生存率が極めて低い。場合によっては、群れが受け入れてくれないこともある。

かわいそうではあるが、エンケシャは傷が回復しても親に返さず、しばらくレスキュー隊の本部で他の孤児のゾウと暮らすことになった。

エンケシャははじめ恥ずかしがり屋で、他のゾウの子どもに会う時は、お世話がかりのレンジャーさんの後ろに隠れてばかりいた。

でも、同い年のゾウたちはエンケシャに興味を持ち、共に探検や食事に誘って遊んでいるうちに彼女はみんなと仲良くなった。

彼女は他の子に比べて大人しいところはあるが、好奇心旺盛で傷ついた鼻を器用に使って身の回りの新しいものを探ったり、自分なりの方法で水を飲んだりするようになった。

最近では、次々に訪れる年下のゾウの子どもに寄り添って、姉のような存在として色んなことを教えているそうだ。レンジャーの人たちも、彼女は自然を生き抜くために必要な適応能力と知恵を身に付けていて、もしかしたら元いたところに戻れるかもしれないと期待している。

残念ながら、エンケシャのように人為的な理由で孤児になったり、親から離れざるを得なくなったりしたゾウの子どもは年間に何百匹もいる。それでも、善意の心をもって子どものゾウを必死に助けてお世話をする民間の団体はケニヤにいくつかある。

今回エンケシャを助けて、また自然界で生きる希望を持たせたのは、シェルドリック・ワイルドライフ・トラストという団体だ。この団体は、40年前にシェルドリック一家が自然を愛し、特に孤児になってしまった動物を助けたいという思いで始まった。

現在は約20匹のゾウの孤児と数匹のサイの孤児を面倒見ている。そのほとんどは、密猟で親が殺されてしまった子どもたちだ。

こうした孤児たちの面倒を見るためには多額の費用がかかる。そもそもゾウの子は一日に10リットル以上ものミルクを飲み、清潔を保つために小屋を頻繁に掃除しなくてはならない。

そのため、この団体は寄付を募ったり、ゾウ達を見学するコースを設けて、入場料を徴収したりしている。しかし、これだけでは十分ではない。しかも、昨年からコロナの影響で、見学コースは中止になって、資金難に直面している。

この団体のユニークなところは、資金源としてゾウの里親という形も一般の人からお金を集めている点である。これはつまり、気に入ったゾウのために毎年一定の額をこの断定に振り込む代わりに、毎月ゾウの成長日記や写真をメールで送ってもらえるというものだ。一頭のゾウに対して何人でも里親になれる。

実は私はエンケシャの里親である。2年前にケニヤに行ったとき、私はエンケシャと会い、障がいがあっても元気に遊びまわる彼女にすっかり心を惹かれてしまったからだ。

Sheldrick Wildlife Trustというサイトに行くと孤児のゾウの紹介がある。自分の好きなゾウの里親になる申し込みもできる。もし、少しでも興味がわいたら、是非里親になってこの子たちを応援してほしい。

 
 
 
 

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2021-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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