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20ミクロンが紡ぐ世界

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせ

記事:岩渕千佳(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

私は、時々呉服屋さんに遊びにいきます。

高価な着物はそうそう買えませんが、着物や帯を眺めたり、ちょっと触らせてもらったり、企画展示で来られた反物屋さんや織物屋さんから、その着物、織物に込められたエピソードや、どのように作られているのかという話を聞くことがとても好きです。

着物の色彩、絵柄、文様、歴史や背景、その織りなす世界観が好きなのですね。

先日、馴染みの呉服屋さんに遊びに行った際に、丹後発祥の織物の名門、「永治屋清左衛門」の方がお見えでした(呉服の世界では、清左衛門というそうですので、以後、清左衛門さんとします)。

清左衛門さんは、文化庁から依頼をされて、安土桃山時代の「小袖」の復元もされています。織田信長の妹のお市の方の肖像画を元に復元した「お市の方の小袖」を、展示会で見たことがありますが、技術力が高いことでも有名です。

「唐織」というのは、もともと、中国(唐)から入ってきた織物から融合して生まれた、日本の染織技術を代表する絹織物の一つです。文様になる箇所に絹糸をあたかも刺繍のように立体的に織り上げる技法になります。唐織の着物は、室町時代は将軍やその側近の有力武家にのみ所有を許されていた着物だそうで、それが、能楽の衣装として使われるようになったり、花嫁衣装としても用いられるようにもなりましたが、現代では、唐織は「帯」を織る技術でとなっていて、その中で、唯一、清左衛門さんだけが、その技術力を生かして、着物も制作されているのだそうです。

清左衛門さんは、着物や帯は、幻の絹糸と呼ばれる「ブラタク社の6A」という絹糸を使っています。これは、清左衛門とエルメス社だけが使用している絹糸だそうです。

最高級の糸を使った帯や着物は、光沢があります。そして、細い糸ということもあって、繊細です。

清左衛門さんの帯は、細やかで高い技法がふんだんに織り込まれています。そして、色合いも美しく、私は、お店に飾られている帯を見て、しばらく見惚れてしまいました。

見惚れていたら、気を良くしたのか、清左衛門さんが、色々とお話を聞かせてくださいまして、幻の糸「ブラタク社の6A」という絹糸と一般的な養蚕の絹糸を、実際に見比べさせていただきました。太さも光沢も、素人目にわかるほど違います。

日本の蚕の古来主として代々の皇后陛下が宮中で養蚕されている「小石丸」という蚕の名前があります。この「小石丸」は非常に細く上質の絹糸を生み出します。ですが、とても品質が優れている一方で、あまりにも小粒で繭から取れる糸の量が少ないため、経済性に欠けるということで、商業養蚕から姿を消し、非常に貴重な品種となっています。

以前、この「小石丸」の絹糸も実物を見せていただいたことがありましたが、「小石丸」の絹糸も一般的な養蚕の絹糸を並べたら、やはり、太さや艶が全く違いました。そして、清左衛門が使う「ブラタク社の6A」という絹糸は、この「小石丸」より高価なのだそうです。

そして、もう一つ見せていただいたもの、それは「蚕の繭」です。

「蚕の繭」の現物をみたことがありますか?蚕は絹糸を産み出してくれる蚕ですが、サナギになるときに糸を口から吐き出し、身を包み、その中で孵化を待ちます。

この繭には、「上・下」があるのだそうです。実際に触らせてもらいました。下の方が硬くて上の方が柔らかい。繭の中で蚕は上向になっているのだそうです。蚕が吐き出した繭の糸は一本になっています。その糸端を見つけて、糸を引いていく。

「ブラタク社の6A」や「小石丸」の繭糸は、20ミクロンだそうです。そのミクロンの糸端をベテランの職人は、いとも簡単に見つけて、引いていく。その糸も、太さが違っては良い織物になりません。糸を作ることにもこだわりと高い技術が使われているそうです。

清左衛門さんとの雑談の中で「今、全体的に高齢で、この細さの糸を紡ぐ人がいない。そして、この細さの糸を手織りで織れる人が年々いなくなっているから、そのうち、今見ている贅沢な織物には、出会えなくなる日が近いと思いますよ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

数百万円の値がつく、手で紡いだ糸、それを使った反物は、2年〜3年かけて織られます。糸がとても細いので、毎日織っても、少しずつしか出来上がらない。手織りの職人の方は、「3年後も生きているとは思う。でも、この先の3年、毎日同じ体調で、同じ調子で旗を動かせるか、その自信がない」と言って、仕事を引き受けないと言います。

それ程に、繊細な世界でもある、ということです。

20ミクロンの糸を紡いで、その細い糸を精密な機織りの技術で、芸術的な作品に仕上げていく。本当に贅沢な世界です。そして、それが数年後には、もしかするとなくなっていくと思うと、蚕の短い命のように儚さも感じます。

高価な絹糸をふんだんに使った清左衛門の唐織。

呉服屋さんに行く機会は、なかなかないかもしれませんが、清左衛門の織物があったら、ぜひ、見せてもらってください。その崇高で高い技術力、そして、非常に、マニアックな世界観を堪能されてみてください。

そこまでやりますか?という世界観です(笑)。

 
 
 
 

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2021-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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