父親は、馬鹿くらいの方が、子どもは気楽でいい。
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記事：黒尾勉（ライティング・ゼミ平日コース）
「父ちゃんは、頭が悪いからね〜 」
子どもから、バカにされる。
その理由は、はっきりしている。
出身高校の学力レベルが低いからである。
確かに、勉強をしなくてもいい高校だった。
勉強をしなくてもいい環境というのは、誘惑に近い。
勉強をしなくてはいけないと思っていても、授業内容も友人たちも同様の学力とやる気のなさで、プレッシャーのない状況なのである。
毎日が、遊び優先。テレビの話題。部活の話題。バイトの話。女の話。
興味だけで生きている毎日なので、勉強という痛みにチャレンジすることに意識が向かないのである。
実質的に、勉強ができない人間が育成される環境だった。
さらに、その頃の昭和反抗期ブームが勉強しないことを後押ししていた。
「金八先生：第２シーズン」が流行っていた、校内暴力が全国的に横行していた時期である。類似コンテンツとしては「ビーバップハイスクール」「スクールウォーズ」などもある。そのドラマの中でも見かける様子として、勉強している生徒は、ガリベンとか言って、からかわれる、いじめられる対象になっていた。
勉強することが、かっこ悪いと言われたりする風潮だったのだ。
不良がカッコイイとされる時代だった。
私の認識としては、10%がガリ勉タイプ。90％が悪ぶっているタイプ。
「悪ぶっている」＝「カッコイイ」方程式で生きているのだから、当然、勉強なんてしない。ある意味、勉強しない理由の中、安心感で高校生活を送っていた。
高校の同級の友人に、高田というのがいる。素行も悪く同じ学校だけに、もちろん成績も悪い。
その高田が、３年生に上がると、雰囲気が変わったのである。
知らない間に、成績が上がって進路希望に大学進学とか言い始めていた。
素行も落ち着いてきた。
私の高校は、工業高校なので、進学よりも就職がほとんど。授業も専門学科があるので、一般教科は、頑張らない生徒ばかりなのである。
そんな中、高田の変貌ぶりには、クラスのみんなも驚いていた。
今思うとそのショックは、羨ましい感情だったんだなあとハッキリと分かる。
そして、大人の労働社会に出ると思い知らされる。
知識の無さに、恥ずかしい思いをするのだ。
会話についていけない。
板書をしても、漢字が書けない。
売上や利益の計算についていけない。
そうやって、学歴コンプレックスが明確に、嫌な感情として刷り込まれていった。
ただ、負けん気の強さもあり、頑張るしかないと頭よりも心が機能していたように思うのだが、人と比較して、頑張ることを身につけた。努力だけが味方だった。
「あいつよりも、技術は上手くなった」
「あいつよりも、専門知識は知っている」
とかの、自分を誇示するための結果だけを追い求めた。
その結果、専門的な仕事はできるようになり、お金を稼げるようになった。
結果として、学歴よりも、お金を稼ぐことで自分の存在を周りにアピールするようになった。お金は、技術と人脈で稼ぐのは、普通のことになった。
しかし、学歴コンプレックスからの劣等感からの脱出はできなかった。
部下ができると、仕事を教えることになるのだが、私のやっていることは、他の人にもできるはずだと当たり前のように思って指導していたので、できない部下を理解ができなかった。
その部下たちは、大学を出て勉強してきて社会人になっているのだから、僕よりも賢い人種なのだから当たりまえにできるだろうと。
ある日、お客さんの白石さんと飲んでいる時に部下の愚痴を聞いてもらっていた。
最初は、ふんふんと静かに聞いてくれてたのだが、酒が回り始めると、抑えていたものが吹き出るように、語尾を強めに絡んできた。
「そもそも、自分が頭悪いと思っている時点で、頭悪いよね！ 」
すぐには、理解できなかった。
「そんなに仕事ができているのは、当たり前じゃないだろ！ 」
「学校とか関係ねえだろ！ 」
「だから、仕事をお願いしてるんだけど！ 」
なんだか、自分のことで怒っている。一生懸命に、言ってくれている。
僕もお酒のせいもあるのか、うるっときてしまった。
頭の中でぐるぐる
これって、頭良いって言ってる？
認めてもらってる？
大事に考えてもらっている？
自分のやってることって、普通にできないの？
このあたりの理解が遅いのは、頭悪いだろ。
しかし、学歴コンプレックスから、人より劣っている感覚が、受け取ることを邪魔している。そのことを、なんとなく意識できた事件だった。
そのことをキッカケに、僕のまわりに変化が現れてきた。
ある時、部下から仕事の課題について解決方法が見つからないと相談があった。
確かに通常のやり方では解決しない案件だったのだが、少し考える方向を変えると、お客様にも納得いただけそうな思いつきを話してみたら
「部長って、頭が良いですね！ 」
と、びっくりする言葉が出てきたり
友人が職場の人間関係のことで愚痴ってたので
「それって、こう考えれば納得できない？ 」とか話していると
「お前って、やっぱり頭良いね」と
すんなり、当たり前のように、話してくる。
そのことのキッカケをくれた、白石さんに、改めて話してみると
「だから、言ってるじゃん。お前は頭良いんだって」
「そもそも、学歴があるから頭いんじゃなくてって言ってるやん」
いつになく、嬉しそうに言ってくれる気持ちが、とても嬉しかったことを
今も感情として覚えている。
確かに、大人になってから、勉強してきたことはたくさんあった。
営業の方法。
会社の作り方。
経理のこと。
デザインの知識。
ホームページ制作の技術。
広告の知識、やり方。
パソコンの使い方。
名刺の渡し方。
ビールの注ぎ方。
食事のマナー。
ライティングの勉強。
本の読み方。
健康について。
動画のこと。
政治のこと。
などなど
足りないものを、その都度、埋め合わせてきた。
その「嬉しい感情」に気づいた瞬間から、学歴コンプレックスは、消えていた。
今では、自分が工業高校出身であることすら、どうでも良くなっている。
その証拠に、人前で、出身高校を言えるようになったから。
僕ができることは、当たり前じゃない。自信を持って言える。
相変わらず
子どもは、
「父ちゃんは、頭が悪いからね〜 」
「工業高校だもんね〜」
なんて言う。
けど、今は、分かる。
そんなこと、認めてるから言えてることも。
学歴じゃない違う部分を子どもは知ってくれているのだと
そう思うことにした。確かめたわけじゃないけども。
頭の良い父ちゃんよりも、気楽に話しかけれる父ちゃんが良い。
父親は、馬鹿くらいの方が、子どもは気楽でいい。
そして、今やりたいことがある。
仕事が軌道に乗って時間を作れたら
来年には、大学で勉強したいと考えている。
芸術大学に社会人枠として入学をする。
学歴のためではなく、専門の興味のあることを勉強したいために。
自分の豊かな人生のために。
やはり、勉強は、面白い。
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