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クレタ人は、うそつきだ〜わたしが本を読む理由〜


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:古山裕基(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
わたしは、中学生の時に数学のテストで4点を取ったことがある。
もちろん100点満点で。
そのテストは、たった2問。
第1問目は、こんな問題だ。
“むかし、「クレタ人は皆ウソつきだ」と言った人がいた。それを言った本人もクレタ人だった。これについて論じよ。”
 
当時の数学の先生は定年が近いK先生だった。
彼は、海軍兵学校という、戦中にあった海軍の士官養成のためのエリート校出身だった。
 
K先生は、いつも黒い淵の眼鏡をかけ、黒マントであらわれ、片手にはパイプを持っている、そんな姿で教壇に立つ先生はいなかった。
 
K先生は、ぼくたちにとっては、とてもおっかない存在だった。
 
例えば、
強烈なビンタ。
しかも、殴る前に「足をひらけー」、「歯ぁー食いしばれー」、「用意はいいかー」。
そしてビンタ、あまりの勢いに生徒はぶっとんでしまう。
 
でも、ちょっとユーモラスな先生でもあった。
例えば、
晴れの日に、傘が傘立てにあると、激怒するのだ。
そして、
「傘さん、傘さん、ごめんなさい」と傘に謝らせる。
 
K先生の校内放送は、学校の近所では名物だったらしい。
放送は、必ずある一言から始まるのだ。
それは、「えー、達する」だ。
例えば、
休み時間、騒いでいると「えー、達する。上の教室で騒いでいるやつ、すぐ職員室へ来い!」
「えー、達する」が、近隣まで響き渡っていたという。
 
K先生の数学の授業では、
全く教科書を使わない。
どんな授業かというと、
ラクダと戦った話。
赤い褌をつけて、泳いでいるとサメに襲われた話。
車を運転していると、道に犬がペッチャンコになっている。だから犬煎餅やね! というオチがよくわからない話。
などなど、
 
そして
哲学の話をするのだ。
教科書には、全く関係ない。
 
ほとんどの生徒は、その話がチンプンカンプンだった。
ラクダの話は、おもしろいのだが、哲学の話を始めると、居眠りしてしまう。
そんな時は、突然、信じられないような大声で、
「おっさんよー!!!」と怒鳴られ、
前に呼び出されて、
マジックペンで、口にちょび髭を描かれることもあった。
 
そんなK先生のテストは、
“むかし、「クレタ人は皆ウソつきだ」と言った人がいた。それを言った本人もクレタ人だった。これについて論じよ。”
 
これは紀元前600年のクレタ島の哲学者エピメニデスのパラドックス(逆説)と呼ばれるもので、別名を“自己言及のパラドックス”と呼ばれている。
その当時、わたしはそのことを全く知らなかった。
 
解説すると、
“クレタ人はウソつき”を真とするなら、「クレタ人はウソつき」という発言はウソになり、それを言った「クレタ人は正直者」である。
つまり
“クレタ人はウソつき”と言ったクレタ人は、正直者。
 
一方で
“クレタ人は正直者”を真とするなら、「クレタ人はウソつき」という発言は真になり、
それを言った「クレタ人はウソつき」である。
つまり、
“クレタ人は正直者”と言ったクレタ人は、ウソつき。
 
2つの仮定は、いづれもパラドックス、つまり逆説なのだ。
 
これは、哲学であるが、数学の基礎問題でもあると、K先生は言う。
数学には、単純に数字という答えが必ずあると思っていたぼくは、驚いた。
この問題には、そんな単純な正解が出ない。
なぜ、K先生は、中学生の私たちにこんな問題を出したのだろうか?
 
K先生は士官として任官し、そして終戦を迎えたようだ。
混沌とした時期が、K先生にとっての学生時代だった。
軍人としての覚悟を持ちながら、敗戦を迎えることになる。
明日、死ぬかもしれないという不確実性のなかで、彼は哲学書に答えを求めたのではないだろうか。
 
第2次ベビーブーマー世代の私たちが受けた大学での教育は、社会に出るまでの猶予期間であり、社会も私たちをあてにしていなかったと思う。
そのためか、本を読んだり、大学に行くことは、社会では役に立たないというイメージがあった。
その反動だろうか、
今では、
本は、哲学書に比べたら、語学、PC、料理などの実用書を読む人の方が圧倒的に多い。
そして大学でも、“役に立つ学問”とか“社会人としてすぐ役に立つ戦力になる人材育成”という言葉をよく聞く。
まるで、はっきりした答えを得るために本を読み、学問をする。
 
しかし、
明日、死ぬかもしれないという不確実なあの時代には、はっきりとした正解がなかった。
そんな時に、学問や本がK先生を支えてくれたのではないだろうか。
士官学校で行われる教育は、実践的だったと聞いている。
しかし、K先生は、哲学書など多くの本を読んでいたのではないだろうか。
K先生は、よく「大学時代は良い、最高だ」という話をしてくれた。
先生の出題の意図は、
学問や本を読むことを、幼い中学生のぼくたちに勧めていたのではないか。
 
そして、今も不確実な時代だ。
マスクをするのが当たり前の生活なんて、誰が予測しただろうか。
そして、はっきりした正解がない問題ばかりだ。
だからこそ、K先生のことを、30年以上たった今、思い出すのだ。
 
さて、テストの2問目は、
“昔から、正義は勝つと言われているが、なぜか”だった。
ぼくは、こう答えた。
“正義は、強いから”
これには、○がしてあった。
4点はこれだ。
 
なぜ、正解なのか、あの時もわからなかった。
今も、よくわからない。
今まで、たくさんの本と出会ったのだけれども。
 
だから、これからも、私は本を読む。
 
 
 
 
****
 
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2021-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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