だから踊りはやめられない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:藤岡恵子(ライティング・ゼミ平日コース)
暗転。
足おとを立てないように、つま先立ちで舞台のうえを歩く。
所定の位置へつき、深く深呼吸をしてから、最初のポーズをとる。
アーティストが音楽を奏ではじめると、徐々に照明が明るくなっていく。
前奏が終わりにさしかかる。
もう一度、深呼吸。
わたしの踊りがはじまる。
わたしが習っているフラメンコの教室の発表会の日程は、本番の約1年前に決まる。
なんの曲を踊りたいかを先生に伝えて、OKがもらえると発表会で踊ることができる。
わたしは「グアヒーラを踊りたい」と、先生にお願いした。
この「グアヒーラ」という曲は、フラメンコの中でも特に明るい曲で、扇を持って踊る、とても女性らしい曲だ。
自分で言うのもなんだけど、「女性らしさ」とは無縁なわたしが、どこまでこの曲を表現できるのかチャレンジしてみたいと、まえまえから思っていたのだ。
先生からOKが出て、発表会で踊る曲が決まった。
まずは、2~3か月くらいかけて振り付けを覚える。
ひと通り踊れるようになったら、ひとつひとつの振りをどのように表現すればグアヒーラらしくなるのか、先生に指導してもらう。
そして、先生に教えてもらったことを何日もかけて練習して、体に叩き込んでいく。
週に2~3回ではじまった自主練習は、先生の指導を受け、発表会が近づくにつれて、ほぼ毎日へと回数は増えていく。
本番の2か月くらいまえからは、踊っている途中でバテテしまわないように曲の最初から最後までを通して踊る練習を何度も何度もくり返す。
この頃には練習のし過ぎで、いつも体の調子が悪くなる。
そして、「これ以上はもうムリー!! 」という精神状態になっている。
でも、この精神状態になって、わたしはやっと安心して本番の日をむかえることができるのだ。
発表会当日。
身支度を整えたわたしは、楽屋で出番を待っていた。
楽屋にあるモニターから2組まえのグループが踊る曲が聴こえはじめてきたので、楽屋から舞台袖へ移動する。
すでに舞台袖でスタンバっている1組まえに踊る仲間と、
楽しんで踊ろうね!
と目で会話し、お互いにうなずき合う。
まえのグループの曲が終わって舞台が暗転すると、仲間が舞台へと出ていく。
舞台袖はわたしひとりだけになり、自分の踊りへ意識を集中していく。
会場から拍手の音が聞こえて、ふと我に返った。
舞台が暗転し、仲間が舞台袖に戻ってくるのと入れ違いで、舞台の下手側に置いてあるイスまで移動し、座って衣装を整える。
深く深呼吸をしてお腹にグッと力をいれ、最初のポーズをとると、ギターのメロディーが始まった。
次いで歌がはじまる。
その歌ごえがあまりにも心地よくて、わたしは自然と体がメロディーにのっていく。
前奏部分が終わりにさしかかったところでもう一度深呼吸をして、イスに座ったまま動き始める。
扇を開いて煽ぎながらイスから立ち上がり、ゆっくりと歩いて舞台中央まで移動していく。
そして、踊りはじめの合図の振りをし、わたしのグアヒーラがはじまった。
振りごとに、先生が見本を見せてくれたときの踊りのイメージ、先生が教えてくれたこと、自分なりに曲を研究して「この振りは、こんなふうに表現したい」と思ったイメージを思い出しながら、ひとつひとつ、すべての振りを大切に踊った。
でも、なによりも大切にしたのは、本番でしか味わえない独特の空気感。
わたしひとりの踊りを、バックのアーティストの人たちが全力で支えてくれて、会場のたくさんのお客さんがとても温かい目で応援してくれる。
みんなの気持ちが伝わってくるから、幸せな気持ちになってきて自然と笑顔になる。
そして、
わたし、フラメンコが大好きー!
今日、みんなのまえで踊ることができて、わたし、ほんとに幸せだよー!!
っていう気持ちを込めて踊った。
踊りの最後のポーズをきめる。
本番はあっという間に終わった。
暗転。
ふたたび、つま先立ちで歩いて、舞台袖に戻る。
1年近い時間をかけて創ったグアヒーラが終わった。
素晴らしいアーティストの人たちと、素敵な舞台の照明、そして、今回の振り付けでグアヒーラを踊ることは、もう二度とない。
「舞台」は一期一会。
素敵な舞台ができたときほど、もう二度とこの曲をこのメンバーで踊ることはできなんだな、と寂しくなる。
でも、そんな高揚した感情もほんの束の間。
日常に戻って冷静になると、こう踊ればよかった、とか、もっときちんと踊れたはず、とか、マイナスな部分がどんどん思い出されてくるのだ。
先日テレビである芸能人が言っていたことを思い出した。
司会者から、素晴らしいパフォーマンスだったと言われたことに対して
「100点ではないけど100%で歌えた」
と、答えていたのだ。
趣味で踊ってるだけのわたしがこんなこというのはおこがましいけど、すごく共感した。
発表会が終わって日常が戻ると、
「間違いなく、発表会の時点でのベストは尽くせた。でも、もっと素敵に踊れるはず」
と、いつも言っているから。
***
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