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メディアグランプリ

二面性をもつトゥクトゥクドライバーとの一日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:林 豊秀 (ライティング・ゼミ 超通信コース)
 
 
「ヘイ! ミスター! レディはどうだ? クメールの女はいいぜ! 俺に任せなよ!」
 
飯でも食おうと繰り出したPUB STREETで、僕はトゥクトゥクドライバーのRothに声をかけられた。
 
とにかく陽気で、どこかで覚えた日本語の下ネタを連発。
マシンガンのようなセールストークに思わず苦笑した。
 
いつかは行こうと思ってたアンコールワット、カンボジアのシェリムアップに僕はいた。
アラフィフになって2度目の海外一人旅。とにかく日常からはみ出したい気持ちでいっぱいだった。
 
そういう意味でRothのような奴は旅のアクセントにはもってこいの人材だ。
発展途上国ならではのエネルギッシュさとスリル感を提供してくれる。少々老いを感じて消極的になってきた自分に喝を入れてくれるような気がする。
 
「でも、そんな気分でもないしなあ……」と適当に会話を楽しんだ後やんわり断ろうとすると、じゃあ俺をチャーターしてくれと言ってきた。
 
チャーターか……
次の日は既に別のドライバーに頼んでしまってたけど、明後日に行こうかとおもってたベンメリア宮殿はまだ決めてなかった。
うん、確かにこいつとなら楽しいかもしれない。これも何かの縁だろう。。
彼にOKの返事とLineのアドレスを交換して別れた。
GOODな選択をした、とこの時は確信していた。
 
 
 
そして当日の朝、
 
宿に迎えに来たRothは、二日前の夜とはあきらかに様子が違っていた。
 
約束の時間の30分前にやってくる生真面目さそのままに、
こちらから話さないと沈黙が続く寡黙な青年と化していた。
 
さすがに朝からあの調子は難しいのかな?
しかし、ベンメリアに着いた後もRothの様子は全く変わらなかった。
こちらから話しかけても、ほぼ二言、三言で会話が終わってしまう。。
 
どうやら彼の本来の性格はこっちで、あの夜は商売のため精いっぱい演じていたようだ。
騙された……と思うと同時に、僕は焦りにも似た怒りを感じた。
カンボジアも今日で3日目、明日にはバンコクへ移動する。先の2日は現地の人とのコミュニケーションという点で大したエピソードもなかったので、そういう意味でRothに期待していたからだ。
まじかー! やられた! と、悔やんでももう後の祭りだ。
よく考えれば旅の良しあしを他人任せにしてた自分も悪い。
僕は趣のあるベンメリアへの感動のみでこのツアーを終わらせることを潔く受け入れた。
しかしながら……あの変わりようはなんだろう?
今まで見てきた中で一番かもしれない。まさしくジキルとハイドのようだ。
 
 
それから2時間後、
 
僕とRothはシェリムアップ郊外のレストランにいた。
 
宿について別れる際に、
あれほど寡黙だったRothが何か言いたげにしていたからだ。
結果僕は彼をランチに誘い、話を聞くことにしたのだ。
 
何か魂胆があるのだろうか? とも思ったが、まあややこしいことを言ってきたらNOと言って断ればいいだけだし、とりあえず最悪でもうまいクメール料理を食べることはできる。
 
そして、しばらく時が過ぎて……
クメールカレーを平らげてようやくリラックスしたのか、
彼は僕に告げたかっただろうことをゆっくりと話し始めた。
 
驚くべきことにその内容は……
 
約束を守って彼をチャーターした僕への感謝と
僕の期待に応えられてなかったことへの詫びだった。
二人の英語力ではおそらく疎通できないほどややこしい言い訳と共に
彼はただひたすらそれを繰り返した。
 
最初、僕は少々面喰いながらも、「感謝しているならば、もう少し愛想良くすればよかったんでは?」と冷やかに思ったりもした。
でもよくよく考えれば、トゥクトゥクドライバーにそういうことを求めること自体がお門違いなわけで、にも関わらず、何か得があるわけでもないのに一所懸命に説明する彼の律儀な姿に、ほんわかした感情と、何よりもそんな彼に今日一日翻弄された自分が可笑しくて思わず笑ってしまった。
 
そんな僕の様子を見て彼も笑い返した。その時、出会った夜のようなまやかしでなく、ようやくふたりの距離が縮まった気がした。
 
その後、僕たちは身の上話からお互いの国のことまでいろんな話をした。彼の変身の原動力である奥さんと3人の娘の写真も見せてもらったり、昨夜の売り上げが3ドルだったというさむい話を聞いたりした。僕からは一人旅をするようになったきっかけなどを話したように思う。
 
お互い深入りしようがない、発言に責任を取る必要がないという安心感の中で、僕たちは約2時間ほど会話を続けた。
そしてRothの夜の出勤の時間が近づいた時、おそらく実現しないだろうと互いに感じつつも「See You!」と握手をして別れた。
 
 
 
その夜僕は彼がセールスをかけているだろう一番の賑わい場所を避けつつ、PUB STREETに飯を食べに出た。そして、帰りになんとなくナイトマーケットでそれほど欲しくもないTシャツとエスニック模様のパンツを買った。Rothと話をして、カンボジアにわずかながらも貢献してる自分であろうとしたのかもしれない。
 
こうして僕のカンボジアの旅は終わりを迎えた。
最低限旅を楽しめたかなという安堵感と、こんな異国であんな極端な奴に会うもんだなという驚きと、
その後ふつふつとわいてきた「この国に何かできることはないだろうか?」という無責任な正義感を得て……
 
 
Rothとはそれからしばらく2~3か月に1度のペースでLINEを交換しあっていた。
でもコロナ以降連絡がとれない。全く既読がつかなくなった。
彼は果たして元気にしているんだろうか?
少なくとも観光客がいなくなった今、あんなハイな奴を演じることはしていないのだろう。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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