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モテモテ女子が選んだ結婚相手とは? 揺れる女心の実況中継


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松浦純子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
午後の早い時間の電車だった。
ボックスシートと呼ばれる、向かい合い4人掛け座席に私は座っていた。
満たされたお腹に電車の揺れが心地よく、うとうとしかけていると、次の駅で20代中盤と思しき2人組の女性が私の横に立ち、話しをはじめた。
 
電車がトンネルに入った。
私は顔を動かさず、彼女たちと反対側の窓ガラスをちら、と見遣る。
窓に映った彼女たちの顔立ちは綺麗で、着ているものも上品でセンスが良く、都会で働く今どきの女性といった感じで、楽しそうに話をしている。
 
課長のネクタイについて、先輩の営業先でのエピソード、自分の仕事の失敗など。
まあ、どこにでもよくある会社の同僚どうしの会話である。
ただ人の悪口などはなく、聞いていても耳心地の良い会話だった。
私の眠気はとっくに飛んでいき、彼女たちの会話を一緒に楽しんでいた。
 
これって盗み聞きなのかなあ?
でも自然に聞こえてくるんだもん、まあいいよね。
心の中でそんな言い訳をしながら、私は目をつぶったまま話を聞き続ける。
それまでの仕事の話から同僚の恋愛話へと移っていった。
 
「ねえ知ってる? とうとう千葉ちゃん結婚するんだって~」
 
「うそー、知らなかった! それって同期の福島くんと?」
 
「あ、やっぱそう思う?」
 
「え? 違うの? てことは石川くん?」
 
「って思うよね? フフフ……」
 
横にいる女子2人と結婚が決まった千葉ちゃん、そして福島くんと石川くんの5人が同期のようだ。そして片方の女子が千葉ちゃんと仲良しで、色々と事情を知っているらしく話を続ける。
 
「千葉ちゃんってさ、福島くんのことを『焼肉弁当』、石川くんのことを『ステーキ』に例えてたんだよね~」
 
「なにそれ~? ウケるんだけど!」
 
おっと~! いきなり肉の登場か。
千葉ちゃんは肉食系女子なのか?
私は寝たふりを続け、彼女たちの話の続きを待つ。
 
「ほら、千葉ちゃんってモテるじゃん。で、福島くんと石川くん両方から言い寄られていてさぁ、どっちにするか迷ってたみたい」
 
「らしいね。それっぽいことは聞いてた」
 
「でさ、普段は『焼肉弁当』で十分だけど、でもやっぱり『ステーキ』も捨てがたいしなぁ、って決めかねてたらしくて」
 
「なんと贅沢な!」
 
「でしょう? どっちも高学歴は同じだけど、福島くんは体育会系で豪快でさ、明るくて一緒にいると楽しい人なんだよねえ。けどさ、石川くんは背も高くイケメンで優しい。おまけに育ちもいい。」
 
「確かに甲乙つけがたいよね。にしても千葉ちゃんモテるねー」
 
「まーね。千葉ちゃん可愛いしね。会社の外でもめちゃモテるもん!」
 
千葉ちゃんは、同期の男子2人から言い寄られていたようだ。
「普段は焼肉弁当で十分だけど、ステーキも捨てがたい」ということは、優しく、顔良し、背も高く、育ち良し、のA5ランクのステーキ肉の石川くんよりも、ステーキ肉よりはやや劣るけど、濃い目の焼肉のタレが絡んだ肉がたっぷりと乗っている、焼肉弁当の福島くんの方に惹かれていたのか。私の妄想は止まらない。続きを聞きたかった。
それはもう1人も同じだったのだろう、痺れを切らしたように言った。
 
「で、結局どっちと結婚するの? 早くそれ聞きたい!」
 
「ああ、ごめん。それが、どっちでもないの。会社とは全然関係ない人」
 
「ええっ? そうなの? 意外な展開。……で、相手はどんな人なの?」
 
「あー、うん。なんか、それがびっくりするくらい普通の人。正直、顔も全然カッコよくないしさ、背もどっちかって言うと低くてダサめ。でもね……」
 
おやおや、ステーキも焼肉弁当も選ばなかったのか、千葉ちゃんは。
驚くほどふつうで、顔もいまいちで、背が低くてダサめな人を選んだ理由って?
「でもね……」に続くであろう言葉を寝たふりをしつつ一緒に待った。
 
その時だった。
 
「間もなくXX駅~、XX駅に到着いたします。△△線はこちらでお乗り換えです。お忘れ物にご注意ください」というアナウンス。
 
ああ、なんでこんな時に!
大きなターミナル駅なので、彼女たちが降りてしまうことを危惧したが、まだ降りないらしい。この話の続きをどうしても聞きたかった。これを逃したら一生聞けない。
わたしは降りるはずのその駅で、電車を降りないという選択をした。
 
「そうそう、それでね。千葉ちゃんはね、最後は結局、自分にとっていちばん居心地のいい人を選んだんだってさ」
 
「へーそうなんだ。なんか千葉ちゃんらしいわー」
 
モテモテ女子は、焼肉弁当の福島くん、ステーキの石川くん、どちらも選ばずに居心地のよい平凡な彼を結婚相手に選んだ。
わたしは、この彼のことを勝手に『白い御飯に梅干し』と命名した。
そして千葉ちゃんが、条件ではなく自分の居心地の良さで結婚相手を選んだことについて、心の中で拍手した。
 
誰しもが毎日何かを選択している。小さいことから大きなことまで尽きることはない。
そして、誰しもが人生の分岐点で、必ず選ばなかった方に思いを馳せて「ああ、あっちを選んでおけば」と思うことがある。たぶん、100%後悔のない選択などない。たぶん千葉ちゃんも選ばなかった焼肉弁当もしくはステーキを選んでおいたらな、と思うことが1度や2度あるだろうと思う。そんなときに、「この選択をしたら人から羨ましいと思われる」「親が喜ぶから」という他人軸ではなく、自分のこころが一番しっくりくる自分軸での選択をしたら、後悔は少ないのではないだろうか。
 
あの会話からもう15年経つので、彼女たちも40歳前後になるのだろう。
モテモテだった千葉ちゃんが選んだという『白い御飯に梅干し』くんと、いまもどこかで幸せに暮らしていて欲しいと思う。
見ず知らずの千葉ちゃんの男性を見る目を私は信じている。
それと同時に、恋に破れた福島くんも石川くんも、楽しい話を聞かせてくれた2人の女子も、きっとどこかで幸せに過ごしていることを願っている。
 
 
 
 
***
 
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