やるか、やらないかは自分が決める 〜無名の偉人・木全ミツさんの伝記を読んで〜
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記事:田中真美子(リーディング倶楽部)
「いいからやれよ!」
普段は現場には顔を出さない、私の直属上司の上司のさらに上司が現場にやってきて言い放った言葉だ。
その言葉を私の横で浴びせられた先輩は、
「もうやってますよ!」
とキレながら大声で叫んだ。
今から10年以上前の話だ。
当時私が仕事で携わっていたシステム開発プロジェクトは、工期は遅れ、品質もあまり良くなく、コストはかさんで赤字、いわゆる「問題プロジェクト」と呼ばれるものだった。
当時末端社員だった私はプロジェクトが赤字になっていることはわからなかったが、うまくいっていないことは現場で仕事をしていてよくわかっていた。
元々立ち上げ時からプロジェクト計画が杜撰だったのだろう、現場のメンバーはそのツケを大いに払わされていた。
しかし一度仕事としてやり始めたからには、何としてでも良いものを完成させなければならない。
その使命感が、私や先輩、一緒に仕事をしていた上海の中国人メンバーを動かしていた。
問題が起こった時だけチョロっと顔を出して何もやらない偉い人に「いいからやれよ」なんて言われたくない。そう怒りを覚えたのを思い出す。
プロジェクトは問題を起こしつつも何とかサービス開始を迎えた。
最初はサービス開始後もトラブル続きであったが、半年くらい立つ頃にはようやく安定稼働に漕ぎ着け、プロジェクトで困難に立ち向かった経験は、私の仕事人生の中で非常に価値のある経験となった。
そんなプロジェクトを経験してから数年後、私は一冊の本を読んだ。
本のタイトルは、
仕事は「行動(やったこと)」がすべて 無名の偉人・木全ミツの仕事
である。
伊藤彩子さんというライターの方が、木全ミツさんという女性を取材して書かれた本だ。
木全ミツさんは労働省(今の厚生労働省)キャリア官僚を勤め、その後国連大使、ザ・ボディショップジャパンの初代社長として様々なプロジェクトを60年近くもの長きに渡り成功させてきた、そんな偉人だ。
この本と出会うまで、私は木全ミツさんを知らなかったのだが、素晴らしい経歴をお持ちの方だ。
きっと、このようなすごい人の話は読んでも普通のサラリーマンには真似できないんだろうなぁ、と思いながら読み始めたのだが、木全ミツさんのエピソードのひとつひとつは、私のようなサラリーマンでもこんなことあるある! と思うようなこともあった。
例えば、最近はこんなことは少ないのかもしれないが、女性の職員のみがやらされるお茶くみ、男性と女性で昇進にかかる年数に差があるなど……。
しかし、木全さんのその乗り越え方がすごいのだ。
どうやって木全さんがそれらを乗り越えていったかは、ぜひ本書を読んでほしいのだが、様々な局面での機転と行動が素晴らしく、仕事でうまくいかないことがあったときに愚痴ってばかりの自分がひたすら恥ずかしい。
官僚時代、ザ・ボディショップジャパンの社長時代、NPOの代表時代、それらのエピソードの中には先に述べたような普通の人でも経験するような出来事から驚くべきような出来事まで様々だが、一貫しているのは、木全さんが信念を持って常に行動し結果を出してきたことだ。
まさにそれは仕事というものの本質なのではないか。
できる、できないではなく、やるか、やらないか。
やったら結果が出る、やらなければ結果は出ない。
非常にシンプルだ。
ただ、行動するということは、時に慣習や前例を壊さなければならないこともある。
行動には、強い信念と勇気が必要なのだ。
10年前、あの問題プロジェクトで困難に立ち向かっていた時、私やともに働いていた仲間たちは確かに同じ目標を目指して、信念を持って仕事に取り組んでいたと思う。
そしてひとりひとりが行動した結果、プロジェクトを完遂させることができた。
会社に利益をもたらすような成果は出なかったかもしれないが、あの時困難をともに乗り越えた経験は、それぞれの血肉となって、その後の仕事でも活かされたはずだ。
木全さんの成し遂げたことに比べたらちっぽけかもしれないが、それでも何かを自ら行動して成し遂げたことには変わリはない。
本書と出会ったのは今から6年ほど前のことで、その際に当時78歳の木全ミツさんご本人の講演も聞いたのだが、日本の女性は自分の考えや意見を持ち、社会に貢献するために行動できている人が少ない、とお叱りを受けたのが印象的であった。
私は今でもたまにこの本をめくる。
仕事で悩んだ時に、自分が何をやればいいのか、見失った時に。
そして、そこに書かれている言葉に、やっぱそうだよねー、とひとり相槌を打つ。
「やろうと思ったら、そんなに時間はかからないものなのよ。ようはやるか、やらないか」
***
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