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「青のハーモニー」~楽器が弾けるということは~


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青天目起江(なばためゆきえ)(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
私は十四歳の時、席替えで隣になった男の子を好きになった。運動神経も良くて(体育祭では毎年リレーのアンカーだった)、頭も良かった。話しやすくて、いわゆる「おバカな中二男子」とは違って見えた。
 
部活動も吹奏楽部に入っていて、トランペットを吹いていた。金管楽器同士、同じ教室で練習していた、トロンボーン担当の子と仲良くなった。彼女とは、小学校でも同じクラスになった時もあり、通っていた塾も同じだった。
部活動と隣の席の彼のおかげで、生まれて初めて学校が楽しいと思っていた。
 
夏の大会が終わって、3年生が引退し、秋の校内文化発表会での演奏を目指して、部活は新体制になった。先生が私を部長に推薦してくれた。部活が好きだったので、断る理由もなく私は引き受けた。
 
生まれて初めて学校が楽しいと思ったことが、心に隙を生じさせてしまったのだろうか。私は彼女に、隣の席の男の子が好きだ、と教えた。自分の秘密を打ち明けることで、彼女との友情をもっと強くできると思った。そうなれば、部長になったことだし、もっと部活を充実した時間にできる。そう考えたのだ。
冷やかさず話を聞いてくれた彼女を、やっぱり自分の友達だと思った。
あの頃の私に、「甘い、甘すぎる!」と絶えず突っ込みを入れたくなる。
 
数日後、ひそひそ、にやにやと、私に向けられる変化に気づいた。
「おはよう」と当の男の子に声をかけても、どこかそっけない。
直感でわかった。
私が冷静になろうとしていると、クラスの男子が「こいつのことが好きなの?」と訊いてきた。直感でわかった。
 
彼女から話を聞くと、広めようと思ってしたことではなくて、どうなるか考えずに、別の誰かに話してしまい、運悪くそれが広まってしまったのがわかった。
彼女は謝ってくれたけれど、その場で許すことは私にはできなかった。今は距離を置きたいと告げた。
 
教室でも部活でも、自分が自分ではない感覚の中、今思えば、よく毎日学校に行ったよなと思う。事が事だけに、親には言わなかったが、私がおかしいと気づいてくれたんだと思う。それは親から、通ってる塾を変えたらどうか、と言ってくれたことだ。自分の子供がどこかおかしいと、親が気づいてくれたんだとうれしくなった。
それに、副顧問の先生も私たちの不自然さを感じ取ったのか、それぞれ話を聞いてくれた。きれいに問題が解決できなくても、誰かにしっかり話を聞いてもらえるだけで、気持ちの半分は回復するのだと知った。
 
彼女を許すことにした。複雑な感情はあったものの、私は、自分で選んだ、部長としての考えを優先した。みんなを引っ張っていく部長の自分が、誰かと仲が悪いなんて、部活全体に悪い影響になると思ったからだ。
 
失恋後も部活が好きだったことは変わらなかった。
吹奏楽の何がそんなに楽しかったかと言えば、ハーモニーを作ることだ。
一人一人奏でる楽器が、表のメロデイ、裏のメロデイとなり、効果的に打楽器が入り、ハーモニーになっていく。
どんなに悪い失恋をしようが、前と同じように彼女に心が開けなくなっても、そして自分がどんなに青くとも、みんなでハーモニーを奏でている間は、
その楽しさでいっぱいになった。
トランペットを奏でれば、クラリネットやホルン、他の友達も合わせにきてくれた。もちろん彼女も。
 
何より一年と半年後には卒業なのである。このメンバーで演奏できるのも来年の夏まで。そして高校受験も控えている。超えなければいけない目標二つが、残りの中学生活を支えてくれた。
 
そして、私たちは十数年ぶりに、夏の大会で金賞を取った。
ただし、金賞は金賞でも県大会に進めない金賞、「ダメ金」だった。発表の後、
悔しくて泣いた。
誰かが言ったのだ、「ダメ金だったら意味がない、県大会に行けたら、もっとこのメンバーで弾けるのに。これで最後なんだよ」と。
私の耳に聞こえてきて、自分がやってきたことが報われたと、涙が出ていても、どこか温かい気持ちになった。
いつまでも泣いている私たちに、顧問の先生が「十数年ぶりの金賞じゃないか。
泣くことじゃない。胸張って帰ればいい」と。
帰りのバスでは、行きの緊張がウソのように、みんなで笑って帰った。
 
失恋でも悪い失恋をしてしまったなと思う。それでも何とか乗り越えてこれたのは、周りの人の支えと、合奏する楽しさ、楽器を奏でられたからだと思う。
あれからずっと、トランペットや吹奏楽の音色を聞く度に、血がたぎり、自分も吹いて、音を遠くまで飛ばしたいと、衝動に駆られるのだから。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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