メディアグランプリ

夢からもらった希望の種


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:野村 光恵 (ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
夢を見た。
すごく鮮やかな夢だった。
 
「そっか、これをやったらいいと、伝えなくっちゃ!」
 
そう心に強く刻まれた。
目が覚めてからも、しばらくそのイメージが焼き付いていた……。
夢はときどき、日頃考えていることの答えを示唆してくれるものだ。
 
毎日家でテレビを見て、家事をしては、すぐ横になってしまう今年68歳になる母。
昨年、腰の痛みや足の痺れで歩くことも困難になり、病院へ行くと「手術」をしないと治らないと言われた。
 
それから、ひと月後。
10年間、ひとりでがんばっていた小さな飲食店を畳んだ。
 
間も無くコロナが流行り始めると
「あのまま続けていても、この状況じゃ難しかったよね」
と、どこかお店を畳んだことの正統性を探すような、現状をなんとか肯定しようと腫れ物に触らないような会話が続く……。
 
結果的に、手術を受けることなく母は歩けるようになっていった。
それは、幸いなことに母の症状を相談した方から、有名な施術家さんを紹介していただくことができたおかげだった。
家から片道1時間半の治療院に、歩くことも困難な母に付き添いながら、何度か通った。
治療院の帰りには、新しい料理本を買ってまたお店を再開することを心待ちにしていた。
徐々に一人でも通うことができるほどに回復していったのだが、痛みは完全には良くならず、悩んだ末に出した答えはお店を畳むことだった。
 
長い間、身体を酷使してきた分、ゆっくり回復したら良い。
そして、またやりたいことができるぐらい元気になって欲しいと思った。
 
しかし、家にいる時間が増えてもニュースで連日報道されるコロナ感染への不安は、じわじわと心にもダメージを与え、未来へ期待を持つことを困難にしていく……。
 
痛みは当然ながら、徐々に良くなり、日常生活で困ることもほとんどなくなっていくのに暗い表情をして過ごす母。
そんな姿を見ていると、心苦しさがあった。
 
元気な姿を見たくて、よく
「ずっと忙しく働いていたのだから、自由な時間が増えたのだし、今までやりたいと思っていたことをしたら?」
というようなことを聞く。
 
そうすると、痛みを探して、出来ない理由が返ってくる。
 
ただ元気で過ごしてもらいたいだけなのに、どうしてこんなに気持ちがどんどん落ち込む一方なんだろう……。すごくもどかしかった。
 
先行きの見えない不安を持ちながら、糖尿病を持つ母が感染リスクを避けて家で過ごすことは、今できる最善なのかもしれない。
だけど、運動不足による筋肉の低下で、また転んで怪我をしてしまう恐れや、人と会う機会が減ってしまい、笑い合える仲間との繋がりをほとんど絶たれている。
 
未来へ希望が持てない日々が、心をどんどん蝕んでいく……。
 
「ねー、本とか読んでみたら?」
「おねいちゃんと、ご飯食べておいでよ!」
「猫をまた飼おうか?」
 
いろんなことを提案するけど、結局どれも行動に起こさない。
 
「何か、やりたいことはないの?」
 
「プランターで野菜やお花を育てたい」
 
「それ、いいね! お兄ちゃんに頼んでホームセンターとかに連れて行ってもらったら?」
 
そんな会話をしはじめてから、もう1年。
はじめる気配もないまま、それを聞くと相変わらずやらない理由が返ってくる。
私は単純に本当にやりたいことがそれではないのだろうと思っていた。
 
ある日、夢を見た。
心地よい日差しを感じるテラスで、ウッドデッキが素敵だった。
そして、プランターには野菜やハーブが育っていた。
 
「あぁ〜、こんな場所に人をお招きしたら素敵なのに!」
そう思ったとき「これを母に伝えなくちゃ!」と、夢の中で強く思った。
 
少し時間に余裕を持てる日、ランチを一緒に食べながら母に夢のことを話す。
 
正直、驚いた。
まるで、お水をやらずに枯れてしまっていたお花が、そこから再び咲きはじめるように、鬱々としていた表情がみるみる明るくなっていく。
 
「昔から、畑をやってみたくて。
育てた野菜で料理をして、それを食べてもらえるお店がやりたい。」
 
私が見た夢の話をきっかけに、母がどんなことがしたいのか、ちゃんと「聞いている」という態度で聞いて「それがお母さんにはできると、私は信じている」と伝えた。
 
それは、実現可能な未来だ。
 
昔から母は自分の叶えたい夢を見つけると、それをそれまで想像もしなかったようなやり方で叶えていってしまう。今までもそうだったよねと伝えると、自分がかつて可能にしてきていた奇跡のような出来事を思い出し、自信を取り戻していくようだった。
 
あんなにもやろうとしていなかったのに、その日以来、ベランダに出て土いじりをはじめている。そして新しく種を買ってきては、とても嬉しそうに私に話してくれる。
「誰かに食べてもらえる日が来る」そんな楽しみがイメージできてから、行動に変化が起きた。
 
誰かが喜んでくれる未来を思い描くこと。
たったそれだけで、毎日の中に「光」が感じられるようになった。
 
あれから、母の表情に笑顔が少しずつ戻ってきた。
 
あとは、植えた種を「育てる」ことに意識が向かうから、その変化を毎日楽しめる。
だから、きっともう大丈夫だと思えた。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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