まずは土づくり
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:西片 あさひ(ライティング・ゼミ超通信コース)
「あれ、全然分からない。どうすればいいんだ!!」
16年前の冬。
外は、雪が積もっていた。
この日は、大学入試を1年後に控えた模擬試験の日。
高校2年生の私はパニクっていた。
外の景色のように頭が真っ白になっていく。
この日のために、たくさん勉強してきたのに。
勉強と引き換えに、いろいろなことを犠牲にしてきたのに。
なのに、ダメなのだ。
問題の内容が全然分からないのだ。
あの勉強の日々はなんだったんだ。
まるで、現実逃避するかのように、過去のことを振り返っていた。
小学生の頃は、勉強が好きだった。
高学年になって、授業のレベルが上がり、宿題の量が増えても、全然嫌じゃなかった。
もともと好奇心は強かったから、いろいろなことを知ることができるのはむしろ楽しかった。
授業にも、宿題にも真面目に取り組んだ。
自然と、テストの点数欄には、90とか100の数字が並ぶようになった。
答案用紙を見せたときの両親の笑顔が今でも忘れられない。
中学生になると、授業は難しくなり、宿題の量も多くなった。
しかし、勉強に対するスタンスは変わらなかった。
授業の内容をしっかりノートにまとめ、宿題は毎回欠かさず提出した。
成績は常に上位を維持した。
「西片くんは、勉強できるんだねー。すごいねー」
先生やクラスメートからこんな言葉をよく耳にするようになった。
その後、受験勉強の末、無事高校に進学。
自分の勉強の仕方は間違ってないんだ。
そう思えて、自分のことが誇らしかった。
私が入学したのは、地元でも有名な進学校。
この学校の教育スタイルはとても独特。
高校3年間の内容を始めの2年間で終わらせ、最後の1年間はひたすら問題集に取り組む。
勉強に打ち込むために、部活の入部は禁止。
まさに、大学受験のための学校だった。
「大丈夫かな」
入学式の日。自然と、そんな言葉が口をついて出たのをよく覚えている。
勉強に付いていけるか不安でしょうがなかった。
しかし、一方でどうにかなるとも思った。
今までどおり、取り組んで行けばいいんだ。それで上手くいってきたんだから。
しかし、それが苦難の始まりとなるとは、夢にも思わなかった。
いよいよ、授業が始まった。
想像以上に授業のスピードは速かった。
量も中学生までとは桁違い。
入学して初めてのテストの順位は、最下位から数えた方が早かった。
とても落ち込んだが、そんなことも言っていられなかった。
クラスメートは県内各地から集まった秀才揃い。
そこに私もいるんだから、頑張らないと。自分を励まして勉強に取り組んだ。
予習も復習も怠らなかったし、難しい宿題もサボらず提出した。
しばらく続けていれば成績も上がってくるはずだ。
そう信じて、日々の勉強に励んだ。
しかし、その願いが叶うことはなかった。
入学して1年が経っても、結果が全く付いてこなかったのだ。
私もこの1年間、ただ手をこまねいている訳じゃなかった。
本屋さんに通っては問題集を買い集め、ひたすら解いた。
授業のノートを何度も書き直して、頭に内容をたたきこもうとした。
勉強時間も中学生の時より大幅に増やした。
なのに、成績は上がるどころか、下がり始めたのだ。
意味が分からなかった。
勉強しているのに、なぜ成績が上がらないんだ。
このままじゃ、志望の大学に行けないじゃないか。
だんだんと焦り始めている自分がいるのが分かった。
ただ、原因が分からない。だから、どうすることもできなった。
祈りにも似た気持ちで、過去問に取り組んでいるだけだった。
そして、迎えた模擬試験の日。
部活にも入れず、友人とも会わず、ただひたすら問題集と顔を付き合わせた。
文字通り、勉強漬けの日々だった。
結果が出ないはずはない。
さすがに、いい結果がでるだろう。
そう願っていた。
しかし、結果は散々だった。
志望していた大学の合格確率は10%。
絶望感に打ちひしがれた。
どうすればいいんだ。もう分からないよ。
放心状態で、帰り道を歩いていると、久しぶりに地元の友人と再会した。
彼は、幼なじみ。
中学生まではよく遊んでいたが、高校生になって別の学校に通っていたため、なかなか会えずにいた。
吐き出すかのように、彼に自分が抱える悩みを打ち明けた。
勉強しても全然結果が出ないことを。どうすればいいか分からないことを。
しばらく黙って聞いていた彼は、私にこんなことを言ってきた。
「さっきから、聞いていると難しい問題しかやってないみたいだけど、そもそも基礎問題には取り組んだの?」
その言葉を聞いて、はっとした。
たしかに、勉強はしてきた。
長い時間をかけて、大量の問題集に取り組んできた。
難しい問題に取り組めば、基礎もそのまま身につくと思っていた。
しかし、それは間違いだった。
基礎に取り組むことは土を耕すようなものだ。
いくら種をまいても、土を耕さないと植物が育たないように、難しい問題をいくらこなしても、基礎が分かっていなければ何も身につくはずがないのだ。
そのことに気付いてから、私は勉強の仕方を変えた。
難しい問題に取り組む前に、まず基礎問題をひたすら解くようにした。
すると、どうだろう。少しずつではあるが成績が上向くようになった。
結果、第二志望ではあったが、大学に進学することができた。
その後、就職や地域の活動などいろいろなことに取り組んできたが、この時の経験が役立っている。
何事もまずは土づくり。
このことを心に抱きながら、今後も過ごしてきたいと思う。
***
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