ハードルじゃなくて、ブレーキだった
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記事:西片 あさひ(ライティング・ゼミ超通信コース)
「人見知り」という言葉を聞いて、どんなことを思い浮かべるだろうか。
消極的、陰キャ、変えた方がいい性格・・・・・・。
きっとネガティブなイメージばかり浮かぶ人も多いと思う。
かくいう私もそう思っていた。3年前までは。
別に、子どもの頃から人見知りだったわけではない。
小学生の時は近所の幼なじみと割とよく遊んでいたし、中学生になると仲間と部活に明け暮れていた。
しかし、高校生の頃から知らない人と話すのがとても苦手になった。
話をかけることはできるが、途端に緊張してしまう。
頭が白くなってしまい、何を話していいのか分からなくしまうのだ。
「いつか、この性格を変えたい」
当時、そんなことを思っていたのを今でも覚えている。
受験勉強の末、東北の田舎から東京の大学に進学した私。
高校では勉強漬けの3年間だったから、遊びたい気持ちでいっぱいだった。
何より人見知りの性格を変えたくて仕方なかった。
大学には、運動系や文化系などいろいろなサークルがあった。
その中で、私が入ったのは在学生や高校生向けに様々なイベントを企画、運営するサークル。
新入部員歓迎コンパの場での出会いが今でも印象に残っている。
同じタイミングで入部した新入部員の6名の中で、一人異彩を放っている人がいたのだ。
同い年のA君である。
敬語は使わない。先輩に対しては、「○○ちゃん」呼ばわり。
そして、誰に対しても馴れ馴れしい。
嫌がられるのでは? そんなことを勝手に心配していたくらいだ。
しかし、それは杞憂に過ぎなかった。
嫌がっている人なんて誰もいなかった。むしろ、とても慕われていた。
「なんだ、この人は?」
そんな言葉が頭に浮かんだのを今でも覚えている。
いわゆる陽キャラ。まるで太陽だなと思った。
対して、私。
人見知りが激しくて、話す言葉が浮かばないし、屈託のない笑顔も振りまくことができない。
まさに、逆の存在だった。
はじめの頃は、A君と話すことも少なかった。
しかし、フレンドリーな彼の性格もあり、気付いたらA君とよくつるむようになっていた。
その後、彼とは4年間一緒にサークル活動をしたが、彼の行動軸は全くぶれなかった。
輪の中にいる人、そこから外れている人を問わず、どんな人にも親しく話をかけ、そして仲良くなるのだ。
「私もA君のように、いろいろな人と話したい。仲良くなりたい」
そんな気持ちをいつしか抱くようになった。
彼のまねをして、私もいろいろな人に話かけるようになった。
サークルの後輩、下宿先の近所の人、旅行先のお店の店員さん・・・・・・。
はじめは緊張したが、頭が真っ白になることは徐々に減っていった。
慣れもあるとは思うが、だんだん相手の笑顔が多く見られるようになった。
「人と話すって、こんなに楽しかったんだ」
人見知りとは、これでさよならだ。
そんな風に思える自分が誇らしかった。
知らない人と話すのが好きなのはさらに加速した。
就職先として、地元とは縁もゆかりのない場所を選んだのだ。
サークルの旅行で訪れた時に、地元の人と話していて、風土、そして人柄を気に入ったのがきっかけだった。
縁もゆかりもない場所だったから、もちろん周りは知らない人だらけ。
子どもの頃だったら、きっと嫌で仕方なかったと思う。
でも、今は違う。
いろいろなものに参加して、いろいろな人と話をしよう。
職場仲間との合コン、まちづくりのサークル、地元の演劇サークル・・・・・・。
仕事の傍ら、様々なことに取り組んだ。
はじめの頃こそ、楽しく取り組み、そして楽しく話をしていた。
しかし、なんだか違和感を覚えるようになってきた。
知らない人と話す時に、言葉が出なくなることが増えてきたのだ。
頭が真っ白になって、表情がぎこちなくなることも増えた。
訳が分からなかった。
もう、克服したはずなのに。
人見知りとはさよならしたはずなのに。
きっと、今回は自分に合わなかっただけだ。
そう思い直し、さらにいろいろなことに取り組み、いろいろな人と話した。
これで解決かと思いきや、改善どころか、余計に人と話すのがおっくうになっていった。
だんだんと外から足が遠のき、家にいることが多くなった。
「また、人見知りに逆戻りか・・・・・・」
自分のことが、嫌で仕方なかった。
そんな日が何年か続いた3年前のある日のこと。
当時、付き合い始めた彼女に悩みを相談した。
克服したはずの人見知りが再発してしまったことを。
そして、その原因が分からないことを。
しばらく黙って聞いていた彼女からは思いもよらない言葉が返ってきた。
「無理してるってことだと思うよ。そもそも、人見知りって克服するものなのかな」
その言葉にはっとした。
たしかに、当時の私はとても疲れていた。
なんとなく気になった団体や取り組みがあったら、すぐに入っていた。
結果、話すことだけが目的になっており、活動へのモチベーションが上がらなかったのだ。
人見知りが再発して、その状況に気付けた。
今まで、人見知りは克服するもの、越えるべきハードルだと思っていた。
しかし、そうではなかった。
人見知りはブレーキとして、私の心を守ってくれていたのだ。
それに、気付いてから人見知りを克服しようと考えるのを辞めた。
むしろ、人見知りの自分と向き合うようになった。
取り組みや活動に参加する前に、本当に自分がやりたいことか立ち止まって考えるようになった。
前よりは、関わる人は減ったが、物事に積極的に取り組めるようになった。
何より心穏やかに過ごせるようになった。
今でも、人と話すのが決して悪いことだとは思わない。
これからも、人と話すことは続けてきたい。
しかし、もう人見知りの性格を排除したいとは思わない。
社交性と人見知り。
アクセルとブレーキ。
上手く使い分けて、これからも人生レースを走って行きたいと思う。
***
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