メディアグランプリ

海岸に積もる溶けない雪


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
海岸に降り立つと、5月の割に冷たい風が肌を撫でていった。
 
砂浜の光景に驚いたのだ。前回にここに来た時には、持ってきたビーチクリーン清掃用のゴミ袋が何十袋もいっぱいになるくらいのゴミだったのに、今回は目立つゴミがほとんどなかった。
 
前回は、大人も子供もどんどんゴミが集まるのが楽しくてゲームのように夢中になってゴミを集めた。偶然その海岸に遠足に来ていた小学生達も巻き込んで大勢でゴミ拾いをしてようやくキレイになったくらいだった。
 
それが今日はパッと見た限りはキレイで、喜ばしいことなのに拍子抜けした。
 
「これって前回掃除したからキレイなままだったとか?」
 
いつも主催してくれるしーちゃんに聞いたら、彼女はまさか、と首を振った。
 
「一度キレイにしても10日で元通りになっちゃうんだって。海岸清掃のボランティアが最近入ったみたい」
 
それでも浜辺を丁寧に見ていけば、まだまだ細かいゴミは沢山ある。身を屈めながら埋まり込んでいるプラスチックの管やチップ、発泡スチロールのカケラを集め始める。
 
まさか自分がゴミ拾いやビーチクリーンに携わるようになるとは思わなかった。
 
今までは、路上にゴミが落ちていても不愉快だなと眉をひそめるくらいで、それを触るのはなんだか気持ち悪い、そんな風に思っていた。くるくると風にもてあそばれてあてどなくころがっていくゴミを、見て見ぬふりをしてきた。
 
でも、SNSで友人が書いていた記事が印象的で、私のやる気スイッチがONになった。
 
「世界中の人が1日に2つずつゴミを拾ったら、地球のポイ捨てゴミが無くなる」
 
という言葉だ。それ以来、私は目につくゴミがあったら拾うようになった。わが家の家族が5人だから、私が1日に10個のゴミを拾えば家族分のノルマがクリアできる。毎日続けていたら、いつか世界中のポイ捨てのゴミがなくなるかもしれない、そう思ったら張り合いがある。最初のうちは、拾ったゴミを入れる場所がなくて苦労するという失敗もあったが、鞄に小さなビニール袋を入れておけばそれもクリアできた。
 
ゴミ拾いに意識が向いていた時に、しーちゃんが近場の島で月1回ビーチクリーンの活動をしているとSNSで目にした。家族で拾っている姿が印象的で、その活動に共感した友人たちが遠足がてら一緒に活動する記事も上がるようになった。月1回のビーチクリーンの輪はしーちゃんを中心に少しずつ広がっていった。
 
実は、やみくもに清掃しても海岸に落ちているゴミは分別が難しいということもある。その島では、“ボランティア清掃ごみ袋”というのを用意してくれていて、清掃したゴミは自治体が回収するというサポート制度があるので取り組みやすいと、しーちゃんは言っていた。
 
ビーチクリーンは、海岸によって流れてくるゴミが全く異なる。今回清掃した海岸は、広島名物の牡蠣の養殖に使う資材が流れ着く浜だ。特に厄介なのが発泡スチロールで、時に、大きな男性でも抱えきれないような俵型の塊が流れ着くこともある。さらに厄介なのが、発泡スチロールが砕けるときにできる白くて細かいクズだ。
 
昔、家に家電製品が届くと、発泡スチロールをわざと崩して細かく砕いてクズを雪に見立てて遊んだ記憶はないだろうか? 簡単に砕ける発砲スチロールの雪は静電気を帯びていつまでも家の片隅にへばりついていた。
 
その発泡スチロールの雪が海岸中に降り積もって、サラサラと風で舞うのだ。その姿は花びらが舞うようで幻想的でもあるが、どんなに小さくなっても分解されないから実は深刻な光景なのだ。
 
しかも厄介なのは、海岸に生える植物に絡みついてたまり込むのだ。砂に紛れているからクズだけ拾うのはほぼ不可能、手ですくいあげても風で逃げていくので少しずつしか拾い上げられず、静電気で軍手に張り付くのでなかなかゴミ袋の中に入ってくれない。
 
植物の茎をかきわけながら熊手で白い発泡スチロールのクズをひっかき出し、砂の少なそうな上の方のクズを集めていく、そんな地道な作業を黙々と続けるしかないのだ。
 
せっかくの休日を清掃に費やしたってまた10日後には元通りになっているかもしれないと思うと、ちょっと空しい気持ちにもなる。それでも、何もしなかったらもっとひどくなるのだと思うとやはり気になってしまうのだ。
 
人間の生活はどんどん便利に、衛生的に生まれ変わっている。その半面で私が生きているたった40年余りの間にも、災害の多さや気候環境の変化は気のせいでは片付けられないくらい深刻になっている。
 
でも、具体的に何をしたらいいか? と考えると、実はできることはあまり多くないような気がする。それでも、関心を持つということが第一歩なのではないか、と思うのだ。子供達が学校で環境のことを学んできたとしても、生活の中で親が何かのアクションを起こしていなければ、それは机上の空論で終わってしまう。
 
私もビーチクリーンに出るまでにはだいぶ時間もかかったし、しーちゃんの活動を目にしていなかったら、なかなか重い腰もあがらなかっただろう。でも、彼女が活動しているから、友達も参加しているから、別のところでも知り合いが何かやっているから……その中に私がやっているから、が加われば、それを見た誰かのやる気スイッチにもONが入るかもしれない。そんな希望をつなぎたいのだ。
 
無理に沢山拾わなくてもいい、気が向いた時に1日2個だけ、ゴミを拾ってみませんか?
 
たった一人のスイッチONが何年か後に、大きな奇跡になるかもしれない、そんな風景を私は夢見ている。
 
 
 
 
***
 
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2021-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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