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メディアグランプリ

1時間でいなくなったテームズを大好きになるまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村人F(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
プロ野球って、つくづく過酷な職場だと思う。
競争の次元が僕らのようなサラリーマンとはまるで違うからだ。
 
あの場所に立てるのは、1チームで9人しかいない。
ベンチ入りという控えのポジションだって、今年のルールでも31人だけだ。
ウン万人いる野球選手の中でその枠を勝ち取るのは、本当に過酷な競争を勝ち抜かなければならないだろう。
 
そのプロ野球の中でも特に厳しい環境に置かれているのが、外国人選手だ。
日本のプロ野球では、1軍に登録できる外国人選手は5人しかいない。
日本人だったら31人まで入れることを考えると、よりシビアな環境にあると思う。
それ以上に辛いのは、日本人からの風当たりの強さだ。
僕含むプロ野球ファンは基本、新しく来た外国人に対してとにかく冷たい。
高い年俸を貰ってチーム期待の若手のポジションを奪う厄介者みたいな偏見をバリバリぶつけてくる。
そんな環境の中で結果を出さなきゃいけないんだから、本当に過酷だと思う。
 
2021年、巨人に入団したエリック・テームズ選手に対する目線も、本当に冷たいものだった。
1億2500万円の年俸で入団した元メジャーリーガーだが、彼を期待の眼差しで見ていたファンは、ほとんどいなかったんじゃないかと思う。僕自身、全く期待していなかった。
 
しかし、彼のデビューしたその日、アクシデントが降りかかる。
 
テームズは守備が下手だった。
そもそもメジャーでは、ファーストや守備をしなくていいDHだったのに、ほとんどやったことがないレフトのポジションに割り当てられたからだ。
2軍での調整中もエラーを連発して悪評が轟くレベルだった。
 
そんな守備のときである。目の前でバウンドした球を追いかけたテームズは、それを後ろにそらしたあと倒れ込んでしまった。
ケガだ。
それも歩けないほどの。
こうして彼はデビューからわずか1時間足らずで、担架に運ばれ球場を去ってしまった。
 
そして、ケガの内容はアキレス腱断裂。
完治まで半年から1年はかかり、十中八九ケガする前の状況に戻れない、もっとも深刻なものだった。
 
流石の僕もショックを受けてしまった。
サラリーマンで働くことの厳しさもある程度わかるようになったので、その無念さを感じ取ったからだ。
ラストチャンスと思って日本に渡ってきたのに、わずか1時間で1年を棒に振る大ケガを負うことが、どれだけ辛いか理解できるようになっていたからだ。
 
その夜、僕はテームズを思いながら酒を飲んだ。
 
そんな大ケガを負った次の日、試合前のチーム練習にテームズが来た。
松葉杖と包帯をぐるぐる巻いた姿で、原監督やチームメイトと言葉を交わしていた。
 
このニュースを見たとき、僕はテームズが大好きになってしまった。
 
アキレス腱断裂である。現役を続けられるかどうかもわからないケガである。
そんなものを負った翌日に、チームに挨拶することなんてできるだろうか。
少なくとも僕はずっと泣いていたい。
そして、日本のプロ野球でもそんな話は聞いたことがなかった。
 
そういうことをテームズは行ったのだ。
こんな男を僕は見たことがない。
一気に引き込まれてしまった。
 
それと同時に、なんて僕はひどいことを考えてしまったんだろうと恥じた。
 
テームズはとにかく真面目な男だという。
そして、韓国球界にいたときはファンからも非常に愛され、神という愛称で親しまれるくらいの選手である。
 
日本に来てからも、それは健在だった。
4月25日、2軍の試合で彼はホームランを打った。
それはファイターズ球場の通算2500号目のホームランということで、
副賞に高級ラム肉100人前がプレゼントされたという。
 
そのラム肉をテームズは、巨人の寮にいる若手選手に振る舞った。
粋な男とはこういう人をいうんだろう。
 
そんなテームズに対して僕は、またすぐいなくなる外国人だろうなんて思っていた。
自分の心の卑しさをすごく感じてしまった。
 
それと同時に、テームズのような気高き精神を持ちたいと心から思った。
わずか1時間の出場だったが、その行動に魅了されたのである。
こういうところにプロ野球、スポーツの魅力が詰まっているのだろう。
 
プロ野球やスポーツの世界は超過酷な競争社会だ。
1つしかない椅子を争う戦いだから、必然弱肉強食の厳しい世界となる。
その状況でスポーツマンシップ、紳士的な振る舞いをするのは非常に難しいことだと思う。
 
しかし、テームズやトップクラスの選手はそれをやってのける。
プレイでも人を魅了するし、それ以外での言葉や振る舞いも、尊敬できる、こんな人になりたいと本気で思わせる。
そういうことができるから、スーパースターと呼ばれる存在になるんだろう。
 
そして僕たちも彼らから元気をもらえる。それによって自分の卑しい部分も見えて、改善しなければならないと感じられる。
こういうファンにいい影響を与えてくれるから、スポーツは夢を見せてくれるものだと呼ばれているのだろう。
 
テームズのアキレス腱断裂は、僕にとって大きなショックを与えた。
それによって、外国人選手へ偏見を持った自分の卑しさに気付き、また彼の無念さを考えて酒を飲まずにいられない状態になった。
 
それと同時に、彼の精神を見習って行動したいと思った。
アキレス腱断裂みたいな、自分の人生が真っ暗になるような状況になっても、チームのことを第一にした振る舞いをできる男になりたいと思った。
 
わずか1時間足らずの出場時間で、これほどのインパクトを与えた選手はこれまでいなかった。
 
僕は、数年後もテームズのことは忘れないと思う。
一生の目標にしたい、気高き精神を彼が見せてくれたのだから。
 
 
 
 
***
 
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2021-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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