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「ぜんぜん大丈夫!」はぜんぜん大丈夫ではない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:月之まゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は美容サロン難民である。
気に入った美容室を見つけやっと腰を落ちつけると思いきや、スタイリストの転勤や産休、店の転居などで同じ店に3年以上通ったことがない。
 
こういう時、人はどうしているか聞いてみると答えは二通りだ。
移り変わりの激しい都会の店から地元の堅実な店に乗りかえる人と、気分を変えたいから定期的に店を変える人だ。
紹介の声をあったが、感性が合わなかった時、気疲れするので自力で見つけることにしている。
私はどちらかというと自分の好みを理解してくれる店舗に落ち着きたい派。
 
今回店を変えるのはスタイリストのおしゃべりが長すぎて、ついつい髪を切りすぎてしまうのが理由だ。
最初に言えばよかったのに気立ての良い人だったので最後まで言えなくなってしまった。
 
そこで思い切って店を変えることにした。
美容サイトで数多あるサロンから新しい理想の店を見つける旅にでるのだ。
 
しかしいざヘアスタイルを任す美容サロンを移るとなると年々おっくうになる。
 
化粧品や洋服は自分が納得できるまで選び手直しもできるが、ヘアスタイルはスタイリストの感性と技術に全幅をゆだねて仕上がりを待つしかないからだ。
 
さて今回は当たりか、ハズレか。
 
予約の日、新しい店へ向かう。入口に入ってまず確かめるのは客層だ。
第一印象は若くにぎやかそうだ。大丈夫だろうか。いや先入観を持ってはいけない。
 
やがて名前が呼ばれて入店案内。椅子に座って二時間座れる椅子かどうかを確かめる。
 
カジュアルな明るい女性の担当スタイリストが現れ挨拶をする。話し方も礼儀ただしく誠実そうだ。
 
「今日はどんな感じにしましょうか?」
さてここからが問題だ。
まずはカラーリングについていつもはこんな感じ、あんな感じと細かいところまで伝える。
しかし初対面同士のせいか具体的なイメージが互いにくみ取れない。
スマホにおさめたスタイル画像でやっと仕上がりの合意がとれた。
 
時間がかかったことを詫びるスタイリストに私は「ぜんぜん、大丈夫です」と答えた。
 
さて次にカットの仕上がりについての打合せがつづく。
「このくらいで・・・」で切って欲しいラインに指をあてる私。
「サイドもこのくらいですか?」と長さを確認してくるが仕上がりがわからない。
「好きなタレントさんとかいますか?」
とくになし。
 
そこでヘアスタイルのカタログを見ることにした。
お待ちくださいと店の奥からスタイリストがもってきたカタログを開いてショックを
受ける。
 
そこにはショートもロングもあらゆる髪型の20代と思しきモデルの顔で並んでいた。
ぱっちりした目、大きめのチークは可愛いらしく、あごのラインが若さを強調している。
私は自分の頭にあったイメージがこのカタログに上書きされて、真っ白になる。
 
そしてドキュメンタリー映画で観た世界的に有名な80代のファッションモデルの言葉を思い出す。
「雑誌VOGUEにでてくる10代の細いモデルは最先端のスタイルを着こなして、世界中の流行をつくっている。いつまでもおしゃれしたい私たちはそれを見て何を着ろというの?
私たちが年相応に着たい服などどこにも売っていないわ。だから自分で工夫するのよ」
 
そうだった。私が新しい店に足が進まない理由。それはこのカタログにあった。
日本のサロンには40代以降のミドルのモデルが一人もでてこない。これだけサロンの数があるのにも関わらずいくつになっても可愛さを薦めてくる。
 
結局、雑誌に載っていた一般人のプロフィール写真で、こんな感じとニュアンスを伝えて落ち着いた。つくりこまれたモデルより、生活のなかの実在の人物がよほどいききととして魅力的に見えたからだ。
 
「ごめんなさいね。言葉足らずで……」と私。
「ぜんぜん大丈夫ですよ。こちらこそすみません」
 
しかしぜんぜん大丈夫でない状況に陥ったのはその直後だ。
カラーリングの薬剤を塗った頭皮が数分でかゆくなった。
(あれっ、いままでこんなアレルギーがでたことないの……)
雑誌の記事に集中しようとするが、かゆみはだんだんとひどくなり痛みにかわる。
 
かゆい、かゆい、カユイ‼
 
以前、カラー薬剤でトラブルに合った友人が頭皮中に湿疹ができ髪の生え際までただれた姿を思い出す。急に怖くなってかゆい部分を手でおさえると、指はみるみる薬剤の黒い色に染まる。
「あの~」
私の手を見て異変にきづいたスタイリストがとんできた。
「大丈夫ですか? すぐに洗いなおしますからね、すみません」
「ぜんぜん、大丈夫です」
 
なぜそう答えてしまったか
最近、周りでよく耳にする言葉だから。トラブルやクレーム、そしてミスがあった時、その失敗にたいして相手が謝ったときに収める魔法の言葉。
 
「ぜんぜん大丈夫」
……大丈夫なものか。むしろぜんぜん大丈夫ではない。
 
髪を丁寧にあらってもらうと痛みは徐々にひいた。
一刻も早く帰りたい。
が解放してもらえない。繰り返しになるがスタイリストは真面目な人だった。
その後も精神誠意、心をこめて髪を切ってくれた。
私の期待に応えようと、パーマをあててみないかとまで提案してくれた。
お茶を出してくれたり、話しかけたりリラックスできるように努めてくれた。
 
そして仕上がった髪をバックミラーもつけて見せてくれる。
「いかがですか?」
「あっ、大丈夫です」と答えてしまった私。
スタイリストは私のよどんだ目の奥の不満を見逃さなかった。
トラブルで右往左往したせいで施術の予定時間はとっくにこえていた。
 
腰は砕けそうに痛いし、空腹も限界だった。トイレにも行きたい。何より早く帰りたい。
美容に執着する我慢のエネルギーはほぼガス欠状態だ。
 
スタイリストは「枝毛きっていいですか?」といいながらカットの微調整に入る。
「もう充分ですよ」腰を浮かす私。
「大丈夫ですよ」とスタイリスト
 
チョキチョキ、チョキチョキ……。
 
細い松葉のような髪がゆかに落ちていく。
(腰もまがった老松の手入れはもういいよ)
 
最後にワックスで髪を整える。
今だ。拘束着となったエプロンをとってもらう絶好のタイミングがおとずれた。
 
「あっ!これですよ~、やればできるじゃないですかぁ。これこれ」
私は目を輝かせて鏡を覗き込んだ。
 
「良かったぁ、一時はどうなるかと思いました。せっかく来ていただいたのに申し訳なくて涙がでそうになりました…」
そう言いながらうっすらと涙ぐむ。
 
彼女も「ぜんぜん大丈夫」が大丈夫でないことに気づいていたのだ。
 
うまくいかなかったとき、負のエネルギーが言霊となって残らないよう、後味の悪さを残さないよう、人はとっさに心と裏腹のことを言ってしまう。
ではどんな言葉が適切なのだろう。今もって私は答えられない。
 
でももしあなたが初めてのサロンに行くのであれば、そしてヘアカタログに載っていない年齢層で自分のスタイルを実現したいなら、イメージのプレゼン準備をおすすめする。
 
間違っても「ぜんぜん大丈夫」と妥協してはならない。
 
 
 
 
***

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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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