エースにならなくてもいい
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:西片あさひ(ライティング・ゼミ超通信コース)
「上から目線ですよ」
訳が分からなかった。
別に何も間違ったことなんて言っていないのに。
ここまで、一生懸命やってきたのに。
頭がぼーっとしてきた。気付いたら、1年前に思いを巡らせていた。
19歳の春。
東京にある大学に合格し、東北の田舎から上京した私。
大学生になったら、やりたいことはたくさんあった。
そんな中でも特にやりたかったのは、サークル活動。
受験勉強をしていた当時、あるテレビドラマが放送されていた。
大学生がサークルに入って大学生活を謳歌している様子がとても印象的な内容。
受験勉強の合間にそのドラマを見ていた私。自然と、ある気持ちが宿っていた。
大学に絶対合格するんだ。
サークルに入って、大学生活を満喫するんだ。
そして、ついに夢が叶うときがやってきたのだ。
意気込んで、4月初めに行われた新入生向けのサークル紹介のイベントに出席したことを今でもよく覚えている。
スポーツ系、音楽系、アウトドア系などいろいろな団体があったが、入部したのは学生向けに交流行事など、様々なイベントを開催するサークル。
きっかけは、入学式直後に開催された新入生歓迎イベントに参加したこと。
スタッフの先輩がとても楽しそうにイベントを運営していたのだ。
なんだかとても楽しそうだな。
私も、この人達と一緒に活動したいな。
気付いたら、そのサークルのドアをたたいていた。
入部したサークルはとても特徴的だった。
先輩も一緒に入った同期も穏やかな人ばかり。
とても楽しい雰囲気なのは、第一印象どおりだった。
しかし、ある時間だけは違ったのだ。
それは、毎週月曜日に開催される会議の時。
様々な企画案をサークルメンバーが持ち込んで、スケジュールや内容について議論を行うのだが、その光景がとても印象的だった。
会議中は激論になっている先輩達が、会議が終わった後は和やかに談笑しているのだ。
不思議で仕方がなかった。
「さっきはあんなに白熱していたのに、なんでそんなにすぐ楽しそうに話せるんですか?」
疑問に思った私は、先輩に聞いてみた。
「あくまでも、意見を戦わせているだけだからね。それに、学生のためにという点では、どのメンバーも同じ気持ちだからね」
頭を殴られたような気分だった。
子どもの頃から自分の意見を言うのをできるだけ避けてきた。
意見を言うことは和を乱すことだと思っていた。
なのに、先輩達はそんな考えのはるか上をいっていた。
なんてかっこいいんだ。
このサークルに入って本当に良かった。
心の底からそんな気持ちが湧き上がった。
より一層、イベントの準備や当日の運営に積極的に関わるようになった。
徐々にではあったが、会議の場で意見を率先して言うように努めた。
それから季節が巡り、1年が過ぎ、2年生になった。
所属していたサークルは、2年生が中心になって運営を行うのが習わしになっていた。
話し合いの結果、私が部長に選ばれた。
憧れていた先輩のようになれたんだ。
これからは、自分がサークルを引っ張っていくんだ。
誇らしさでいっぱいだった。
しかし、これが苦難の始まりになるとは知る由もなかった。
部長を引き継いで、初めての会議では一年間のイベント計画案について発表した。
基本的には、前年度と同じ内容だった。
先輩達が考えた内容を変える必要はないと思ったのだ。
しかし、会議の場では、
「そのままやるのはどうなんでしょう?」
「新体制としての計画を出してください」
という意見が相次いだ。
え、なんで?
昨年は、誰も文句を言っていなかったのに。
混乱しそうだったが、思い直した。
「みんな新しい内容を望んでいるんだ」と。
今度は、練り直した計画を提案することにした。
あれだけしっかり考えたんだ。
きっとすんなり提案が通るだろう。
しかし、その予想は見事裏切られた。
「こんな話、聞いてないですよ」
「なんで、こんな一方的な提案なんですか?」
まさかの非難の嵐。
極めつけは、この一言。
「西片さんが言っていることは上から目線ですよ」
さすがに応えた。
より良い内容を提案したはずなのに。
一生懸命やってきただけなのに。
いくら考えてもさっぱり分からなかった。
思い切って、同期の友人に相談してみるとこんな言葉が返ってきた。
「たしかに、やっていることは間違っていないとは思うよ」
「でも、一人で全てを抱えすぎているんじゃないかな」
この言葉を聞いてはっとした。
部長である自分が全部考えるべきだと決めつけていた。
自分が意見を提案すれば全てが通ると信じていたし、部長になれば憧れの先輩のようにカリスマ性が身につくと思い込んでいた。
でも、それは間違っていた。
大事なことを見落としていたのだ。
サークルにいるのは自分だけじゃないことを。
大勢のメンバーがいることを。
エースになれなくてもいいんだ。
編集者のように、メンバーの意見を集めて形にすればいいんだ。
それに気付いてから、私は同期や後輩の意見を聞くようになった。
すると、どうだろう。
あれだけ、私に反対していたメンバーが私の意見に耳を傾けてくれるようになったのだ。
その後、紆余曲折はあったが、部長の任期を無事終えられた。
当時のメンバーとは今も連絡を取り合っている。
あれから10年以上が経った。
就職をして、いろいろな仕事に取り組んできたが、あの時の経験が今でも生きている。
リーダーが方針を決めることはもちろん大事なことだ。
しかし、全部を決めなくていいのだ。
むしろ全てを抱えようとすると、大事な仲間を失いかねない。
もし、かつての私のようにリーダーの振る舞いに悩んでいる人を見つけたら、こんな言葉をかけるだろう。
エースにならなくてもいいんだよ。
編集者のようになればいいんだよ。
***
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