母の手紙
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記事:なつき(ライティング・ゼミ超通信コース)
どうして私が生きているんだろう、妹がいなくなった時に思った。
どうして私が生きているんだろう、母がいなくなった時にも思った。
妹は私よりもちろん年下だから順番がおかしい。そして私より愛らしくて人気者だった。人のために動く優しい面も持ち合わせていた。
母は、私の母だから年上だし順序としては当たり前かもしれないけど、やはり人のために動く人で人気者だった。
妹から見たら、私は自分中心に考える偉そうな姉だっただろう。
母から見たら、私は文句が多い育てにくい娘だっただろう。
妹も母も周りから必要とされていた人たち。
なぜこんなに早く連れて行ってしまうのか。
不公平だと日々思っていた。
連れて行かれるべきは私の様な者の方じゃないのかと日々思っていた。
でもなぜだか生かされている。
なぜだろうか。
私は生きていていいのだろうか。
いなくなった人たちは物を言わない。
何も語らない。
だからあの二人が先に逝って私がこの世に存在している理由など知ることができない。
でも私はなぜだか生かされている。
この世に生きているということは、何かしらに生かされているのだと思う。
だから余計に分からない。
大事な人がいなくなり、もうこんな思いをしたくないと思った中学生の時。
妹は私が中学生の時にいなくなったからもう30年以上経っただろうか。
それでも今なおなぜ彼女が先にいなくなったのか分からない。
私の方がずっといなくなってもおかしくない必要のない存在なのに。
妹がいなくなってから毎年彼女の誕生日が来ると切なくなる。
命日は今でも思い出したくない。
母に対してもそうだ。病気で入退院を繰り返していた。それでも母は元気で、入院しては当たり前の様に退院した。退院を繰り返した。だから今度も当たり前に退院すると思っていた。でもその時は来なかった。母はいなくなってしまった。
失意で感情が無くなった。何か楽しいことがあってもどこか空々しく思っている自分がいる。体に力が入らない。
そんな時だった。部屋を片付けていたら母からの手紙が出てきた。母が私の良いところを100個書いてみた、という内容だった。もうだいぶ前に直接もらったもので、その時にも読んだはずなのに内容を忘れていたものだった。
読んでいるうちに母はそんなことで良いと思っていてくれていたのか、喜んでいたのかというものが見えてきた。
母の最初の入院は私が高校生の時だった。私は母が入院をしている時にお見舞いによく行った。学校帰りだったり、会社員になってからは休日しか行けなかったけれど行ける時にはなるべく行くようにしていた。
そこで私がしていたことは馬鹿なことをする、だった。
それは妹が入院していた時にはできなかったから、今度誰かが入院したらそれをしようと思っていたことだった。
何か面白そうな話を見つけて母に話す。ちょっとバカっぽい天然ボケみたいなことをする(実際、私はもとから天然ボケを持ち合わせていたようなので意図せずとも笑ってくれることもあったけど)。とにかく「やだ~、もうお腹痛い~」といった類の笑いを提供するようにした。
そのことが母からの手紙にも私の良いところとして「入院中面白い話をして笑わせてくれた」としてしっかり盛り込まれていた。
やはり母にはお見通しだった。
その手紙を読んでいるうちにそんな人間なら生きていてもいいのかもしれない、と思えるようになってきた。母の書いた通りの良いところのある人間なら。
母から見た私と実際の私は少し違う。入院中の母に接する時には「面白がらせる」が目標だったから少し無理をしていた。
正確には最初は無理をしていた。それが途中から、面白がらせることが母だけでなく私も元気にしてくれていることに気がついた。
面白がらせることを考えることは結構難しい。入院にしている人に対して何を話せばいいのか、手術をして辛い思いをしている時に何を話せばいいのか。面白くても入院している時にはそぐわない内容もある。それを考えつつ、ちょっとバカっぽい自分も見せて楽しんでもらう。
そうやって母に会いに行く時にはできるだけ新しい笑いが生まれるようにした。
それが母にとって、私の良いところ、として取りあげられていた。あの時は結構必死だった。入院している母が寂しくならないように、夜になっても思い出し笑いができるように色々考えた。
そうか。私は人のために動いていないし、そんな人が生かされているのはなんでだろうと思っていたけど動けていたのか。あの時の私は少なくとも母のために動いていた。それを母の手紙が認めてくれて証明してくれていた。そういえば何度か直接お礼を言われたこともあった。
母は物言わぬ存在になってしまったけれど、残してくれた母の手紙は私の存在価値をしっかり語ってくれていた。胸を張って堂々と生きていていいんだよと話しかけてくれたようだった。この手紙のお陰で失意から少し抜け出すことができた。
母のために動いた時の様に、これからどんなことができるだろうか。
***
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