骨折が教えてくれた、母の愛
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記事:いしだ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「痛い!」
足の小指を強打した。2日前の土曜日のことだ。朝からオンラインの仕事のため、主婦でもある私は家事を済ませようと、大忙しだった。洗濯物をとりにいく際、バタバタとしていた私は壁の出っ張りに小指をぶつけた。
かなりの痛みだ。しばらくすると、痛みはひいていく。しかし、腫れ、青くなってきている。休日だったため、救急病院にいくほどでもないと思い、月曜日の本日念のために病院に行ったのだ。
5分で行ける病院まで徒歩で20分かかった。痛まないように歩けば痛くないので、骨折ではないといいなとは思っていた。しかし
「骨折ですね」
ショックだった。先生からあっさりと言われる。ギブスではないが固定してもらう。治るまで1か月もかかるらしい。
私は、散歩が趣味で、精神安定でもある。とにかく、毎日1時間以上歩くのだが、歩けないことへの動揺も大きい。
初めての骨折と、治るまで1か月かかることで、不安感でいっぱいになる。
「骨折しちゃったよ」
と、母に電話した。
「え、大丈夫なの?困った。痛いよね。どうなの。どうしちゃったの?」
母の声がうろたえている。
母は本来、かなりポジティブでわりとなんでも笑い飛ばすタイプだ。骨折も
「どじね。不安になっても仕方がないから、まぁのんびりして治しなさいよ」
と、言うだろうなと正直思っていた。
母はポジティブ思考で、人生なんとかなるし、なんとかしてきた生き方をしてきた。小さい頃からネガティブな私はどこかで私の気持ちに母は共感してくれないのだろうなと思い、ネガティブなことはあまり話さないようにしていた。
やりたくない気持ちや、辛い、痛い、怖いという気持ちにも、なんとかなるからとにかく前向きにがんばりなさいと、背中をおしてはくれた。でも、
「辛いよね、痛いよね、怖いよね」
とは、あまり共感の言葉を言ってはくれないのだなと、幼心で正直思ったことはある。とはいっても、惜しみない愛情を与えてもらったという実感もある。私は、ポジティブになんでもやろうと努力し、達成していく母に憧れ、母みたいになりたいと思っていた。
ところが、そんな母が電話ですごく不安になっているのを感じる。私はびっくりした。心配かけるつもりはなかった。どじねと、笑ってもらうつもりだったのだ。
「私が産んだあなたの身体を大切にしてよ」
と、母が言ってくれたのだ。
「そうだね。お母さん、私を産んでくれたんだもんね。ありがとう」
「お大事にね」
母の電話越しの声が震えている。母は泣いていた。母は電話を切った。
私は大人になってから、母に何度も伝えてきた言葉がある。
「お母さん、産んでくれてありがとう」
「私がいるのは、お母さんが産んでくれたからだよ」
と、いう言葉だ。
そんな私は、反抗期は荒れた。母も会社を立ち上げて、忙しく、社員の人たちから慕われ、朝から晩まで仕事をしていた。母に憧れて、母みたいになりたいと思いながら、同時に私は母にはなれないのだという思いばかり募っていった。私は、ミスも多い。対人関係も正直そんなに上手にはこなせない。クラスで浮いてしまって、学校に行くのが辛い時期もあった。母には、学校に行くのが辛いとは、言えなかった。母はきっと背中をおしてくれるだろうけれども、わかってくれないだろうと、私は決めつけた。
「なんで私を産んだの」
「産んでくれって頼んでないのに、勝手に産んだ」
母と喧嘩をしたとき、感情的になり、言ってはいけないと、わかっていながら、泣きながら、言ってしまった。きっと、私は正直に
「助けてほしい」
と、言えていたら、そんな言葉を言わなくて済んだかもしれない。
自分の気持ちに素直になるって、本当に大事だ。ただ、母に八つ当たりしただけだった。それでも母は
「あなたを産みたかったから。あなたと会いたかったから。宝物だよ」
と、言ってもらった。それは、私は本当にうれしかった。わんわん泣いた。私のまるごとを受け止めてもらったように感じた。
正直になることが大事だと痛感している私は、大人になって、私の誕生日には必ず
「産んでくれてありがとう」
と、伝えるようにしている。母は、何度伝えても、照れるばかりの母だった。でも、今回は違った。
「お母さん、私を産んでくれてありがとう」
その言葉に、泣いてくれたのだ。私は実はとってもうれしかったのだ。私は、母の涙で、母が私の「ありがとう」を心から受け取ってくれたのだなと、なんとなくだが、すごく思うのだ。
今まで、私も生きるのがあまり上手ではなく、たくさん母にも迷惑をかけてきてしまった。もしかしたら私を「産んでしまってよかったのかなぁ」と、母に思わせた瞬間もあったかもしれない。
でも、もうすぐ70歳になる母。母が本当に私を産んでよかったと思ってくれているのだと、私の結婚式の次に、私が感じた瞬間だった。
私も2児の母だ。正直に、素直に言葉にすることを信条にしている私は
「生まれてきてくれてありがとう」
と、熱く抱擁をしている。小学生になるこどもたちは、最近
「はいはい」
と、上手に流してくれる。でも、この言葉が、楽しい日も、辛い日も、こどもたちの人生の土台になってくれたらいいなと願いもこめているのだ。
願いだけでなく、素直に何度でも思う。私にとって人生を振り返っても、こどもを出産し、こどもと逢えたことは、人生で一番の贈り物で宝物だ。
母も、本当にそう思ってくれている。骨折したことで、心底私は実感していて、とっても気持ちがほかほかと、あたたかい。
骨折はたしかに不便だ。でも、こんなにほかほかとあたたかい気持ちになれるのだったら、骨折も悪いことばかりでもないのかもしれない。電話越しの母の涙という愛を受け取れたから。
***
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