助詞を『が』にするカレーパン
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山田THX将治(天狼院「超」ライティング・ゼミ)
「今晩、何が食べたいかな?」
「そうだなぁ、ハンバーグでいいや」
夕方、私がスーパーで買い物をしていると、やんちゃそうな男の子と優しそうな母親が、そんな会話をしながら晩御飯を選んでいた。
何気ない、微笑ましい会話だったが、私はちょいとばかり気になった。それは、数十年前から気に為っていたのだが、私がこうして物を書く習慣が付いてから、余計に感じる様になった。
それは、母親は質問で助詞の『が』を使っているのに、少年は『で』を使って返答しているからだ。
助詞『が』は、一つのことを指し示すときに使われる。そこには意思や主張が有り、ややもすれば他の物では代わりが利かないことも意味する。
一方、会話中の『で』は、妥協的意味が強まってしまう。どこかネガティブな感覚も在ったりするものだ。
私は、文章を書く上では勿論、普段のビジネス上でも、『が』を多用し、なるべく『で』を使わない様に心掛けている。
もう、数十年続けて来たので、今では意識せずとも使い分けが出来ていると思う。
今年に入ってから、自分の何気ない行動で、助詞の『で』が、『が』に替わる経験をした。
この世に生を受けてから60年以上、東京の東部、下町と呼ばれる海抜0mで自然が殆ど無い地域で私は暮らしていた。現在は居を、東西に長い東京都のほぼ真ん中辺りに移しているが、それでも特段の用事が無い限り、東京の西部に行くことは無い。
東京都の最西部に‘あきる野市’という街が在る。
先日、私は所用が有り八王子と町田の境に出向いていた。現在の住まいからでも優に25km、車でも1時間半は掛かろうかという処だ。
折角そこまで出たので所要後、取材を兼ねてもう少し西へ車を走らせた。
あきる野市迄の道程(みちのり)は、1964年の東京オリンピック時に、自転車ロードレースのコースだったからだ。道路は完全に山間部のワインディングに近いものが有った。
もう一つ、あきる野市迄足を延ばしたのは訳が有った。
2か月程前、天狼院の『元カレー』を紹介していたテレビ番組で、面白そうなパン職人さんを知ったからだ。正直、言葉選ぶが、その高齢(74歳)の職人さんは、頭がおかしいとしか思えない様なこだわりが有ったのだ。
何でも、郊外の人口が少ない街のパン屋さんなので、おいしいパンだけでは無く一つでも特徴のあるパンを作ることを目指いたらしいのだ。
“一点突破”というやつだ。
パン職人さんは、カレーパンに狙いを定めた。何故なら、地元には“秋川牛”というブランド牛が有ったからだ。丁度、豚で言うところの“東京X”みたいなものだ。
“秋川牛”を活かすには、カレーパンが最適と考えたそうだ。
ただ、名物のカレーパンを作ろうとする職人さんの目標が半端なかった。
日本一のカレーパンを目指したのだ。
苦心の結果、そのパン職人さんが作り上げるカレーパンは、日本全国のパンが集う『カレーパングランプリ』で、2年連続して最高金賞を受賞するまでに為っていたのだ。
カレーパンといえば、日本全国、どこへ行っても買うことが出来る庶民的なパンだ。
ただしその分、無難なパンと思われがちだ。何しろ、カレーが嫌いな日本人等、先ず御目に掛かることは無いのだから。
その反面、買う側の心理としてカレーパンは、妥協の産物と為り兼ねない物でもある。
実際私は、初めて買うパン屋さんや、時間が無くコンビニに飛び込んだ際等、ついついカレーパンを選択してしまうものだ。カレーパンなら、無難だろうという考えからだ。
そこには完全に、
「カレーパン『で』いいや」
と、私の言葉が隠れているものだ。
こだわり職人さんが作るカレーパンの店は、東京では珍しい単線で運行しているJR五日市線の秋川駅前に在った。
ショッピングバッグを持った私は、手指消毒の後、入店した。トレイを持って店内を見回したが、御目当てのカレーパンが見当たらなかった。しかし、他にも美味しそうなパンが有ったので、いくつかトレイに乗せた。
暫くすると店の奥の工房から、例のパン職人さんが揚げたてのカレーパンを運んできた。
店内の一番目立つ処にこれまた目立つポップが在り、職人さんはそこへ揚げたてのカレーパンを並べ始めた。私は、
「頂いて宜しいですか」
と、断りを入れ、カレーパンを3個トレイに乗せた。
職人さんに御聞きしたところ、一日に10数回カレーパンを揚げているそうだ。個数にすると優に300個を超えるらしい。
その職人さんは、郊外店なのに300個も売れるカレーパンの仕込みの為、早朝4時から仕事に取り掛かるらそうだ。
どうりで、その最高金賞を受賞したカレーパンは、1個税込み248円と少しだけ高価に為っていた。
一所懸命に仕事をするパン職人さんに、私は御礼を述べると帰宅の途を急いだ。
ここは、あきる野市だ。自宅からは、30km以上離れている。急がないと、夕飯に超絶美味しいカレーパンを買って来ると約束したカミさんに叱られてしまうのだ。
帰宅後夕食として食べた、あきる野市のカレーパンは、これまでに食べたことが無い美味しさだった。何しろ、油で揚げてから3時間は経とうとしているカレーパンなのに、全く脂っこくなかった。
中に入っているカレーも、“秋川牛”を挽いたキーマカレーに為っていて、とても美味しかった。これなら、カレーライスにしても名物と為るように思えた。
私は食べながら、次はこのカレーパンを買いに、滅多に行くことの無いあきる野市へ出向こうと思った。
このカレーパン『が』、また食べたいと思ったからだ。
人間いくつになっても、『が』を使える物との出遭いは嬉しいものだ。
それが大切だとも、改めて感じだ。
***
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