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15年ぶりに観ても、古畑任三郎は大傑作だった。 


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記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ「超」通信コース)
 
 
俳優の田村正和さんの訃報が5月18日に届いた。
実際にはその1か月以上前に亡くなったとのこと。
 
現在37歳の僕や、同年代以上の方には共通して深く刻まれたTVドラマがある。
「古畑任三郎」だ。
最初のシリーズが始まったのが1994年であり、僕は小学生だった。
 
追悼特別番組として5月21日に「古畑任三郎ファイナル~ラスト・ダンス」が放送された。
こちらは2006年1月に放送されたものであるため、実に15年も経ってしまったことになるけれど、この特番が放送されると聞き、録画しつつもリアルタイムで視聴した。
それだけ、優れたドラマとして刻まれていたからだ。
 
「古畑任三郎」は警部補である古畑が事件を捜査し、鋭い洞察力と推理力で犯人を突き止め、追い詰めていく作品だ。
ここだけを聞けば全く何の変哲もない推理モノであるが、決定的な違いは「倒叙ミステリ」であることだ。
冒頭で、犯人が犯罪を犯す様が映し出される。
基本は殺人であり、視聴者は緊迫感を味わいながら目が釘付けとなる。
しかし古畑をはじめとして、警察にはその様が明かされていない。現場に残る証拠や、疑わしき人物との会話などによって古畑は推理を構築していく。
 
始めてみた時からこのドラマには衝撃を受けた。
それまで見たことがない形式であったからだ。
 
通常は、視聴者は犯人がわからないまま、探偵あるいは警察と一緒に事件の展開を見守っていくけれど、「古畑任三郎」では、視聴者には最初から犯人が明かされている。これでは楽しみが半減するじゃないか。
ところがだ。
これが非常に面白く作られている。二重の衝撃である。
 
ストーリー上楽しむポイントは2つ。
1つ目は、視聴者にも、完全には謎が明かされていないことだ。
つまり犯人という最重要事項は明かされているものの、彼らがどうやって容疑者として外れるための工夫/努力を行ったのか、については謎としてちゃんと確保されているのである。
先に述べた「ラスト・ダンス」では松嶋菜々子が一人二役で登場する。ミステリの脚本を双子の姉妹で共通の名義で書いている。しかし、双子でかつ一緒に仕事をしているものの、性格は対照的である。
そこで片方がもう片方を計画的に殺し、トリックによって、容疑を切り抜けようとする話であった。
 
まだ観られていない方のために内容は省くが、このトリックが非常に映像向きであり、まんまと欺かれてしまった。
それも、視聴者にはちゃんと違和感を覚えるべきポイントが、印象的に提示されているのである。
構成がよく練られているのでぜひ確かめていただきたい。
 
2つ目の楽しむポイントは、犯人たちが古畑の追及をどう躱そうとし、しかし、抵抗むなしく着実に追い詰められていくのか、である。
先ほど述べたように犯人は誰なのかは視聴者にはわかっているのだから、どう言い逃れするかは大きな関心事だ。
犯人は、古畑に疑われたことに気づきながら、彼の疑問点に自分に疑いがかからないような回答をしていく。
多少怪しくても、それらの証言を否定できるような材料がなければ、犯人たちは逃げおおせるのだ。
このとき、視聴者にも明かされていない犯人のトリックが、その核となるのである。
 
しかし古畑は最後には動かぬ証拠を提示し、犯人に負けを認めさせる。
このあたりのスリリングな駆け引きもまた、この作品のだいご味だ。
 
そしてストーリーに加えて素晴らしいのが古畑のキャラクターである。
田村正和さんは端正な顔つきであるのだけれど、彼は立ち居振る舞い、話し方、人に対する受け答えに強いクセがあり、結果として視聴者には変人という強烈な印象が残る。
別の名作推理ドラマである「相棒」の杉下右京も変ではあるが、「こいつ変だな」という印象が強いのはやはり古畑に軍配が上がる。
 
別のストーリーではあるが、彼の人となりの一端が覗える発言を紹介する。
彼は警察犬訓練所におり、かつての部下が現場復帰を要請する際のやり取りだ。
「どうしてまた警察犬の指導員に」
「指導員じゃないよ、飼育係。み~んな私が育てた。(中略)動物はウソを吐かないからね」
「力を貸していただけませんか。OKしてくれるまで今日は僕は帰りませんから」
「OKしないって誰が言った」
「え?」
「いつ迎えに来るかそればっかり考えてたんだよ。自分からさ、現場復帰言い出すのかっこわるいじゃないか。まあね、昨日そう言ってもよかったんだけれども。ちょっともったいぶってみました」
「それじゃあ」
「嫌いなんだよ犬が」
「ウソを吐かない」
「だから嫌なんだよ」
 
非常に彼らしく、本気で言ってるんだろうな、と感じさせる発言で、僕の一番のお気に入りのやり取りだ。
屈折しているが、なにか憎めない。
この古畑の人物像は、田村正和さんでなければありえないのだ。一体化したイメージが確立されているのである。
 
ちょっと回りくどい言い方で質問を投げかけ、犯人の回答の矛盾点をいやらしくついたり、心理的に揺さぶってきたり。彼に疑われて追っかけまわされるのはさぞ生きた心地がしないだろう。
正義感が強いところが彼の美徳である。
もちろん西村まさ彦さんの演じる「今泉くん」とのコミカルな掛け合い(一方的に古畑が辛辣だが)もまた楽しみの1つだった。今泉くんが窮地に陥った時は、ちゃんと助けていた。迷惑そうに、彼の広いおでこを叩いて。
 
小・中・高時代、観た翌日に学校に行くと、決まって友人たちと話題になった、伝説のTVドラマだった。
犯人役も非常に豪華で、先に挙げた松嶋菜々子はもちろん、明石家さんまや福山雅治、そしてSMAPは本人役として登場していたのだから凄すぎる。
 
ちなみに先日、現役の本格ミステリ作家の「小説創作1DAY講座」を受けたのだが、質問コーナーにて、
次のような質問をさせていただいた。
「古畑任三郎のように、倒叙ミステリにトライされるアイデアはありますか?」と。
そうするとその作家さんはこう答えてくださった。
「今のところ、倒叙ミステリは考えていない。非常に興味をそそるテーマで、作家としてはいつかやってみたい。それだけに、差別化が難しい。有名で偉大な作品である古畑任三郎でやってしまっているのだから」と。
 
15年ぶりに観ても、文句なしに面白い。
それを改めて確認できるほど、大変な傑作であった。
 
ちなみに「ラスト・ダンス」は平均世帯視聴率が13.4%であったらしい(ビデオリサーチ調べ)。
本当に素晴らしいドラマを生んでいただき、改めてお礼を申し上げます。
ご冥福をお祈りいたします。
そしてやはり、もう一度全話を観返さなきゃ、と固く決心した。
 
 
 
 
***

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2021-05-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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