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祖父の戦争体験


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記事:まき (ライティングゼミ超通信コース)
 
 
私には、大正生まれの祖父がいました。
祖父と祖母はその時代には珍しく恋愛結婚で、80歳を超えても一日中会話をしている、仲の良い夫婦でした。
 
会話といっても、天気予報で
「明日は、雨のち曇りでしょう」
と聞くとすぐに
「お父さん、明日は雨らしいよ」
「そうだな、そのあとは曇りになるようだな」
 
孫としては「今テレビで言ったままじゃん!」とつっこみたくなるような会話を一日中繰り返している、面白い夫婦でした。
 
 
しかし、毎年8月15日だけは違いました。
この日は、日本人にとって終戦記念日。
この日は必ず2人揃って、終戦番組を黙って見つめていました。
 
テレビの中では、戦争体験者が実際に見た景色、感じた苦労、そして原爆ドームの映像が流れていました。
 
 
祖父は、椅子の背もたれに寄りかかったまま、お茶も飲まずに、テレビの声に耳を傾けていました。番組が終わっても誰とも何一つ会話もせず、黙ったまま2階の自分の部屋へ1人登っていきます。
 
毎年毎年その1日だけは、いつもと全く雰囲気の違う日常が流れていきました。
 
 
私が高校生になった夏休み前のある日、
「戦争体験者が近くにいて戦争について聞ける人は聞いてきてください。それを周りの人にも伝えられるといいですね!」
そう課題が出されました。
 
必須ではない課題でしたが、その時今年は祖父に戦争の体験を聞いてみよう! そう思いました。
 
祖父もすでに85歳を超えていて、いつ亡くなってもおかしくない年齢です。今のうちに、祖父だけが見てきた戦争の体験を聞いておきたい、これはいいきっかけを貰えたな! そんな軽い気持ちでした。
 
 
事前に祖母から、祖父はあと3日戦争が長引いていたら神風特攻隊になっていたこと、訓練所から特攻隊として旅立つ空港に向かって歩いていた途中に、終戦連絡があったことを聞きました。
 
私はそのような立場にある人の戦争体験の話を聞いたことがなかったので、どんな風景を見てきたのか、緊迫感がどの程度のものだったのか、いろんな新しい話を聞けるかもしれない、祖父の体験に興味を持ちました。
 
 
そして当日。8月15日が来ました。
 
毎年と同じように戦争番組が流れ始めた時、会話禁止! と立て札でもたっているかのような重たい空気感の中、何も気づかないふりをして祖父に話しかけました。
「おじいちゃんの戦争体験も聞かせて? どうだった?」
 
 
祖父は、毎年と同じように黙り続けました。
テレビの音だけが部屋の中に響き、コップの音さえも立てにくく、トイレにも立ちにくい、例年にも増して重たい空気が部屋中に立ち込めました。
 
あ、聞くんじゃなかった。
そう思っても取り返しはつきません。
 
祖父は85歳を過ぎても補聴器もいらず、些細な音も聞き漏らさない人でしたが、聞こえないふりをしているように見えました。それならもう、言わなかったことにして、このまま番組が終わるのを待とう! 私も気持ちを切り替え、時間が過ぎるのを待ちました。
 
戦争の映像が一通り終わり、番組が終わりかけた時、祖父がテレビの方を向いたまま、低い声でゆっくりと
「戦友が、たくさん死んだ」
と重たい口を開きました。
 
それだけ言うと、番組が終わる前に祖父は席を立ち、自分の部屋への階段をゆっくり登っていきました。
 
私にはその一言で十分でした。
全てが分かったような気がしました。もちろん戦争のこと自体は何も解りません。周りの人に伝えられることも、1つもありません。
 
しかし戦争は誰もが言う通り「二度としてはいけない」それだけはわかりました。
 
 
祖父の中の深い深い心の傷は、きっと70年近く経っても癒ていないのでしょう。
普段は明るく面白い会話ができる家族がいても、笑い合える日常が目の前にあっても、その傷だけはどうにもならないのでしょう。
 
 
祖母から聞いた話で、神風特攻隊に選ばれるとは、名前を呼ばれ最後の写真を撮るそうです。まだ18歳だった祖父にとって、当時の友人が次々と名前を呼ばれ他界していく事実。
そんな中、自分自身も名前を呼ばれ、遺影となる写真を撮り、死を覚悟しながら出発先の空港に向かって歩いていた時に戦争の終わりを告げられたようです。
 
その心の内は、想像できる心労をはるかに超えているでしょう。
 
ある時、電話口でメモをした白い紙を持って、親戚でもない人のお墓参りに行ったことがありました。
「こんなに長生きして申し訳ない。生き残ったものの勤めとして、果たさなければいけない」そうお墓参りの時に祖父は言いました。
 
「長生きして申し訳ない」
この言葉が、私の中にいつまでも響きました。
 
 
どうしたら、この世界から戦争がなくなるのか、私にはわかりません。
でも、1日でも早くこの世界から戦争が無くなってほしいと強く思うようになりました。
そして体験者の方々がおっしゃる
「戦争を2度と繰り返してはいけない」
これをずっと守っていける日本であることを願っています。
 
 
 
 
***

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2021-05-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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