メディアグランプリ

私と236人の常連さんの日常


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松岡 千紘(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
AM3:30
“ピロリロピロリロ〜♫”
 
冬の真夜中
 
AM3:45
“ピロリロピロリロ〜♫”
 
このまま体温で温まった布団にくるまれていたい
 
AM4:00
“ピロリロピロリロ〜♫”
 
…はぁ。
 
3回目のスヌーズで、むりやり体から布団を引き剥がした。
ギリギリまで寝ていたい私は、化粧に費やす時間は最小限。急いで身支度をし、家族を起こさないようにそそくさと家を出る。
 
AM4:30
外はまだまだまっくらで、朝が来る気配はまだない。ヒヤッとするイヤフォンを耳にさし、自転車にまたがり、一日がはじまる。
 
AM4:45
目的地の喫茶店に到着。まだシャッターの閉まっているここが私のバイト先。
座席は全部で15卓ほどの、こじんまりとしたお店だ。
オープン時間は5:30。
なのにいっつも、常連さん2人がすでにシャッター前でスタンバイしている。
いつもどおり、ベテランのキッチン担当の女性(通称:画家マダム)と、私と同じホール担当の主婦さん(通称:ママさん)がそれぞれ店に到着し、3人で開店準備をすすめる。
 
AM4:55
シャッターを開け、お店の椅子を机からおろし、テーブルを拭く。ここでやっと常連さんをお店の中にご案内。さきほども言ったけれど、ここは5:30オープンなのに。
 
AM5:10
注文をとっていないのに、画家マダムが作ったモーニングセットが出来上がる。
それぞれ、焼きサンドイッチ(ハム抜き)と、トーストセット(薄焼き、トマト抜き)だ。
ここの常連さんはそれぞれ決まったメニューを毎日注文するので、注文を聞かないケースがほとんど。
もう一度繰り返すけれど、オープンは5:30なのに。早く来た上、勝手に料理が出てくる。いたれりつくせりじゃないか。
 
AM5:25〜
続々と常連さんがやってきては、今日はホットですか?や、今日はロールパンにしますか?、はたまた、卵は焼きますか?など、それぞれに合わせた聞き方をする。
どのメニューにしますか?とは決して聞かないのが、うちの喫茶店。
最初はぜんぜん覚えられず常連さんに助けてもらったりしていたが、ひとたびこちらが覚えると、ニヤァっと笑みを浮かべる。私を認めてくれた笑みだ。
 
AM7:00
この時間になると、お一人様ラッシュが落ち着き、ひと息つけるようになる。
外はうっすら日の光が差していて、店内も太陽の明るさに包まれていく。この光を見るたび、朝早くから起きたかいがあったなぁ…と思う。
お客さん対応の合間を縫って朝ごはんを食べるが、常連さんの中には絶対におかわりをするおばあちゃんがいるので、客席への気は抜けない。
 
AM8:00
第二次ピークの到来、ここからは一般のお客さんもいりまじり、オープン後よりも少しあたふたする。ママさんと声を掛け合いながらこなす。
BGMはオープン時よりこころなしか大きくなり、店内のあちこちからお客さんの声が聞こえる。これはこれで心地よい。
 
AM9:00
やり残したことはあるが、私の今日の業務はこれで終了。店内はまだまだ忙しく、なんならお店の外で待機しているお客さんもいる。けれども広くはない店内で私がいたところで、邪魔になってしまう。
画家マダムとママさん、そしていつもの常連さんに挨拶をして私は家路につく。
今日もあのおじいちゃんが、新聞を持った手とは逆の手をあげ、「おう」と挨拶をしてくれる。
 
***
 
さて、こちらの喫茶店で、週3日勤務の私が対応をしてきた常連さん(AM5:00〜AM9:00)は236人。
しかもそれぞれ固定メニューが存在する。
たった4時間でこの人数だと、いったいこの店の常連さんは総勢何人いるのだろう…。
 
朝早起きするだけで大変だし、顔を覚えるのも大変、その上メニューに関してこんなに個別対応するのは負担だなぁ…と働き始めた当初は思っていた。
 
ただ、なんだろう、勤続日数を重ねるごとに心地よくなるこの空間は。
 
週3の勤務といえど、毎回いらっしゃるお客さんの顔を見るとホッとするし、年配の方が多いので、ある日突然来られなくなると、ふと悲しくなったりもする。
 
なんというか、心があったかくなるこの空間。
 
オープン前の4:45に来るおばあちゃん達、
毎日同じメニューを頼むおじさまおばさま達、
中には毎日2キロ歩いてくるおじいちゃんもいた。
 
みんな、ここに何を求めて来ているのだろう。
 
はた
 
何も求めていないのではないか?
ただ、日常がそこにあるだけなんじゃないか?
同じ時間、同じ場所、同じ食べ物、顔なじみの常連さん達。
みんながそこで、毎日を過ごしている。
 
みんなの日常がそこで続いている中で、私の日常も続いている。
私の日常がそこで続いている中で、みんなの日常もそこで続く。
勤続日数が長くなるにつれ、皆の日常と、私の日常の重なる範囲が広くなっていく感覚。
 
喫茶店という場を通して、つながったそれぞれの日常を
それぞれが “当たり前の事” として共有している。
 
これが心地よさの正体なのではないか。
 
朝早くお店を開け、オープン前から料理をし、それぞれに合ったメニューを提供するというのも、私達の日常を続けていく中で必然的にそうなったことだろうと合点が行く。
 
そう考えると、朝3:30のアラームから始まるこの日常も少し愛おしくなる。
 
明日もあのおじいちゃんは帽子をかぶり、チェックのシャツで来るんだろうなぁ、
そして早朝は布団にくるまりながら眠気眼で聞くのだろう。
 
“ピロリロピロリロ〜♫”
 
 
 
 
***

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2021-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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