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今、この瞬間を生きる 〜座禅を通して〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ろびん(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
近所のお寺に貼られていたプライベート座禅の見出し。ちょっとした運命の出会いの始まりだった。なんだこれ! お坊さんつきっきりで座禅が組める! しかも、プライベートだから予約さえすれば仕事終わりでも行ける! 料金はお気持ちで! ……これは、行くしかない!
そう思う20代女子なんて、まれだと思う(もし同士がいたら友達になりたい)。私は高校で社会科教員をしている。宗教に関する授業もするので、この体験は話のネタになる! と思ったのだ。実際、仏教を理解するために教材とにらめっこしても、難しいのですぐ眠くなってしまう。だったら実際体験した方が早いだろう! そんなことで、特に仏教徒でもない私だが、プライベート座禅に申し込んだ。
 
申し込んだものの、その日が近づくにつれて、やっぱり怖いなあ、キャンセルしようかなあ、と考えている、煩悩まみれの自分が悲しくなる。当日、思い切ってインターホンを押した。優しそうなお坊さんが迎えてくれた。いよいよ座禅するんだ、私。
お坊さんはとっても優しそうな人だった。仏教の教えや座禅の心構えを噛み砕いてお話ししてくださった。緊張していたせいで、楽にしてくださいと言われてもそれすらできなかった。まだ座禅も始まっていないのに、すでにもう足が痺れている。大丈夫か、私。
 
お話の中で心に残ったことがある。座禅では、「何にも執着しないための訓練」であるという。仏教は無を目指すのだが、人の脳はお喋りなので、思考を止めて無になることはかなり難しい。それはお坊さんでも同じらしい。だから、思いついたことは受け入れて、そのまま流すようにすればいいとのこと。何も考えてはダメだ! とか、無にならなきゃ! と思ってしまうと、それは「無になることに執着」しているからアウト。とにかく、何を思っても、さっと流すことが大切だということだ。何にも執着しないコツは、一定のリズムでの呼吸と、背筋をピンと伸ばした姿勢を保つことだけに集中すること。なるほど。それならできるかもしれない。
 
実際に足を組んでみる。正座は厳しいけど、あぐらならイケるぞ! と思いきや、これが全然だった。なんと、右足は左の股関節に、左足は右の股関節に乗せるのだという。文字では伝わりづらいので、ぜひやってみて欲しい。私なんか、そもそも足がそのように動かせることすら信じられなかった。一向に正しいあぐらが組めないので、今回は楽な姿勢で、ということになった。
 
本番。縁側に向かってへたっぴなあぐらを組む。背筋をピンと伸ばして、呼吸に集中する。5秒くらいで、すでにキツい。もう体がプルプルしてる感覚だ。ヤバい、耐えられるのか!?
 
呼吸に集中、背筋に集中。……
 
……
 
そういえば今日の授業は腹が立ったなあ。こっちが一生懸命話してるのに、寝るわ、弁当食うわ、他ごとするわ、もう。何よりもこっちが喋ってるのにデカい声でしゃべられるのが一番ムカつく。受験で使わない教科の授業聞く気がないのは分かるけど、こっちの妨害はマジで勘弁。ただでさえマスクで授業するのしんどいのに、このクソガキが〜。……
 
いかんいかん、呼吸と背筋に集中。
 
……
 
そういえばもうすぐ授業で新しい単元に入るんだった。ひえー、まだ予習できてないな。確かあの単元は難しいし、入試でも出やすい。めちゃくちゃ大事じゃん。ちゃんと解説できるようにしなきゃ。とりあえずいくつか教材読み漁らないと。家にあったかなあ。あの単元って、中学校ではどこまで習うんだっけ、これも調べないと〜。……
 
いかんいかん、呼吸と背筋に集中。
 
……
 
今5分くらい経ったかなあ。いやあ10分くらい? もっと経っていてほしい。キツいよ〜。っていうか、これ何分やるんだ? 早く終われ〜。なんだかお腹すいたなあ。今日のご飯なんだろ。帰ったらビール飲みたいなあ~。……
 
いかんいかん、呼吸と背筋に集中。
 
こんな調子で、私はまったく無になれなかった。それが呼吸と背筋に現れていたのだろう。棒で肩をちょんちょんと叩かれた。ついに来た……。こうされたら、首を左に傾ける約束だ。その直後に、バシッと喝を入れられた。
 
座禅は体感で20分くらいだったが、なんと40分もあったという。初めてやることは時間が早く流れるって本当なんだな。40分の中で、おそらく3分にも満たないが、「何にも執着していない」時間が確かにあった。想像していなかったのだが、その時間はめちゃくちゃ爽快だった。
風が気持ちいいなあ。……
鳥が鳴いているなあ。……
お分かりいただけるだろうか。ただ風と、鳴き声を感じただけだ。何にも執着していない状態だ。
生徒がうるさかったとか、これからの授業をどう進めようとか、過去や未来のことを考えていたときには全く気付かなかった心地よさだった。
風の心地よさは、まるで私をなでてくれているようで、鳥の鳴き声は、まるで綺麗なオルゴールを聞いているようだった。私の五感ってこんなに感じられるんだ。五感で感じる風や鳥の鳴き声は、こんなに気持ちがいいものなんだ。これは新しい発見だった。
 
それから、私は過去や未来にとらわれまくっていることに気がついた。私はかけがえのない、今という瞬間を見向きもせず、過去や未来のことばかりに執着していたのだ。生徒がうるさくてムカついた過去も、授業の進め方を考える未来も、今、ここにあるわけではない。そんなものは自分の頭の中だけしか存在していない。「今、この瞬間」を生きる私とって、何も関係がないはずだ。
 
あなたにも思い当たる節がないだろうか。現代社会で生きる私たちにとって、イライラ、モヤモヤを避けて通ることはほぼ不可能だ。けれども、その大多数が過去や未来に由来するものではないだろうか。とっくに過ぎたことでむしゃくしゃしたり、実際起こるかどうかも分からない事態にくよくよしたり。余裕がない時なんて、まさにこんな状態ではないだろうか。私たちは、過去や未来のことを適切に処理しながら、「今、この瞬間」を生きられるほど器用ではないのだ。じゃあ、どうすればいいのか?答えはシンプルだ。過去や未来について考えなければいい。「今、この瞬間」にだけ注目して、懸命に生きることだ。
 
過去や未来について考えることを、完全に否定したいわけではない。失敗したら、その原因を突き止めるべきだし、成功したことも生かしてどんどん活躍すればいい。未来に起こることを予測して、適切に予防策を立てることも大切だ。私が言いたいのは、自分をネガティブな感情に引っ張る過去や未来のことは考えなくていいということだ。マイナスな感情に支配され、「今、この瞬間」の幸せに気付けないなんて、なんてもったいないことだろう。風と鳥の鳴き声ですら、私を心地よく、幸せにさせてくれるのだ。あなたを苦しませているのは、「今、この瞬間」ではなく、ありもしない過去や未来ではないだろうか。
 
空想の過去や未来にとらわれて苦しいときは、おいしいごはんを食べて、あったかいお風呂に入って、ゆっくり寝よう。五感をフルに働かせて、心地よさを感じられたら、「今、この瞬間」に生きる幸せをしっかり受け止めよう。私は今、この瞬間を生きられてとても幸せだ。あなたは今、幸せですか?
 
 
 
 
***

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2021-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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