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痛みとともに「ポイっ」と出会った一生のお付き合い


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河口真貴子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
今朝はいつもより硬直が激しい。
ふぅ。まずはいつも通り朝一の牛乳でも飲もうか。
ベットから起き上がった。
 
少し変な形になった指を使って、冷蔵庫の取っ手に手をかけた。
と、平たいフローリングで足がもつれてバランスを崩し、指を冷蔵庫の取っ手に引っかけしまった。
 
「うぎゃっ!ぃたっ!」
 
思わず、悲鳴を上げ、手を抱えてうずくまった。
今までで一番痛い。
変な形に硬直した指を引っかけて、無理に元に戻してしまったのだ。
 
30歳の誕生日を六本木の高層ビルの35階で、徹夜明けで迎えた。
 
30歳になるころには、当然分かり合えるパートナーもいて、もしかしたら結婚もしているのかも、などと20歳ぐらいのときはお気楽に想像していたものだ。
 
そんな想像とは正反対に、30歳の誕生日は、眠らないオフィスで迎えたのだった。
パートナーなどおらず、仕事・仕事の日々。
妙にいつでも活気づいているオフィス。異様な緊張感、異様な熱気。
そんな中でも転職で入社して半年の私の誕生日を社長がケーキでお祝いしてくれた。だが、私のホールケーキに気を止めてくれる人は一人、二人。
それほど当時は忙しかった。
 
そんな誕生日から4か月ほどたった、いったん忙しさが落ち着いたころに、気になるようになった。
指が腫れている。
会社へ行くのに履きなれたハイヒールも、駅に向かうまでのわずかな間に足の指や指の付け根が痛くて、歩くのもままならない。
 
ネットで調べると、「関節リウマチ」などという病名が引っ掛かった、リウマチ? おばあちゃんがなる病気か?
 
きれいな恰好をして気分を上げ上げにして会社に行くのが楽しかったのに、ハイヒールがはけないなんて。それだけでもショックなのに、「関節リウマチ」だと?
何度調べても「関節リウマチ」以外、該当しそうなものが出てこない。
 
そうこうしているうちに「朝のこわばり」と呼ばれる症状が出始める。
 
朝起きると硬直している指。それをお風呂に入って溶かすようにほぐす。
そのころにはハイヒールを履くのをあきらめていた。ハイヒールを履くと歩けないほど痛いからだ。
朝、靴を選ぶとき、今日は履けるかな、と足を入れるものの、痛みがでるので恨めしく思いながら、ぺったんこ靴を手に取る。
 
さすがに観念して、近くの町医者にかかった。
 
血液検査の結果、医者は「関節リウマチですね」と大したことではないような口調で、告げた。そして何の説明もなく、さらっと、その薬を処方してきた。
 
処方されたその薬には赤い文字で「1週間のうち、決められた日にだけ服用してください」と書いてあった。普通の薬じゃない。空恐ろしく感じた。
 
赤い字で注意書きがあるような薬を「ポイっ」と、これでも飲んどいて、と言わんばかりに。
家に帰ってじっくり病気について調べた。
 
ポイっと処方された薬はその薬の影響がでている間は妊娠したりしてはいけない、いわゆる禁忌。
 
血の気が引いた。
 
そして若年性関節リウマチというものがあることも分かった。若年性は30歳ぐらいから発症する、と。
 
ドンピシャだ。
 
今から10年ぐらい前なので、まだ関節リウマチが厚生労働省の難病指定になっている時期だった。今まで、のほほんと病気とはほぼ無縁で生きていたが、ついに来たか。しかも難病か。
 
温泉の効能で「リウマチ」という言葉がよく出てくるが、これは流れるように体中どこでも不調をきたす、よくわからないものの総称で使われている。
私が発症してしまった「関節リウマチ」は体の関節がこわばったり、硬直する症状がでる。これは自己免疫疾患の一種で、自分の免疫が関節を攻撃して破壊する、という病気だった。攻撃して破壊するのを放置しておくと、関節が本当に動かなくなってしまうらしい。いまでは放置せず早期発見早期治療が定石となっている。
自己免疫疾患は様々な病気があるようだが、それらを総称して膠原病というらしいことも知った。
 
「朝のこわばり」は朝起きると、指の関節が変な風に凝り固まっている、曲がったまま動かなくなっているような症状だ。
 
あの町医者には二度と行かず、自分で調べて見つけた膠原病内科のある大学病院にかかることにした。
大学病院では、本当に関節リウマチなのか? 確認ができるまで薬は出さない、いわれた。年頃の女性がホイホイ飲む薬ではない、と。
その大学病院の先生を信頼した。
 
だが、なかなか、「関節リウマチ」という診断は下らなかった。
血液検査での炎症反応がないためだった。
本当に痛いのか? 先生たちの疑いの目を向けてきたが、私も負けずに痛い痛いアピール。その結果、関節をエコーでみて炎症が起きているか、確認することとなった。10年前だと割と新しい検査方法だったように思う。
 
診断がつかない間に、症状は進行していた。
 
ハイヒールもはけない、少しきつめの補正下着の脱ぎ着も半べそ書きながらやる始末。手首に力がうまく入らない、踏ん張れないのだ。ペットボトルのキャップさえも開けられなくなっていた。
 
まさに日常生活がままならない状態となったのだ。
 
エコー検査のおかげで、ついに「関節リウマチ」の診断が下った。
 
晴れて、あの、「ポイ」っと処方された薬のお世話になることとなった。
最初に処方されたときには飲むのが嫌だった薬も、やっと飲むことに許可が出たことに安堵していた。
 
この薬を飲んでいる限り、女としての価値はきっと失う。欠陥品だ。
でも痛みがなくなるなら、何物にも代えられない。
 
今ではあの、「ポイ」っと処方された薬のおかげで、何不自由ない生活を送れている。
 
発症する少し前に始めた趣味の乗馬に打ち込む毎日を送っている。
 
5年ほど前に縁があって、ある馬を買った。
馬を持つ決断の一端はこの病気があったかもしれない。
 
ある意味、私の人生のパートナーのような存在だ。
 
おしゃれなハイヒールに未練はない。
 
「関節リウマチ」に端を発した苦しく辛い思いは、租借されるまでは、ずるずる引きずっていたが、引きずって時を過ごしていくうちに、かみ砕かれて、租借され、飲み込んで、まだ飲み込み切れていない部分もあるが、それらも含めて愛おしい自分の一部だ。
これを抱えて生きていけばいい。
 
元気にスニーカーを履いて今日も大好きな馬に会いに行く。
 
 
 
 
***

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2021-06-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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