メディアグランプリ

恐ろしいのは犬という魔物


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記事:かりんとう(ライティングゼミ日曜コース)
 
 
愛犬家、という人種がこの世にいる。文字通り、犬を愛してやまない人達だ。希少な人種と思う方も多いかもしれない。だが実は世の中は愛犬家で溢れている。まさかと思うならためしに犬を連れて散歩してみてほしい。これまで道端ですれ違うだけだった人達が、急に声を掛けはじめるはずだ。
 
「かわいいですね!」
「何歳ですか?」
「触ってもいいですか?」
 
相手が犬でなければ平手打ちされそうな挨拶を引っさげて、人懐っこい笑顔を添え近づいて来る、彼らこそが「愛犬家」。普段は一般人に紛れてひっそりと暮らしているが、犬が視界に入ると、怪獣を見つけたときのウルトラマンのように彼らは急に一般人の仮面を脱ぎ捨て、主役級の輝きを放ち始める。わくわくが外にダダ洩れなのだ。
 
そんな人種がいる一方で、わたしはといえば犬にまつわる世にも恐ろしい記憶が脳内にこびりついている。
あれば小学5年生のとき。コリー犬という茶色のふさふさの毛でセレブっぽい雰囲気の犬を飼っている友達がいた。初めてその子の家へ遊びに行った日、家の前で友達3人でおしゃべりをしていたときのこと。まさかこれから恐ろしいことが起こるとは知る由もなく、昨日見たテレビがどーだとか、クラスで誰がかっこいいとか、そんなたわいもない話をのんきにしていたそのときだ。
ふいに、家の影からコリーが外に飛び出してきた。
しかも私達に向かってまっしぐらに走って来る!
 
「きゃー!」
 
その走る勢いに驚いて、3人で道路を走って逃げた。一目散に逃げていた、はずだった。ふと気が付くと、友達ふたりはそれぞれ道の脇にうまく隠れてコリーをやり過ごし、残る標的は私だけになっているではないか!
 
どちらかというと鈍くさいわたし。なんの因果で犬と競争をする羽目に……! とにかく必死で走る。
と、運の悪いことに道路の石につまづいてしまった。痛い! 膝から血が滲む。
 
「ぎゃー!」
 
叫んだのと、コリーに追いつかれたのとは、ほぼ同時だった。
コリーは私に馬乗りになり、噛み付いてくる!
死んだ、と思った次の瞬間。
生温かい感触。
わたしは、コリーに顔をぴちゃぴちゃと舐められていた。
 
すぐに友達が追いかけて来て、馬乗りになったコリーをなだめすかし、家へ連れ帰ってくれた。
「自分だけ隠れて、この裏切者めー!」と内心思っていたけれど、助けてくれたから文句は言えない。ただ、その子の家に近寄ることは2度となかった。
この体験は小学生の胸に強烈に残り、「犬はなにをするか分からない」となるだけ犬を避けて生活をしてきた。(ついでに、「女子はいざとなると裏切る」も座右の銘にランクイン)
 
それなのに、だ。
人生は何が起こるか分からない。
なんの因果か、現在わんこと暮らすようになっている。
それも、わんこが暮らしの中心にいる。
 
きっかけは、よくあること。小学生の娘達がどうしても犬を飼いたいと言い出したのだ。友達の家には犬がいて、どの子もとてもかわいいのだと。犬と暮らすことで子ども達の情緒が安定したり、という良い側面があることも知ってはいるが、しかし相手は生き物。しかも10年は生きる。ここでの選択が今後10年を変えてしまう。そう考えると慎重にならざるを得ない。(その上、犬は苦手だ。母のわがままと思われないよう、これは隠しておく)
 
犬がいると家は臭くなりそうだし、散歩も掃除もトイレの世話も、なにもかもが大変そうである。娘達には「あなた達のお世話だけで精一杯」と断っていたのだが、「飼いたい、お世話はする、トイレの掃除もする」と言われ続けること1年間、ついに根負けして、必ずお世話をするのなら、との条件付きでわんこが家にやって来たのだった。きっと、同じようなご家庭も多いことだろう。そして、あれほど熱心になんでもするから、と言った子ども達は次第に世話をしなくなり、結局親がお世話係となるのも、既定路線。仕方がない。犬を飼うとはそういうものなのだ。と自分に言い聞かせている。
 
そうして家にやって来たのは、フレンチブルドッグという犬種。耳がピンと立ち、白地に茶色のぶち模様。家族のことが大好きで、すりすりと寄ってきて膝に座る。やりたいことをして、やりたくないことはイヤがる。そんな素直な姿に癒され、匂いに癒され、毛が抜けるなんてささいなことに思えてくる。わんこのごはんを作り、散歩の時間を作り、お膝で過ごす時間を作る。それほど、わんこには抗えない魅力があった。そう、うちのわんこはかわいい。
 
今なら、あのときのコリーの行動は説明できる。犬は本能的に動くものを追いかける習性がある。その上、私達が「きゃー!」なんて大声上げたものだから、「なにか楽しいことがある!」と興奮してしまったに違いない。
先頭を走っていた私を大喜びで追いかけ、「好き好き! 遊ぼう!」と顔をぺろぺろ。もしかしたら涙の味が美味しかったのかもしれない。理解ができると、恐怖感はなくなっていった。
 
さて、うちのわんこがかわいいと、よそのわんこが気になってくる。散歩中のわんこを見ると、声を掛けたくてむずむずしてくる。「かわいい!」気が付くと心の声がダダ洩れだ。まだ若そう、何歳かな。あのもふもふの毛を触ってみたいな。テンションはマックスに駆け上がる。そう、私も気が付くと「愛犬家」へと変貌を遂げていたのだった。ああ、おそろしや、犬は魔物だ。こうしてまたひとり、愛犬家という人種が人口を増やしていく。
 
 
 
 
***

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2021-06-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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